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side 女の子2人
「雪祈音、こっちは準備おーけーだよ」
「ふうちゃん、私も大丈夫だよ」
「今日も一日頑張っていこー!」
ふうちゃんと呼ばれた女の子が、穂が70センチ、柄が180センチ、全長2メートル50センチほどの薙刀――刃から刃文までが黄色、刃文から棟までが黒色。柄は黒色に黄色の虎柄模様――を空に向けて突き上げながら、元気よく声を出し歩き始めた。
「うん」
その後ろを雪祈音と呼ばれた女の子が六角形を縦長にして、半分に切ったような形で、雪祈音がすっぽり入るほどの大きさをした盾――黒色の線で五角形と六角形が描かれていて、五角形と六角形は青色に染められている――2枚を両手首と鎖で繋げ浮かし、背中を守るように展開されている。まるで亀のようだ。
自信なさそうに返事をしながら付いて行き始めた。
探索が始まると、元気よく声を出していたふうちゃんも自信なさそうに返事をしてた雪祈音も、別人のように緊迫感が伝わってくるほど真剣な顔付きになっていた。
「雪祈音アーチャーが2体、ランサーが1体、ソードが2体居るよ」
ふうちゃんは雪祈音に小さな声で敵の情報を伝えていた。
「じゃあ、わたしが先にアーチャー2体倒してから、ふうちゃんの援護でいいの?」
雪祈音は心配そうな顔をしながら、ふうちゃんに確認していた。
「うん、おーけーだよ。心配しなくて大丈夫だよ!」
ふうちゃんは自信満々に笑顔で答えていた。
「分かった。でも、気をつけてね」
「任せて! じゃあ、行くよ!」
「うん、【氷結の弩砲】」
雪祈音が太い氷柱を2本、アーチャーゴブリンに向けて放ったと同時に、ふうちゃんは走り出した。ゴブリン達がふうちゃんに気づいた時には、アーチャーゴブリン2体の胸に1本づつ突き刺さり倒れた。
ふうちゃんは止まると同時にランサーゴブリンに投擲した。薙刀はランサーゴブリンの首に突き刺さり倒れた。ソードゴブリン2体は、武器が無くなったふうちゃんに向けて薄気味悪くニヤつきながら走った。
ふうちゃんは何も持ってないがソードゴブリン2体が3メートルほどまで近づいた時、1歩踏み出し薙ぎ払う動作を始めた。
ソードゴブリンがバカにしたような表情をした時――ふうちゃんの手には薙刀があった。ガードするにしても、避けるにしても、もう遅く、首が斬り落とされていた。
「援護の必要なかったね」
雪祈音は安堵の表情をしながら、ふうちゃんに声をかけた。
「大丈夫だったでしょ! でもね、雪祈音が援護してくれるって分かってるから突っ込めるんだよ!」
ふうちゃんはピースをしながら笑顔で応え、雪祈音が居るおかげと気持ちを伝えていた。
「わたしだって、ふうちゃんが居るから安心出来るんだよ」
雪祈音は照れながら気持ちを返した。
「ふふっ、じゃあお互い様だね!」
「いつもありがとう」
「こちらこそ、ありがとね!」
2人は不穏な気配が近づいていた事に気がつかなかった。
気づいたのは周りを囲まれてしまった後だった。
「え。なに……あれ?」
「わかんない……けど、逃げないと!」
2人は不幸中の幸い腰は抜けていなかった。震える足で何とか逃げようとしていたが、大量のゴブリンに囲まれていた。諦めずに突破口を開こうと攻撃をしたが、すぐに援護のゴブリンが現れ逃げられない状態になってしまっていた。
恐怖した存在が、ついに2人の目の前まで来てしまった。それは――ジェネラルゴブリン。身長2メートルはあり、筋骨隆々で、身長と変わらないほどの金棒を持っていた。――ジェネラルゴブリンは2人に金棒を振り下ろした。
雪祈音が何とか盾でガードしたが、盾は吹き飛ばされてしまった。すかさずふうちゃんが風を纏った薙刀で攻撃したが、腕で防がれ、蹴り飛ばされてしまったのだ。雪祈音はすぐにふうちゃんの元に走っていき、結界を張ったあと【万物の治癒】で回復させた。
一緒に逃げようとしたようだが、間に合わなかった。ジェネラルゴブリンは2人の元にたどり着き、ニヤけた顔をしながら金棒で結界を壊そうと何度も何度も叩いた。
「ふうちゃん……わたしが少し時間を稼ぐから、逃げて!」
雪祈音は泣きそうは顔をしながらも、覚悟を決めた目で言った。
「そんなのダメだよ! 私が時間を稼ぐよ!」
ふうちゃんもまた覚悟を決めていた。
「わたしより、ふうちゃんの方が、足速いから、逃げられる、可能性あるでしょ。早く、しないと……2人とも死んじゃうよ」
雪祈音は結界が壊されないように、魔力を注ぎ続けていた。
「雪祈音を置いて逃げるぐらいなら――一緒に死ぬ!」
ふうちゃんは泣きながらも笑顔で雪祈音に伝えた。
「もう、壊されそう……ふうちゃん、わたしと友達になってくれてありがとう。大好きだよ」
「雪祈音、私と仲良くしてくれてありがとう。大好きだよ!」
2人は諦めて抱きしめ合い、死を覚悟し目を閉じた時――一筋の光線と共に轟音が鳴り、ガラスが割れたような音がしたあと、2人の目の前に居たジェネラルゴブリンの左腕がぶっ飛び、ジェネラルゴブリンが苦痛の悲鳴を上げた。
「きゃぁぁぁっ!!」
2人は驚いて悲鳴を上げた。
目を開けた時、今何が起きているのか分からずに言葉を失っていた。
言葉を失うのも仕方ない。今さっきまでニヤけた顔で金棒を叩きつけていたジェネラルゴブリンが、左腕を無くし、苦痛の顔になり、怒声をあげながら走り去って行ったのだから。
「たす……かったの、かな?」
雪祈音が呟いた。
「うん! そうだよ! だって見てよ!」
ふうちゃんはジェネラルゴブリンと戦っている雷雨の方に指をさしながら、興奮気味に言った。
「あっ……」
2人は雷雨の顔を見て頬を染めながら、さっきとは違う涙を流しながら抱き合った。
2人とも助かったと分かった時に気が抜けたのだろう。腰が抜けて動けないでいた。
雷雨はゴブリン達を殲滅したあと、2人の女の子の元に近づいてきた――。