第21話:【鋼の進軍と、瓦解する境界】
騎士団が全滅し、静寂を取り戻した森。 高橋翔太は、自身の拳を握り、解き放たれた「力」の残滓を確認していた。 レベル10。その数字がもたらした変貌は、以前とは比較にならない。
[レベル:10に到達。] [身体密度の極限上昇を検知しました。] [スキル:『金剛の呼吸』が自動発現。物理・魔法耐性が30%底上げされます。]
視界に浮かぶシステムメッセージが、彼の肉体がもはや人間という枠組みを超えつつあることを冷徹に告げている。 翔太が地面を一歩踏みしめるたび、柔らかな腐葉土が岩盤のように固まり、周囲の空気が振動した。
「高橋さん……。その、身体から漏れ出ている魔力……。まるで、巨大な結界そのものが歩いているようです」
リーズが、畏怖と羨望が混じった瞳で彼を見上げた。 彼女にとっての絶望だったヴァルハイト家の精鋭たちが、今はただの「瓦礫」のように横たわっている。
「リーズ、案内を続けてくれ。……奴らの本拠地はどっちだ?」
「……この森を抜けた先、断崖の上にそびえ立つ『白銀の塔』。そこが一族の居城です。守護魔導師たちが幾重にも障壁を張り巡らせており、軍隊ですら容易には近づけません」
リーズはそう言いながら、自身の右腕に刻まれた「不浄の烙印」をさすった。 それは家族から押し付けられた、一生消えないはずの呪い。 だが、隣を歩く男の横顔を見ていると、その呪いさえもが脆い虚飾のように思えてきた。
「障壁か。……なら、正面から壊すだけだ」
街道を進む二人の前に、次なる「障害」が現れた。 ヴァルハイト家が領地の境界に配置している自動迎撃兵器、「魔導守護兵」。 三メートルを超える岩石の巨躯に、あらゆる物理攻撃を弾く強化魔法が刻まれた、文字通りの動く城塞だ。
「侵入者……排除。魔力適正……不浄と……異常。抹殺を開始……」
ゴーレムが重厚な音を立てて腕を振り上げる。 リーズが反射的に防御魔法を展開しようとしたが、それよりも早く、翔太が前に出た。
「リーズ、下がってろ。……こいつは、俺が試したい『力』に丁度いい」
翔太は回避の構えすら取らない。 ゴーレムの巨大な岩の拳が、空気を引き裂きながら翔太の脳頭めがけて振り下ろされた。
ズドォォォォンッ!!
爆震が街道を揺らし、土煙が舞い上がる。 リーズが悲鳴を上げそうになったその時、煙の中から信じられない光景が浮かび上がった。
翔太は、片手すら使っていなかった。 ただそこに立ち、肩でその一撃を受け止めていたのだ。 彼のスウェットの肩口は裂けたものの、その下の肉体には、傷一つついていない。逆に、硬質な岩石でできたゴーレムの拳の方が、衝撃に耐えきれず細かな亀裂を走らせていた。
「……硬いな。だが、それだけか?」
翔太の瞳が、冷たく光る。
[アクティブスキル:『重力衝突』を起動。] [エネルギー充填率……100%。]
翔太が、初めて「本気」の拳を繰り出した。 大振りではない。ただ、最短距離でゴーレムの胸部へ叩き込んだ。
バキィィィィィィンッ!
森全体を震わせるような、硬質な破壊音が響き渡る。 ゴーレムの背中から、圧縮された空気の塊が突き抜けた。 次の瞬間、物理耐性を誇っていた岩石の巨躯が、内部から爆発するように粉々に砕け散った。
[ターゲットの完全沈黙を確認。] [経験値を獲得しました。]
砕け散った岩の破片が降り注ぐ中、翔太は無造作に拳の埃を払った。 殺気はない。ただ、圧倒的な「質量」の差を見せつけただけだ。
「あ……。あんな、一撃で……」
リーズは、言葉を失って立ち尽くしていた。 あれは魔法ではない。ただの純粋な力。 だが、その力はどんな高度な魔導よりも美しく、そして残酷なまでに公平だった。
「リーズ、行くぞ。……門が見えてきた」
翔太の視線の先。 霧の向こうに、かつてリーズをゴミのように捨てた「白銀の塔」が、傲慢な姿を現し始めていた。




