高嶺の花と雑草の俺
処女作です。
俺の名前は高宮光一。高校二年生だ。
俺には好きな人がいる。
彼女の名前は甘城ゆずな。同学年、別のクラスの女の子。
ちゃんと喋ったことは一度もない。
なら何故、彼女を好きになったかって? そんなの決まっている。
可愛い顔とルックス。明るく優しく面白い彼女は学校で誰もが噂する高嶺の花だ。
最初は完璧過ぎて嫌いだったが、とある出来事をきっかけに心を奪われた。
学校からの帰り道、お婆さんが買い物袋を盛大にぶちまけて中身が歩道に散乱した。
無視する通行人がいる中、たまたま近くにいた彼女は自分の荷物を下ろして一緒に拾い上げ始めたのだ。
これだけなら普通に優しい子だなと思った。
ところが自転車に乗った通行人が近くを通り、お婆さんの落とした長ネギを盛大に轢いて通り過ぎたのだ。轢いたことを気にも留めずにそのまま行こうとした後ろ姿に彼女は叫んだ。
「おい! 人のもの轢いて無視すんな!」
自転車に乗った男は一瞬彼女を見たが、すぐに前を向いてそのまま離れていった。
「あいつ……」
「ありがとう、お嬢さん。でもいいの。あたしが荷物を落としたのが悪いんだから」
「よくないですよ。ああいうヤツには怒らないと……」
怒る彼女を宥めるお婆さん。俺は遠目からしか見えなかったが、その光景から目を背けなかった。
なんて勇気があるのだろう。
俺が同じようにやられて怒ることができるだろうか。いや、できない。
俺は心の中で彼女を賞賛し、そして自分を呪った。
俺も遠目とはいえ気付いたんだ。走って近くに行き、拾うのを手伝い、そして自転車で轢いていった人に怒ることもできたのにそれをしなかった。
最初、彼女が完璧過ぎて嫌いだったが、それは自分の弱さに向き合わず、人を歪に見る自らの心の汚さを証明していただけだった。
その日は自己嫌悪に陥りながら、帰路についたのを今も覚えている。
あの日からだった。
困っている人がいたら、迷わず助け、酷いことをする人には怒ってやめろという。
そんな優しい勇気のある人に、彼女のような人になりたいと思ったのは。
俺には勇気がない。自信もだ。
学校で同級生と会話するときのことだ。話していると相手に嫌な思いをさせていないか、今、話しかけてもいいのか? 変な気遣い、余計な気配りをした結果、いつの間にか人に話しかけることが億劫になってしまった。
家で母さんの手伝いをした時もそうだ。洗ったばかりの洗濯物を運ぼうとバスケットカゴを運ぶのを代わったら、転んで盛大にぶち撒けた。母さんは笑って「大丈夫、ありがとう」と言ったが俺はただただ申し訳なかった。場所が悪く、埃がたまった場所に落としたものは、もう一度洗うことになった。
俺が手伝わなければ仕事が増えることもなかった。
そんなことを何回か経験し、下手に手伝おうと行動しなくなっていた。
変わりたい。
漫画やアニメに出てくるヒーローみたいになろうなんて思わない。
でもあいつ良いやつだ。優しいじゃん。そんな風に人に言ってもらえるような優しい勇気のある人になりたい。
人の評判を気にしている時点で、俺は本当の意味で優しい勇気のある人にはなれないと思う。
でも、このまま今の自分でいるのは嫌だ。
だから俺はできることから始めた。
まずは筋トレだ。
朝晩、腕立て伏せと、腹筋運動を行った。
次に家事の手伝いだ。
母さんが朝早く起きて、洗濯や料理をやっていたのを代わりに俺がやるようにした。
いつも5時前に起きてやっていたので、俺も目覚まし時計をセットして5時前に起きるようになった。
学校で重い荷物を運ぶ人や、困っていそうな人がいたら、手伝っていいかと声をかける。
まだ数回しか声をかけられていないし、迷惑をかけていないか、目立っていないか恥ずかしい気持ちで一杯だが、それでも何もしてないよりか、よっぽどマシだと思って声をかけ手伝う。
何回か「大丈夫だよ」と言われたときには余計なお節介だったと自己嫌悪する。
それでも声をかけること、手伝うことはやめない。雑草みたいに折れても何度でも起き上がる。
あの出来事から三ヶ月経つ。
今も継続して筋トレと手伝いをしている。
何か変わっていればいいけど、特段、何かが変わったことはない。
一つあるとすれば、彼女に恋をしていることだ。
接する機会がないから、話すこともないし、相手に認知されることもないが、彼女がきっかけで俺は変わろうと行動することができた。
お礼を言うのは筋違いかもしれないが、いつか話す機会があったら言いたい。
ありがとう、と。
俺はあなたがきっかけで変わろうと思えたことを。
雑草から高嶺の花へ、あなたのような優しい勇気のある人に、俺もなりたい。
最後まで読んでいただき、嬉しいです。
ありがとうございます。




