表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

これからどうするの?

ルゼリアの家に戻った健司とセリーヌは、静かな客間に身を落ち着けていた。夜の帳が下り、外では木々が風に揺れている音だけが聞こえる。


ルゼリアは席を外していて、室内には健司とセリーヌの二人だけが残っていた。セリーヌは窓の外をぼんやりと眺めながら、ふいに口を開いた。


「……ねぇ、健司。これからどうするの?」


その問いには、明確な意図が感じられた。ただの未来に対する問いではない。彼女の瞳は、何かを見極めるように、健司の横顔を見つめていた。


健司はその視線に気づいていたが、すぐには答えなかった。代わりに、静かに息を吐き、テーブルの上に置かれた花瓶の中の花を見つめた。


「……正直、まだよく分からないんです。でも、少なくとも今は、2人でいるかな、って思っています。」


「2人で……?」


セリーヌは眉をひそめる。健司の言葉に含まれた意味を、彼女なりに探ろうとしているようだった。


「ルゼリアと?」


健司は頷いた。


「はい。彼女の心に触れて、少しだけでも、寄り添えた気がしたんです。だから……彼女が望むなら、傍にいてあげたいって、そう思いました。」


セリーヌは目を伏せた。そして、自分の膝の上で両手を組み、静かに唇を噛んだ。心の奥にある複雑な想いが、その仕草に滲んでいた。


「あなたが来るまで、あの子はずっと孤独だった。私には分からなかった何かが、あなたには見えるのかもしれないわね。」


健司はセリーヌの言葉に感謝を込めた微笑みを返した。


「でも、あなたも……彼女を想ってる。それは、よく伝わってきます。」


「当たり前よ。ルゼリアは私の大切な人。あの子が苦しんでるのに、何もできない自分が……ずっと悔しかった。」


その声には、かすかに震えがあった。セリーヌは一瞬、言葉を止め、やがて自嘲気味に笑った。


「水の魔法なんて、こんなときには役に立たないのね。」


「そんなことないと思いますよ。」


健司は優しく言った。


「誰かを想う気持ちがあるなら、それはちゃんと伝わります。あなたの言葉も、態度も、きっと彼女の支えになってる。」


セリーヌは目を見開いた。


「……どうして、そんなふうに言えるの?」


「僕も、同じだったからです。昔、信じていた人たちに裏切られて、それでも誰かを信じたいと思って、今ここにいます。」


「……あなたは、やっぱり変わってるわね。」


そう言って、セリーヌはふっと微笑んだ。だが、その瞳の奥には、まだ迷いの色が残っている。


「ねぇ、健司。あのとき……私が本気であなたを傷つけようとしたとき、なぜ怒らなかったの?」


健司は少し黙ってから、まっすぐに彼女を見た。


「あなたが、誰かを守ろうとしてるって分かったからです。」


「……っ」


その言葉に、セリーヌの瞳が揺れた。彼女は一瞬、言葉を失い、うつむいた。


「私……ずっと、自分の力が人を傷つけるだけだと思ってた。だからこそ、先に攻撃して、自分が傷つかないようにしてたのかもしれない。」


「それでも、あなたは守ろうとしてる。ルゼリアさんも、自分自身も。」


セリーヌは顔を上げ、健司を見つめた。彼の目に浮かぶ真剣な光に、なぜか胸が締めつけられた。


「あなたって……本当に不思議な人。」


「よく言われます。」


健司は照れくさそうに笑った。その笑顔に、セリーヌの心が少しだけ軽くなったような気がした。


ちょうどそのとき、ドアが静かに開き、ルゼリアが戻ってきた。


「お待たせ。」


彼女の姿を見て、セリーヌはそっと立ち上がった。


「私はもう寝るわ。……2人とも、あまり遅くならないように。」


そう言って、セリーヌは微笑みを浮かべたまま部屋を出ていった。


彼女の背中を見送りながら、健司は小さく呟いた。


「……ありがとう。」


それは、彼女がくれた理解と、彼女自身の変化に向けた感謝の言葉だった。


ルゼリアはその言葉の意味を察したのか、静かに微笑みながら健司の隣に座った。


そして、夜は再び静けさに包まれていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ