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プロローグ

「ここって、おばあちゃんの家だよね…?」


目を疑う光景に呆然と立ちすくむ私は、音田小春(おとだこはる)。36歳。独身。


東京での暮らしに疲れて、先日亡くなった祖母から相続した兵庫県の山間の田舎町にある古民家に引っ越してきたばかり。


母屋の裏手にある物置小屋の裏扉を開けたら、そこには見たこともない世界が広がっていたのだった…。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


扉の向こうにあったのは、田舎のさびれた食堂のような場所。


これだけなら、日本でも普通によく見る光景なんだけど、この小屋は外から見たら、6畳ほどしかないはずの平屋。さっき通った物置の広さも6畳くらいだったから、反対側の扉は外につながっているはずだった。それなのに、扉の右手には階段があるし、目の前にはホテルのフロントにあるようなカウンターがあり、カウンター越しには少なくても20畳はありそうなフロアが広がり、8つの大きな丸テーブルとイスが並んでいる。フロアの奥には厨房とカウンター席も見えている。


さらに驚くのは、窓の外を行き交う人の姿。ヨーロッパ風の顔の女性、鎧を着て剣を腰に差した男性、耳が生えている人までいる。どう見ても日本ではない。ありえるとしたら何か撮影をしていて、耳は特殊メイクか何かなんだろうけど…やっぱりありえない。


窓から外を見ていたら、身長150センチの私よりかなり背が低いおばあさんに声を掛けられた。日本語で。

「久しぶりにマーサちゃんが来たのかと思ったら…。お孫さんかい?」

マーサちゃんというのは、祖母音田雅子(おとだまさこ)のことだろう。祖父がマーサと呼んでいたから、多分間違いない。


私に声をかけてきたおばあさんから聞いた話では、ここはヨハンという町だそうだ。しかも、祖母はこの町の生まれ育ちで、おばあさんは祖母の子どものころを知っているらしい。そして、この宿屋は、祖母の家族が先祖代々運営しているものらしい。50年ほど前から祖母が食堂で珍しい料理を出すようになり、最後の20年くらいは祖父も運営に携わっていて、いかに人気があったかを教えてくれた。それが10年前に突然廃業してしまって、町の皆が悲しんだことも。


『宿屋?おじいちゃんは中学校の先生だったはずだし、おばあちゃんは専業主婦だったはずなんだけど…。ってか、おばあちゃんってマーサが愛称じゃなくて本名だったんだ…。』


混乱したが辻褄が合わなくはない。30年前と言えば、祖父が定年退職した頃。そして10年前と言えば、祖父が亡くなった頃だ。たくさんもらえると噂の公務員の退職金と年金で悠々自適な老後を過ごしてる祖父母だと思っていたのに…。まさか異世界で宿屋をやっていたなんて。


両親も相続の時にこの家を売ろうとしていたくらいなので、この宿屋の存在は知らないはず。


『おじいちゃん!おばあちゃん!こういう大事なことは生きているうちに教えておいてよーー!!』

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