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第12話:【飢餓の咆哮と、守護の拒絶】

現実世界の六畳一間。 陽葵ひまりが差し出した手の熱を感じながら、翔太の胃が、突如として猛獣のような唸り声を上げた。


「……っ」


それは、今まで経験したことのないたぐいの空腹だった。 レベルが上昇し、細胞の密度が劇的に高まった代償。肉体を維持するための燃料が、枯渇し始めていた。


[警告:体内エネルギーが危機的レベルまで低下しています。] [速やかな栄養摂取を推奨。筋肉の分解カタボリズムを停止してください。]


視界の端で赤く点滅するシステムメッセージ。翔太の顔から血の気が引いていく。 あまりの空腹に、目の前の陽葵が美味しそうに見える――そんな、人間性を踏み外しかねない本能的な飢えだった。


「翔太? 顔色が悪いわよ……。もしかして、本当にお腹空いてるの?」


「……悪い。何か、食べさせてくれ。あるもの、全部だ」


陽葵は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「任せなさい」と言ってキッチンへ飛び込んだ。 翔太が引きこもっていた間に溜まっていた、カップ麺や期限切れ間近のレトルト食品。陽葵はそれらを片っ端から開封し、手際よく調理し始める。


「ちょっと待ってて。……あんた、自分を追い込みすぎなのよ。格好良くなったのはいいけど、倒れたら意味ないじゃない」


キッチンから聞こえる包丁の音と、香ばしい匂い。 かつては当たり前だった日常の音が、今の翔太には、遠い異郷で聞く音楽のように尊く感じられた。 彼はテーブルに手をつき、荒い呼吸を整える。


(……俺は、この世界を守るために、あっちで戦ってるのか?)


まだ答えは出ない。ただ、キッチンで立ち働く陽葵の背中を見ていると、異世界で背負わされた「泥濘ぬかるみの底」のような絶望が、少しずつ浄化されていくような気がした。


一方、その頃──異世界の深い森。


[宿主のエネルギー不足を検知。] [休眠モードを維持します。……外部からの干渉を確認。]


森の静寂を切り裂き、銀色の鎧を纏った騎士たちが、無慈悲な抜剣音を響かせた。 「掃除屋」の一人が、地面に横たわる翔太を見下ろして鼻で笑う。


「おい見ろ。こいつ、これだけ近づいても起きやがらねえ。豚はどこまで行っても豚だな」


「ああ。隣の出来損ないの魔導師と一緒に、細切れにして森の肥やしにしてやろうぜ」


騎士たちが嘲笑と共に一歩踏み出す。 その前に立ちはだかったのは、魔力不足で顔面蒼白になったリーズだった。


「……そこから、動かないで」


リーズの持つ杖の先が、激しく震えている。 彼女の魔力回路は、王家による「呪印」によって常に苦痛を伴っていた。無理に魔力を使えば、内側から身体が焼き切れる。


「どけ、リーズ。お前もかつては名門の出だろう。ゴミを庇って死ぬのが、お前の最後の矜持か?」


「……ゴミじゃ、ありません」


リーズの瞳に、静かな火が灯る。 この男は、自分が一番辛い時に、理由もなく手を差し伸べてくれた。 「お前を連れて行く」と言ってくれた。 そんな彼を、自分自身の保身のために見捨てることなど、彼女の魂が許さなかった。


「この人は……私に、初めて名前を呼んでくれた人なんです。……あなたたちのような、心を捨てた人形に、触らせはしない!」


リーズが叫ぶ。 瞬間、彼女の細い身体から、歪な、しかし強烈な青白い魔力の奔流が溢れ出した。 回路が悲鳴を上げ、彼女の鼻から一筋の血が伝い落ちる。


「……死ねぇッ!」

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