3
あれから日が傾き始めるまで休憩を入れながら歩いた。ゴブリンを2体倒す事が出来たが、いい野宿場所は見つかっていない。最悪太めの木を背にテントを設営するしかないかなと考えていると――ゴブリンの鳴き声が微かに聞こえた。耳に集中し、微かに聞こえる鳴き声の方へと気配を消しながら警戒して近づいていくと、二階建ほどの高さの崖に洞窟っぽい穴があり、洞窟の前に5体のゴブリンが居た。
5体のゴブリンを倒せばクエストクリアだし、洞窟が問題なければ拠点にも出来る。一石二鳥だな!
今回のゴブリンは前のゴブリンと違い武器を持っていた。武器と言っても剣や槍とかではなく棍棒だ。棍棒といえども凶器だからな。気を引き締めないとな。
【磁場の雷砲】を試してみよう。どれほどの威力があるのか知りたいしな。まぁ、ただ単に使いたいだけなんだけども。
「おいっ!!」
〈死獄〉と〈生天〉を【武器の格納】20メートルほど離れた場所から大きい声を出して注意を引くと、ゴブリン達が威嚇するように大きな声を出しながら俺に向かって走ってきた。走る速さに違いがあり、目標に向かって走ってくると1列になるかな? と計算していたが、計算してた以上に綺麗に1列になった。その瞬間を逃さずに発動した。
「【磁場の雷砲】」
構えていた右手の〈死獄〉が雷を纏い始めた。纏っている雷で痺れもしないので変な感覚にはなったが、引き金を引くと雷を纏った光線がゴブリン5体の胸辺りを貫き、洞窟の中に着弾し轟音を鳴り響かせた。
「まじかっ?!」
魔力を3割ほど持っていかれたが、想像以上の迫力に吃驚した。威力は良かったが反動で右肩が痛くなった。身体が強くなるまでは連発は控えた方がいいな。
【磁場の雷砲】めっちゃカッコよくて最高だった!
周囲を見渡し敵の確認をしたが居なかったので【武器の格納】。
洞窟の確認をしに近づくと、入口の高さが2メートル程、横が3メートル程、奥行きが3メートル程だ。奥の方は【磁場の雷砲】が着弾し崩れていた。いい広さの洞窟だ……ここをキャンプ地とする!
先に洞窟を整えるか。こういう時の為に魔法【想造の製作】を貰っておいた甲斐がある。めっちゃくちゃ便利な能力で、素材にしたいものを認識するだけで専用の空間に入れることができ、さらには想造した通りのものを作り配置する事も可能だ。ハーディスさん様様だよ。
【想造の製作】を発動し、崩れた土や石を回収すると奥行きが2メートルほど広がった。回収した土や石を使い床を平にし、寝る予定の入り口辺りを柱で補強した。もし崩れたりしたら最悪だしな。念の為侵入されるのを遅らせる為の扉が欲しいと思い木を伐採する事にした。
〈死獄〉と〈生天〉を【武器の格納】、木に近づき右上から左下、左上から右下、右から左へ水平、左から右に水平、右下から左上、左下から右上と様々な斬り方の練習をして伐採した。
日が完全に落ちる前にはなんとか20メートル程の木を2本伐採する事が出来た。普通ならキツいが【万物の治癒】のおかげで痛みも疲れも問題なかった。いい訓練にもなったしな。
扉作りをチャチャッとするか! 【実用の投映】を開いて山芋掘り用の鋤を購入し、洞窟の内側に扉と枠を固定する為の溝を掘り進めようとしたが、暗くなってきたので先に【実用の投映】のクリア報酬を受け取った。新しいクエストが追加されていたが後回しだ。
次に【実用の投映】から〈雲隠れの帳〉を取り出した。形はケースに入った蚊取り線香のようだった。使い方は置いた後にスキル、魔法を発動させる感覚と一緒だ。
〈雲隠れの帳〉を扉の内側になるように置き発動すると、四角い結界が張られた。便利な事にタイマーが表示された。これならいつ効果が切れるか分かるな。
作業を再開させる為に次は灯りだな。【魔灯の光球】を発動させると、電球程の明るさと大きさの光の球が現れた。魔力消費は微々たるものだが、発動中は続くから気をつけておかないとな。自在に移動させられるのは楽しいな。
一心不乱に溝を1周掘り続けた。掘り終わった溝に、はめ込むように木の扉と枠を【想造の製作】を発動して配置した。ガタついてる原因の隙間を土と石を使って埋めた。扉と枠の厚さは10センチ程で内開きにして角材2本を2箇所にはめ込んでロックするようにした。しっかりと上部に空気を入れる為の隙間は作っている。
野営する為の道具を買うために【実用の投映】を開いた。
ベッド代わりにコットのワイドロングを探していると長さが210センチ横が90センチのサイズがあったのでカゴに入れ、寝袋だとすぐに動けなさそうだからブランケットにして、マットもカゴに入れた。あとはイス、テーブル、ランタン、飲料水、食材、食器類など諸々を追加でカゴに入れ購入した。
日課の筋トレをする為に外に出てラジオ体操第一をした後、作った木製の懸垂マシンで上半身と体幹を、ジャンプスクワット、ジャンプランジで下半身を1時間ほどみっちり鍛えた。【万物の治癒】で疲労を回復し、静的ストレッチをした後【天光の浄化】で汗などの汚れを綺麗にした。
拠点に入り扉を閉めロックをしてから、購入したコットやイス、テーブルなどをセットし、ランタンを点け【魔灯の光球】を消した。
1品目の簡単なサラダを作っていく。キャベツひと玉を千切りにし、塩昆布、ごま油と混ぜたら完成だ。
2品目はアボカドとサーモンとクリームチーズのわさびマヨ和えだ。名前が長くなっちまった。アボカド、サーモン、クリームチーズを1口大に切り、マヨネーズ、醤油、わさびを混ぜ合わせものと和えて、黒胡椒を振り、細かく刻んだ海苔を振りかけたら完成だ。
3品目は唐揚げだ。トレーニング前に鶏モモ肉2キロにフォークで穴を開け、大きめの一口大に切り、すりおろしたニンニクとしょうが、醤油、みりん、酒を入れて混ぜ込み漬け込んでおいた。味が染み込んだ鶏肉に片栗粉をまぶして揚げたら完成だ。
完成した料理と湯煎しておいたレトルトご飯をテーブルに並べた。
「いただきます」
手を合わせ、まずはサラダを食べた。シャキシャキして塩昆布がいい塩梅だ。唐揚げを食べるとご飯が進む味だったのですぐにレトルトご飯1つが無くなった。わさびマヨもご飯に合う最高だ。我ながらいい出来だ。
「ごちそうさまでした」
手を合わせたあと、【実用の投映】のゴミ箱機能を使い後始末を終わらせた。
一段落したのでマットを敷き坐禅を組みハーディスさんから言われていた瞑想をする事にした。魔法を発動する時に暖かいものを感じていたのが魔力だと思うが、魔法を使わずに魔力を感じようとするのは難しいな。
その後1時間ほど経った時魔力を感じ取る事が出来た。胸の真ん中辺りに一番の暖かさを感じ取れ、心臓が核だと思う。今日はここまでにして、核から魔力を巡らせて操るように出来るようになる事を目標に明日から頑張ろう。
瞑想が終わった頃には汗が吹き出していた。【天光の浄化】で綺麗にし、【実用の投映】を開き、パンツ以外の防具などを収納して、黒のTシャツと緑のパーカー、黒のスウェットパンツを取り出して着た。
コットに横になると思ってた以上に心地が良かった。
ここも良いけど安全性を高めるなら、ツリーハウスの方がいいかもな。いい大きさで作りやすそうな木を見つけたらツリーハウスを作って移動するか。【想造の製作】があるから簡単に作れるしな。それにもしかしたら〈雲隠れの帳〉を使わなくてもいいかもしれないし。まぁやってみて無理なら違う方法探せばいいか! と目を瞑りながら考え寝た……。