田舎に帰ろう
元々兵庫県の港町で育った私は、大学進学を機に上京し、そのまま東京の会社に就職。約12年、ブラックな不動産会社で営業職として働いた。
お給料だけはそこそこ良くて、一番営業成績が良かった時などは月収が200万円を超えたこともあった。
でも休みは基本週1日、水曜日のみ。毎日夜11時まで残業。2年目にして名ばかり管理職になり、裁量労働制になったため、残業代が出たことは記憶にない。
週に1回は日本のどこかに出張して不動産を売る生活。休日に出張しても代休は取れない。接待という名目で仲の良いお客さんと経費で食べる出張先のご飯だけが楽しみな毎日。お金はあるけど使う暇がなかった。休みが合わなさ過ぎて学生時代の友人とも疎遠になった。
そうこうしているうちに貯金が1,000万円を超え、これなら3年はのんびりできると思い、2年前にフリーランスに転身。不動産の資格と経験を生かしてWEBライターに。WEBライターは世間的には稼げないといわれているけれど、不動産系の原稿は需要が高く、単価は普通のライターの数倍はあった。優秀な人は営業をした方がお金になるので、優秀な人はライターにならないからだ。お陰ですぐに稼げるようになり、1日5時間くらいを週4~5日とかなりのんびり働いても年収400~500万円くらいにはなった。
自由な時間は漫画を読んだり、ゲームをしたり。元営業なのに人付き合いがあまり得意ではないので、新しい人間関係を模索するのは諦め、一人を満喫していた。
かなり理想に近い感じのスローライフだったが、難点が1つあった。
それは家賃。会社員時代から住んでいる1LDKのマンションの家賃は管理費を含めて月15万円弱。住み始めた当初は12万円程度だったのに、昨今の物価高でかなり値上がりしてしまったのだ。払えなくはないけれど、手取り収入の半分近く。これ以上の値上がりには耐えられそうになかった。
よくよく考えれば、フリーランスなので東京に住み続ける必要はない。
家賃さえなければ、週10時間も働けば十分暮らせるはず。
後は全て自由時間。
これぞ理想のスローライフ!
そう考えて、祖父母の家を二束三文で売ろうとしていた両親を説得して、家を譲ってもらった。
そして仕事も、比較的割が良くどうしても続けてほしいと懇願された1社(報酬は月10万円)だけを残してすべて辞めた。
相続人は父のみだったので、相続争いをすることもなく無事に相続&引っ越し完了!
「結婚もせずに、いい年の女が田舎に引きこもる気か」と父に嫌味を言われたけど気にしない。
正直結婚する気は皆無だし、昔から両親には孫は期待しないでくれって言ってたのに…昭和の頑固親父め。
こうして私の理想の田舎スローライフは始まるはずだった…。