開業準備を始めよう②
日本で注文していたベッドや2段ボックス、ペンキが届いたので、ビルさんに壁の塗り替えと、ベッドと2段ボックスの組み立て・設置をお願いした。1部屋だけ一緒に作業したけど、飲み込みが早く、さすが元大工さんというべきか、すぐに電動ドライバーの使い方までマスターしていたよ。
リフォーム作業は頼もしすぎるビルさんにお任せして、ステラさんと1階の食堂へ。
この町の魚介類の試食と食堂で出すメニューを決めるため、賄い代わりの試作品を作ってみることにしたのだ。
今日のメニューはビルさん夫妻の希望で、おばあちゃんの食堂で人気だったらしいたこ焼きとおでん。
ステラさんには味の確認をしてもらいつつ、作り方を覚えてもらう。
調理場にはちゃんとたこ焼き機もおでん鍋もあった。
ガスコンロやオーブンなどはこの世界のもので魔石が埋め込まれている。
「おや、使ったことないのかい?」
「うちの国で使っていたのと似ているんですが、使い方がよくわからなくて…(汗)どうやって火をつけるんですか?」
「こんな風に魔石に手をかざすだけさ!やってみな!」
少しでも魔力のある人なら普通に使えるということで恐る恐る手をかざすと火が起こった。この世界出身のおばあちゃんの孫だからなのか、私にも魔力はあったらしい…。
ガス台のほかにも、そのまま飲める水の出る蛇口、大量の氷を作ったり、魚介類を保存するために使われている冷凍庫など、多くの魔道具もあった。
「魔石の色も鮮やかだし、まだどれも5年は使えそうだね」
なんでも、魔石の色が薄くなってきたら買い替え時なんだとか。
魔道具以外にも、大型の業務用冷蔵庫や業務用の炊飯器など日本製の家電もそろっていてる。キッチンにもコンセントがあり、製品はどれも10年以上前のものだけど、電源を入れたらまだまだ使えそう。ステラさんは不思議そうに見ていたが、私の出身地の便利製品とだけ説明しておいた。
調理器具の確認が一通り終わったので、まずは、味がしみこむまで時間がかかるおでんから作っていく。
『3人しか食べないし、今日は土鍋でいっか。』
ジャガイモ、ゆでたまご、大根、ちくわなどオーソドックスな具材を準備したら、白だしをいれてゆっくりコトコト煮込む。
ステラさんに味を確認してもらったら、おばあちゃんのおでんに似ていておいしいとのこと。作る人によって味が変わるのも避けたいから、余計な味の調整はせず、しばらくは出来合いの調味料をそのまま使った料理中心で。ちくわなどの練り物はどうやら手作りのものを使っていたみたいだけど、自作するのはもう少し先にしよう。
たこ焼きは、小さい頃からよく作っていたからお手のものだ。
たこ焼き粉に水とたまごを投入し生地を作っていく。隠し味として昆布茶を少し入れて、水は規定の2倍量入れるのが音田家直伝のふわトロたこ焼きのポイントだ。
生地ができたので、リフォーム作業中のビルさんを呼びに行く。
2人に焼き方の手本を見せるために、生地をたこ焼き機に流しいれ、市場で買ったタコらしきものと日本から持ち込んだ天かす、紅ショウガを投入し、細めの割りばしを使ってくるくる回していく。竹串などを使わないのも音田家流。慣れればこっちの方がやりやすいのだ。
出来上がったたこ焼きをソースなどは付けずにそのまま食べてもらう。音田家では昔からこれなので、おばあちゃんのお店でもそうだろうという予想だったのだが、二人とも「昔食べたものにそっくりだ」と感動してくれるほどの出来だった。
2回目からは、今後お店を手伝ってもらうために、実際に焼きながらコツをつかんでもらう。
「小春ちゃんは上手だけど、私たちにできるかねー」
と言っていた2人だったけど、最初はちょっと焼きすぎて中があまりトロトロにならなかったけど、ちゃんと丸いたこ焼きが出来上がった。あと何回か練習してもらえば任せても大丈夫そうだ。
それにしても、100歳超えの小さな老夫婦と油断してたらめちゃくちゃよく食べる二人。たこ焼きは何度も焼き直して、10回(計200個)は焼いたかも。おでんの土鍋もすぐに空っぽになった。
『これだけ食べてくれるってことは、こっちの人にも合う味ってことだよね。ちょっと自信ができたから、明日から試作品をどんどん作っていくぞー』