ジゲン物語 〜憩いのきらきら星〜
はるか昔、ジゲンとジゲンをつなぐゲートは、今ほど使われていませんでした。くぐれば体のどこかが欠けてしまうかもしれない、別のジゲンヘ着くまでに魂を奪われるかもしれない、など、恐ろしいうわさが広まっていたのです。ジゲンを旅することは、昔はそれほど怖く、命がけだったのです。
そんな時代に、ジゲンⅠに旅人がやってきました。旅人は常に光り輝いており、住人にとっては、うとましい存在でした。
「そなたが、旅の者か」
ただ一人だけ、旅人に関心を寄せる住人がおりました。
「はい。ですが、ここでは私はいらないようです」
旅人はさびしく笑いながら、ひざを隠しました。
「衣が破れていなかったか、それに汚れている」
「何かの見間違いでしょう」
石を投げたか。住人は、誰とは知らぬ旅人を傷つけた者に怒りを覚えました。
「私の力が、皆様には怖いのでしょう」
旅人が左手のひらを空へ向けると、黄金の粒がらせんを描いていました。
「私は光を生み出せます。このジゲンにあかりを灯そうとしたのですが……しかられてしまいました」
「ほう……、そなたは何故、力を使ったのだ?」
「このジゲンに住む方々は、真っ暗闇の世界で暮らせる『目』を持っていらっしゃいます。ですが、中には『目』を上手に使えない方々もいらっしゃり、けがをされることがあります」
「すなわち、『目』を上手く使えぬ者の為に、力を使ったのだな」
旅人はゆっくりうなずきました。
「良かれと思ってしたことが、このジゲンの方々にとっては迷惑だったようです」
ジゲンⅠの住人からの言葉は、旅人の心に痛いほど刻みついていました。「弱者を助けるなど、愚の骨頂」「『目』を使いこなせぬ者を甘えさせてどうする」「他所者が余計な手出しをするな」
「わしはそう思わぬがな」
住人は、旅人の隣に身を横たえました。
「力に差ができておれば、揃える工夫をするがわしの役目ぞ。わしに気づきを与えてくれて、感謝する」
さらに住人は、旅人の冷えた手をとりました。
「そなたに、頼みがある」
「私にできるのなら」
住人は、体を斜め上へ反らしました。
「あそこに尖った大きな岩がある。そなたの力で、岩を光らせてもらいたい。いつまでも邪険に扱われて、わしはつらくなっておる」
岩の形は、旅人にとって見慣れたものでした。旅人は背筋を伸ばして、遠くの岩へ語りかけるように呪文を唱えました。
「ニキヤゲミア・レノリカヒナ」
五つの突起を持つ岩は、黄金に光り、黒いジゲンに灯りをもたらしました。
「今日よりこの地は『目』の扱いが難しき者達に捧げよう。感謝するぞ、旅の者よ」
光る岩は、旅人により「憩いのきらきら星」と名付けられました。今でも「憩いのきらきら星」は、ジゲンⅠのかたすみを照らしております。最初は不満に思う住人がほとんどでしたが、年月が経つとともに星を愛する住人が増えてゆきました。
旅人に声をかけた住人……実はジゲンⅠのスクエイアでした。後に旅人は、ジゲンⅡのスクエイアになり、ジゲンⅠのスクエイア、他のスクエイアと共に、ジゲンを守るために力を尽くすのです。
あとがき(に代わるもの)
「うーい、早よ起きんかい」
「…………ふむ」
ジゲンⅠの王は、うたた寝から覚めました。
「俺んとこのストーブがごっつあったかいからってな、長居してええ理由にはならんで」
「すまぬ」
王は、半年前より立体と緑の世界ジゲンⅢにいます。小さな島国の、さらに小さな、田舎とも都会ともいえない町の中学校で数学を教えていました。
一緒に働く美術の先生は、遠慮なくいろいろ話しかけてくれるので、王はありがたく思っています。
「昔の記憶を、夢に見ておったのじゃ」
美術の先生は、ストーブであぶっていた干し芋を食べながら聞いていました。
「教皇が初めて我がジゲンを訪れた日ぞ。あの頃はまだ、教皇に就く前じゃったな。わしは戴冠式を済ませたばかりでのう」
「あんたらが、ぺーぺーのぱーぱーやった時か」
王は分けてもらった干し芋を一口かじりました。
「俺、二年くらい国内ぶらついて教職になったけど、寝坊しまくってたな。朝早うなんて、起きられへんかった。しょっちゅう授業入れ替えてもらってたんや!」
奔放な彼らしいエピソードだ。王は黒々と生い茂った髭をいじり、口角を上げた。
「誰しも、若葉の時代があるのじゃ」
王は、甘い干し芋を噛み締めたのだった。




