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最終話 幸せな死

「新見君! 御守りをっ!」


 もう大男たちに捕まって実験台になってしまう!と思った時、早耶ちゃんの必死そうな声がした。


「えっ!?」


 急いで目を開けてみると、僕のバッグについている早耶ちゃんから貰った御守りが燦然と光り輝いているではないか!


 よく見ると早耶ちゃんの同じ御守りも光り輝いている。


「こ、これはいったい……」


「これは新見君の特殊な血液に反応するように団体が開発したモノを私が手を加えたの。

 邪な心を持つ人に対しては目潰しになるの!」


「そ、そんなことが!?」


「ぐはぁッ……」


 大男たちは悶えて地べたを這いずり回っている。

 しかし、裕太たちは二次被害として殴られたりしている……。


「ほ、本当に苦しんでいる……」


「私の家系はずっと人の気の力を増幅する研究に取り組んできていたの。

 だから、ずっと自分たちの力に怯えながら暮らしていた……。

 だからあらゆるコミュニティに阻害され、気が付けばとんでもなく貧乏になっていたんだ……。

 そしたら今の組織では高く評価してくれるようになったけど、

 こんな風に非合法なことばかりに手を染めていたんだよ……」


「そうだったんだ……」


「あっ!」


 全てを理解した時、早耶ちゃんが大男に刺された。

 早耶ちゃんの血飛沫が辺りを染め上げる。


「早耶! てめぇ! 何しやがったぁ! ブチ殺してやるぅぅぅぅぅ!」


 目を押さえながらも男は早耶ちゃんを滅多刺しにしている。30%ぐらいは早耶ちゃんを鮮血で染め上げるのには十分だった。


「に、逃げて……私のことは良いから……。

 あなたが助かってくれる――それが私の願いだから……」


「そ、そんな……」


 でも、早耶ちゃんは刺されていて、目が潰れた大男の下敷きになっている。

 僕の力ではとても助けられそうになかった……。


「ゴメン! 助けられなくて! 僕が弱くて!」


 うめき声や叫び声を背に僕は一心不乱に走り出した。

 

 気が付けば荷物もどこかにか投げ出してしまったためか驚くほど軽かった。


「うわっ!」


 僕は石に躓いて地面に転がりこんだ。


 気が付けば先ほどまであった悪夢のようなことが嘘のように日常的なバス停だ。


 誰も追ってこない。妙に虫の鳴き声が聞こえてくるような気がした。


 そうだ――せめて警察に連絡を……。そうすればまだ早耶ちゃんや裕太や登山部の人たちも助かるかもしれない。


 足を引き摺りながら、途中休み休み、警察署に駆け込んだ。

 しかし、いざ声を出そうとしたとき涙が止まらず暫くまともに話が出来なかった……。





 悪夢のようでありながらも早耶ちゃんに助けてもらったあの「黄金探しの日」から1カ月が過ぎた。


 裕太たちは殺され、早耶ちゃんたちは警察に連行されたらしい。


 僕は抜け殻のようになっていた。


 大の友人も好きな人もすべて失い、生きるって一体何なんだろう? と思い始めていた。


 また新しく友達も好きな人も作れば良いんじゃないか? って思うかもしれないけど、また掴もうとしたら零れ落ちてしまうかもしれない。


 そんな恐怖に駆られるんだ。


 辛うじてテストの勉強だけはやって何とか定期テストだけは凌ぎきることが出来たが、それにしたって空虚過ぎた。


 これからゾンビのように目的も無いまま彷徨い続けるのだろう。


 毎日、フラフラと登下校をしてとりあえず参考書を開閉して、

 テストをこなして何とかどっかの大学に引っかかって、

 大学を卒業したら生きていく分ぐらい稼いで、

 そして年老いて死んでいくんだ。


 今日もそんな空虚な人生のこれからを考えながら下校していく。

 生きながら死んでいるような感じすらした。


「新見君。ちょっと良いかな?」


 学校の帰り道の交差点でついに沙耶ちゃんの幻聴まで聞こえてきてしまったらしい。

 

 いよいよ末期症状だ。


「無視されると悲しいな……」


 その声を聞いてハッと振り返ると、そこにはなんと早耶ちゃんが目を潤ませて立っているではないか!


「また会えるだなんて思わなかったよ……」


「その……あの後は、警察の人たちが駆けつけてくれて何とか一命をとりとめたの。

 そして、色々審査があって私自身に大きな罪が無いって判断されたんだ。だから今、保護観察中なんだ」


「そうだったんだ……でも、また会えて嬉しいよ」


 心からそう思って抱きしめようとでもしようと思った時、

 早耶ちゃんはパッと頭を下げた。


「その、改めて色々と騙すようにしてゴメンなさい。

 これから犠牲になった人たちの墓にお花をお供えしに行こうと思うんだけど、

 良ければどうかな?」


「勿論、行かせてもらうよ。僕もあの事件の後、行けていなかったしね。

 それに早耶ちゃんがいなければ、今頃この世にもいなかったわけだし感謝しているよ」


 この山は子供のころから何度も登っている。


 今回の山登りはこの間の何とも言えない黄金探しやこれまでの登山とは別の心境があった。


 僕たちのこの間の清算と新たな関係に向けて踏み出すのだ。

 人生の希望が見いだせたような気がした。





 ――1週間後、新見慶介の遺体が“あの廃墟”で発見された。

 死因は餓死だと発覚した。


 ところが不可解なことに中本早耶の遺体も一緒にあったのだ。


 中本早耶はやはりあの事件の日に仲間に殺され、既に埋葬されていた筈なのだが、

 新見慶介の遺体と一緒に抱き合うようにして倒れていたのだ。


 恐らく、慶介が事件後に会った「中本早耶」は死霊か何かだったのだろう。


 ただ、妙に幸せそうに慶介の遺体は倒れていたというのが発見者の証言ではあった。


 慶介は短い人生ではあったが生きている間は、ただ単に学校と家を往復し、大学に入ることだけを目標に漫然と生きてきた。


 “幸せ”と言うのは分からないものである。生きているうちに得られる幸せと死んでからの幸せ(?)と言うものがあるのだから……。


 ただ勿論、死んでから幸せになるよりも生きていながら幸せを掴み取る方が望ましいのである。


 これをご覧になっている皆さんには生きている間に目的も見つけていただき、

 後悔の無い人生を歩んで欲しいものである。


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