第5話 “黄金”の中身
裕太は走り出した当初はとんでもないスピードだったが次第に遅くなっていき、
僕たちは徐々に追いついていった。
「お、やっと着いたぜ! 黄金の異世界に続く道がある――と思われる神秘の宮殿かぁ! ここで黄金の国に行く道が見つかり、俺の人生が変わるんだぁ!」
到着すると裕太は疲れていそうなのにもかかわらずこのテンションの高さである。
でも、神秘の宮殿だのなんだの言ってはいるが実情は単なる元民家の廃墟である。
壁は朽ち果てて内部は一部露出しており、大人数で入ったら倒壊しそうなほどである。
「こんな廃墟の中に黄金の国って本当にあるの?」
ボロボロの廃墟は黄金とは対極に位置している。
しかもかつて黄金が大量の眠っていたようにも思えない普通の民家の跡地なのだ。
どちらかと言うと幽霊やゾンビの方が出そうな感じだ。
こんなところには普段なら進んで立ち寄ることはまずないだろう。
「慶介は分かってねぇなぁ! こういう誰も来なさそうなところに案外秘密の黄金ルートが存在しているんだよ!」
と裕太は豪快に言い放った。
やれやれと思いながら僕は早耶ちゃんを見る。
早耶ちゃんは流石に疲れたのか何やら呆けたように外を見つめている。何かを考えているのかもしれない。そっとしてあげよう。
裕太や登山部の3人は懐中電灯の明かりを使って周囲を確認しまくったり、
ボロボロの家具を漁ったりとなんだか焦っている雰囲気がある。
正直言って狭い家だしもう見尽くしてしまった。
そしていい加減呆れ果ててきた。これ以上やっても本当に時間と労力の無駄だ。
「もういいだろう。何も無かったんだよ。
誘ってくれてありがとう。ここまでいい運動になったよ」
これ以上付き合いきれないと思った。
ただ、早耶ちゃんと思った以上に仲良くなれたきっかけを作ってくれたことについては裕太には感謝していかなくてはいけない。
「待ってください。あっちの方で何か光っていませんか?」
その沙耶ちゃんが指す方向には確かに黄金に光り輝いている。
「馬鹿な……」
嘘だろ……? と思って目をこすっても状況は変わらず黄金が光っていた。
「うひょぉぉぉぉぉ! やったぜぇ! これで俺たち一生遊んで暮らせるぅ!」
そう言って跳ねるようにしながら光の方向に裕太が向かっていったと思ったその瞬間だった。
「早耶、よくやってくれた」
「え……」
僕たちは全く気が付かなかったが、気が付けば10人近くの黒ずくめの男たちに囲まれていた。逃げ道は無い。
「な、中本さんのお知り合いかな……?」
流石の裕太も凍り付いており敬語になっている。
しかし“お友達”と言うにはあまりにもかけ離れた如何にも“普通ではない人たち”だ。
体には入れ墨があり、ナイフやこん棒のようなものを持っている。
不穏な空気を漂わせている黒ずくめの男たちと清楚な雰囲気の中本さんとは全く対照的ではあったが、名前を呼んでいるという事は知り合いなのだろう……。
「……ごめんなさい皆さん」
「な、中本さん。何を謝る必要があるって言うんだよ!?」
登山部の人たちと裕太も動揺が走ってきた。
「早耶は俺たちの仲間なんだ。そう、お前たちをおびき寄せるためのなぁ! さぁ、大人しくしてもらおうか!」
へへへ! とロープやらナイフやらを持って迫ってくる。
「い、いったい何の目的で僕たちを捕まえようとするんだ!?
身代金目的なら僕たちの家族は平凡な家庭で何の意味も無いぞ!?」
僕が叫ぶが彼らの様子は変わらない。薄ら笑いすら浮かべている。
負け犬の遠吠えにしか見えないのだろう。
「俺たちはそんな身代金程度の目的でリスクを背負っているわけじゃない。
ウチの組織は簡単に言うと“血液ハンター”なのさ」
唖然として言葉が出ない。
「全ての“黄金伝説”の話は我々が流したものだ。噂でおびき寄せたやつらを一網打尽にして“実験台”にするためなのだ」
「なんだって!」
「特にこの、新見慶介君は特殊な血液型を持ってるらしく、
上手いこと増やすことが出来れば莫大な富を生み出すことが出来るんだ」
僕のことをほとんど知らないであろう早耶ちゃんが妙に優しくしてくれた理由もこれで合点がいったと言える。
確かに僕の血液型は、1億人に一人以上のレアなRh null型である。
それを恐らくは、どのようにかして培養して増やし、売買していくことになるのだろう。
「本当にごめんなさい……」
早耶ちゃんが涙目で僕を見つめる。
罪悪感がありそうなだけまだマシだった。
しかし、夢のような幸せの昼食時間は一転して悪夢に変わった。
「俺の黄金は、一体どこにあるんだああああああ!」
気が付けば縄でぐるぐる巻きになっていた裕太はこの状況下になってもそんな発言が出来るのはある意味幸せだと言える。
「そんなものは最初からねぇよ。あるとするならそれはお前たちの”体”だ。
お前たち健康体は無限に働いて俺たちの“資金源”になってもらうからな」
「も、もしかして僕たちより先に行った人たちも……」
「あぁ。アイツらの血液はあまり使えなかったから今頃は“地下”の強制収容所で無期で働いていることだろうよ」
「し、信じられない……」
アンダーグラウンドの小説の世界にでも入ってしまったかのような非現実的な話ばかりが展開されている。
これが夢ならどれだけいいことか……。
「さぁ、新見慶介。お前の体を薄切りにして色々と見分させてもらおう。
ただし、逃げ出さないようにするために五体満足とは限らないがなぁ……」
そう言って僕にジリジリと近寄ってくる。
周りを見れば山のような大男ばかり、ロープにナイフ、拳銃まで持っている奴もいた。
僕はもう終わりだと堪忍して目を瞑った。