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ジゲン物語 〜憩いのきらきら星〜

作者: 八十島そら
掲載日:2025/12/25

 はるか昔、ジゲンとジゲンをつなぐゲートは、今ほど使われていませんでした。くぐれば体のどこかが欠けてしまうかもしれない、別のジゲンヘ着くまでに魂を奪われるかもしれない、など、恐ろしいうわさが広まっていたのです。ジゲンを旅することは、昔はそれほど怖く、命がけだったのです。


 そんな時代に、ジゲン(ワン)に旅人がやってきました。旅人は常に光り輝いており、住人にとっては、うとましい存在でした。

「そなたが、旅の者か」

 ただ一人だけ、旅人に関心を寄せる住人がおりました。

「はい。ですが、ここでは私はいらないようです」

 旅人はさびしく笑いながら、ひざを隠しました。

(ころも)が破れていなかったか、それに汚れている」

「何かの見間違いでしょう」

 石を投げたか。住人は、誰とは知らぬ旅人を傷つけた者に怒りを覚えました。

「私の力が、皆様には怖いのでしょう」

 旅人が左手のひらを空へ向けると、黄金(おうごん)の粒がらせんを描いていました。

「私は光を生み出せます。このジゲンにあかりを灯そうとしたのですが……しかられてしまいました」

「ほう……、そなたは何故(なにゆえ)、力を使ったのだ?」

「このジゲンに住む方々は、真っ暗闇の世界で暮らせる『目』を持っていらっしゃいます。ですが、中には『目』を上手に使えない方々もいらっしゃり、けがをされることがあります」

「すなわち、『目』を上手く使えぬ者の(ため)に、力を使ったのだな」

 旅人はゆっくりうなずきました。

「良かれと思ってしたことが、このジゲンの方々にとっては迷惑だったようです」

 ジゲンⅠの住人からの言葉は、旅人の心に痛いほど刻みついていました。「弱者を助けるなど、()骨頂(こっちょう)」「『目』を使いこなせぬ者を甘えさせてどうする」「他所者(よそもの)が余計な手出しをするな」

「わしはそう思わぬがな」

 住人は、旅人の隣に身を横たえました。

「力に差ができておれば、揃える工夫をするがわしの役目ぞ。わしに気づきを与えてくれて、感謝する」

 さらに住人は、旅人の冷えた手をとりました。

「そなたに、頼みがある」

「私にできるのなら」

 住人は、体を斜め上へ反らしました。

「あそこに尖った大きな岩がある。そなたの力で、岩を光らせてもらいたい。いつまでも邪険(じゃけん)に扱われて、わしはつらくなっておる」

 岩の形は、旅人にとって見慣れたものでした。旅人は背筋を伸ばして、遠くの岩へ語りかけるように呪文を唱えました。

「ニキヤゲミア・レノリカヒナ」

 五つの突起を持つ岩は、黄金に光り、黒いジゲンに灯りをもたらしました。

「今日よりこの地は『目』の扱いが難しき者達に捧げよう。感謝するぞ、旅の者よ」


 光る岩は、旅人により「(いこ)いのきらきら(ほし)」と名付けられました。今でも「憩いのきらきら星」は、ジゲンⅠのかたすみを照らしております。最初は不満に思う住人がほとんどでしたが、年月が経つとともに星を愛する住人が増えてゆきました。





 旅人に声をかけた住人……実はジゲンⅠのスクエイアでした。後に旅人は、ジゲン(ツー)のスクエイアになり、ジゲンⅠのスクエイア、他のスクエイアと共に、ジゲンを守るために力を尽くすのです。

 



あとがき(に代わるもの)

「うーい、早よ起きんかい」

「…………ふむ」

 ジゲン(ワン)の王は、うたた寝から覚めました。

「俺んとこのストーブがごっつあったかいからってな、長居してええ理由にはならんで」

「すまぬ」

 王は、半年前より立体と緑の世界ジゲン(スリー)にいます。小さな島国の、さらに小さな、田舎とも都会ともいえない町の中学校で数学を教えていました。

 一緒に働く美術の先生は、遠慮なくいろいろ話しかけてくれるので、王はありがたく思っています。

「昔の記憶を、夢に見ておったのじゃ」

 美術の先生は、ストーブであぶっていた干し芋を食べながら聞いていました。

「教皇が初めて我がジゲンを訪れた日ぞ。あの頃はまだ、教皇に就く前じゃったな。わしは戴冠式(たいかんしき)を済ませたばかりでのう」

「あんたらが、ぺーぺーのぱーぱーやった時か」

 王は分けてもらった干し芋を一口かじりました。

「俺、二年くらい国内ぶらついて教職になったけど、寝坊しまくってたな。朝早うなんて、起きられへんかった。しょっちゅう授業入れ替えてもらってたんや!」

 奔放な彼らしいエピソードだ。王は黒々と生い茂った髭をいじり、口角を上げた。

「誰しも、若葉の時代があるのじゃ」

 王は、甘い干し芋を噛み締めたのだった。


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