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第15話:【剥き出しの傷跡と、微睡みの共有】

異世界の深い森の奥、巨大な樹木の根元。 追跡者を屠った後の静寂の中で、高橋翔太はリーズを横抱きにしたまま、雨を凌げる中空の巨木へと身を寄せた。


リーズの呼吸は荒く、魔力回路を強引に回した反動で身体が小刻みに震えている。 翔太は、彼女を乾いた落ち葉の上にそっと横たえた。


「……あ、りがとう、ございます……。ごめんなさい、私が、もっと強ければ……」


リーズが力なく、折れそうな指先で翔太のスウェット(異世界では奇妙な衣服に見えるが、今の彼女には何よりも頼もしい盾に見えた)を掴んだ。


「謝るな。お前が時間を稼いでくれなかったら、俺は寝首をかかれてた」


翔太はそう言って、リーズの震える手を大きな掌で包み込んだ。 彼の体温は、現実世界でエネルギーを摂取した影響で、驚くほど高い。 冷え切っていたリーズにとって、その熱は魔法よりも早く、彼女の凍てついた心を溶かしていった。


「高橋さん。……私は、王宮魔導師の家系なんです。でも、生まれつき魔力に毒が混じっていて、回路が歪んでいる……。家族からは一族の恥だと、王家からは不浄の呪いだと疎まれてきました」


リーズは自嘲気味に笑い、視線を落とした。 名門に生まれながら、使い捨ての道具として迷宮へ放り込まれた少女。 その孤独と絶望は、現実世界で「デブの引きこもり」と蔑まれてきた翔太のそれと、酷似していた。


「家系も身分も、この泥の中じゃ何の意味もない。……お前は俺を守った。それで十分だ」


翔太の言葉は無骨で、飾り気がなかった。 だが、誰からも認められなかったリーズにとって、それは生まれて初めて受けた「全肯定」だった。 彼女は翔太の掌に頬を寄せ、微かな安心感の中で深い眠りへと落ちていった。


[宿主の精神疲労を検知。] [現実世界への意識再転送を開始します。……睡眠サイクルに移行。]


翔太の意識が、急速に引き剥がされていく。


次に目を開けたとき、視界に入ったのは古びた天井の木目だった。


「……ん」


身体を起こそうとして、異世界の「鋼の肉体」がそのまま現実のベッドに重く沈み込んでいるのを感じる。 隣から、小さく「あ」という声がした。


「翔太……起きたの?」


陽葵だった。 彼女は帰らずに、翔太の食事の片付けを済ませ、パイプ椅子に座ったまま彼の寝顔を見ていたらしい。 朝日が差し込む部屋の中で、陽葵の瞳には少しの隈と、それ以上の深い情愛が宿っていた。


「……ずっと、ここにいたのか」


「だって……。あんた、寝てる間にすごい熱出して、うなされてたんだもん。心配で帰れるわけないじゃない」


陽葵が立ち上がり、翔太の額に手を伸ばす。 その瞬間、翔太の首筋から立ち昇る、陽炎のような熱気に陽葵が息を呑んだ。


「……まだ、熱いわね。あんたの身体、本当におかしいわ。まるで、内側で何かがずっと燃えてるみたい」


「……悪いな、陽葵。いつも苦労をかける」


翔太が不器用に謝ると、陽葵は少しだけ顔を赤らめて視線を逸らした。 彼女の目に映る翔太は、もはや「幼馴染」という枠に収まりきらない、圧倒的な「強者」の風格を纏っていた。 スウェットからはみ出した首の太さ、鋭くなった鎖骨、そして何より、自分を真っ直ぐに見据える瞳。


「苦労なんて……。あたし、あんたが普通に戻ってくれるなら、なんだってするわよ。……でも、今の翔太は、普通じゃない。……すごく、かっこよくなっちゃって、あたしの方が緊張しちゃうわよ」


陽葵は冗談めかして笑ったが、その手は微かに震えていた。 彼女は直感していた。翔太が今、自分たちには見えない過酷な戦場で、たった一人で「何か」と戦っていることを。


翔太は、陽葵の細い指が自分の熱い腕に触れるのを感じながら、静かに目を閉じた。 異世界で自分を護ろうとしてくれたリーズ。 現実で自分を信じて待っていてくれる陽葵。


二人の女性の想いが、翔太の肉体をさらに強く、硬く、研ぎ澄ませていく。


[身体機能の安定化を継続。] [レベル上昇に伴い、現実世界での感知能力センスが覚醒しました。]

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