第19話:【無自覚な熱量と、狂宴の幕開け】
現実世界の午前。翔太の狭いアパートは、炊き立ての米の香りと、少しだけ甘い卵焼きの匂いに包まれていた。 陽葵は、キッチンで鼻歌を誤魔化しながら、特大のおにぎりを握っていた。かつての「引きこもりの幼馴染」を元気づけるためという口実の裏で、彼女の胸は、別人のように精悍になった翔太への期待で騒がしかった。
「はい、お待たせ! 特製おにぎりと、スタミナスープ。……ねえ、翔太。そんなに食べて、本当にお腹に溜まるの?」
陽葵は、わざとらしく隣に座り、おにぎりを差し出す際に、翔太の太い腕に自分の腕をそっと擦り寄せた。 触れた瞬間に伝わる、岩のような硬度と、尋常ではない熱量。 陽葵の顔が、火照る。彼女はさりげなく「ねえ、ちょっと筋肉見せてよ。どれくらい硬くなったか気になるし」と、冗談めかして彼の二の腕を指先でなぞった。
「……ああ、悪い。まだ自分でも力の加減が分からなくてな」
翔太は無自覚に、陽葵の指を受け入れながら、山のような食事を胃に流し込んでいく。 陽葵は、彼の首筋から立ち昇る熱気に当てられ、視線を泳がせた。かつては馬鹿にされていたその「重さ」が、今は抗いがたい男の魅力として彼女を侵食していく。
「……あたし、明日も来るからね。あんた、一人だとまともに栄養摂らなさそうだし」
遠回しなアピール。だが、今の翔太は生命維持のための摂取に必死で、彼女の潤んだ瞳に隠された意味に気づく余裕はなかった。 食事を終え、圧倒的な睡魔が訪れる。 陽葵が「あ、ちょっと、翔太……!」と声をかけるのも間に合わず、彼は深い眠りへと沈み、意識は再び「あちら側」の殺伐とした空気に切り替わった。
── 異世界の激震、あるいは鉄槌の蹂躙
目を開けた瞬間、視界を埋め尽くしたのは、漆黒の夜空と、四方から放たれた無数の「光の矢」だった。
「高橋さん、右です!」
リーズの叫び声が響く。 翔太は反射的に地を蹴った。 現実世界で陽葵の食事を摂取した直後の肉体には、暴力的なまでのエネルギーが充填されている。
ドォォォォンッ!
翔太が踏み込んだ地面が爆ぜ、彼は音速に近い速度で光の矢を回避した。 そのまま、闇の中に潜んでいたヴァルハイト家の魔導騎士団へと突撃する。
「な……貴様、あの重量でなぜそれほどの速度が……ッ!?」
騎士の困惑を、翔太の鉄拳が粉砕した。 防御魔法の障壁ごと、騎士の身体を大樹へと叩きつける。 骨が砕ける不快な音が森に響き、翔太は止まることなく次の標的へと方向を転換した。
「リーズ、援護はいらない。……全部、俺が叩き潰す!」
翔太の身体から、青白い魔力の残光が溢れ出す。 彼はもはや盾を持つだけの戦士ではない。彼自身が、あらゆる障害を粉砕する巨大な「質量兵器」と化していた。
襲いくる三人組の騎士。彼らは高度な連携で、翔太の四肢を縛る「拘束魔法」を展開する。 だが、翔太はそれを鼻で笑った。 筋肉を膨張させるだけで、魔力の鎖がガラス細工のように弾け飛ぶ。 そのまま、驚愕に顔を歪める騎士の顔面に、重力を乗せた踵落としを叩き込んだ。
地響きと共に地面に巨大なクレーターが刻まれる。 辺りには、魔導具が破壊される火花と、騎士たちの悲鳴が交錯していた。
リーズはその圧倒的な蹂躙劇を、震えるような高揚感と共に見ていた。 自分を「ゴミ」と呼び、捨てた一族の誇り高き騎士たちが、目の前の男によって文字通り、ゴミのように掃き溜められていく。
「……化け物め! 総員退避、これは人間に相手ができる相手では――」
逃げようとする指揮官の背後へ、翔太が瞬時に回り込む。 逃がさない。自分を、そしてリーズを、泥の中へ突き落としたこの世界の「悪意」を、彼は何一つ許すつもりはなかった。
翔太は騎士の首根っこを掴み、そのまま岩壁へと叩き伏せた。
[戦闘継続を確認。] [最適化を再実行……レベルアップが加速します。]




