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第4話 黄金の異世界?

 そのあと早耶ちゃんとは次の定期テストの話や、好きな食べ物の話など他愛もない話ばかりをした。


 そもそも高嶺の花だと思っていた早耶ちゃんと、

 今現在会話が成立しているだけでも奇跡的と言える。

 

 途中からあまりどもらずに話すことが出来るようになってきたし、

 死の恐怖を振り払ってここに来た甲斐があってとても良かったと思った。


「あ、3人こちらにやってくるみたいですね」


 早耶ちゃんが言う方を見ると、裕太が2人を連れてノコノコやってくる。

 時計を見るとたった今集合時間の9時になったところだ。


「裕太、時間ギリギリじゃないか。何してたんだよ」


 僕はそう裕太に声をかけたが内心はもう来てくれなくても良かったとすら思った。

 

 何せ早耶ちゃんと話が弾みかけていたところだったからさ。


「いやぁ、わりぃわりぃ。ちょっと登山部の連中と合流してな。

 こっちのデカいのが登山部部長の川田、メガネをかけているのが副部長の戸崎だ」


 2人は無口なのか静かに頭を下げただけだった。


「2―Aの新見です。よろしくお願いします」


「初めまして2-Bの中山です。よろしくお願いします」


 早耶ちゃんは綺麗な姿勢でお辞儀をする。そのお辞儀姿すらも惚れ惚れする……。


「それで僕は待ち合わせのこの場所以外は何も知らされていないんだけど一体どこに行くの?」


「そういや、お前には教えていなかったな。考古学研究会が教えてくれたところによると、この地点の付近にあるそうなんだ」


 渡された地図に×印が付いているが、確かこの山の一番の難所だ。

 しかし、そんな場所に黄金があるだなんて聞いたことは無い。いかにも嘘くさい話だ。


「考古学研究会からの情報によるとどうやらその場所にズバリ黄金が眠っているわけじゃなく、そこから“別の世界“に繋がっているらしいんだ。

 分けても分けても黄金が溢れ出て来るそうだ。

 ひょえー! 俺も早くその世界に行きて―!」


「は、はぁ……」


 更に突拍子もない話になってきた……。異世界に通じていつとかアニメやゲームの話じゃないんだし絶対にあり得ないだろ……。


 そして逆にそんなに黄金が出てきたら価値が無くなりそうじゃないか?

 世の中需要と供給で決まっているんだからさ。


 でも、裕太の奴はそう言った素朴な疑問すら浮かばないんだろうな……。


 早耶ちゃんも何だか反応に困っているようで薄い笑いになっているし……。


 そんな風に僕たちが話しながら歩いているとガヤガヤとした音が聞こえてきた。

 どうやら、ウチの学校の考古学研究会のSNS投稿を見て宝探しをするグループが他にもいるようだった。


 しかも、僕たちより何日も山の中で過ごせそうなぐらい本格的な装備をしている。


 ただ見慣れない顔のために僕たちと同じ学校の生徒では無いだろう。

 それだけSNSの拡散力は凄いのだ。


「おっといけねぇ! アイツらに先を越されちまう! 行くぞ!」


 話は突如として切り上げられ僕の疑問がさっぱり解消されないまま山に登ることになった。


「黄金とやらは有り余るほどあるんじゃないのかよ……」


「あんまり早く行き過ぎないようにしてくださいね……?」


 早耶ちゃんが皆にそう言うと男性陣は途端にスローモーションになる。


「ま、まぁ。黄金に限界があるのだとしたらもう掘りつくされているだろうしな。

 焦ることはねぇよな」


 裕太も顔をニヤつかせながらそう言った。

 男だらけのチームの中で唯一の華とも言える早耶ちゃんの意向が最も反映されるのだ。


 しかし早耶ちゃんは歩き始めるとそんなに速くないものの思った以上に健脚のようだった。

 足取りはしっかりしており、多少の段差はものともしない。


 でも逆に手を取ってあげたりするシーンも無いのが残念ではあるのだけども……。


 途中休憩をしながら黙々と山を上がっていく、

 お昼になると目的地直前と言うところで最後の休憩になった。


 僕は近くのコンビニで買ってきた弁当である。

 母さんは朝早く起きるのが苦手で、昼はずっと“買い食い”なのだ。


「私、お弁当あるんですけど食べますか? 作りすぎちゃったみたいで……」


 そう言って僕のプラスチックの弁当蓋の上にドンドンおかずを載せていく。


「えっ……いいの? 悪いよ……」


「良いんです。作り過ぎた私が悪いんですから」


 その笑顔に僕は心を奪われそうになった。


「じ、実はちょっと足りないと思っていたところだったんだ。ありがとう」


 別に足りないわけでは無いが、あの早耶ちゃんのお弁当をご相伴にあずかることが出来るだなんて幸せ過ぎる……。


「おっしゃっ! 玉子焼きいただき―!」


 裕太がそう言って僕が取ろうとした玉子焼きを奪っていく。


「ちょっ! 裕太! 何、奪ってるんだよ!」


「中本は別に慶介だけに弁当をやると言ってたわけじゃねぇじゃねぇか! 気にするなって!」


 マイペースな奴だった。憎めなくて良い奴ではあるんだけど。

 

 早耶ちゃんも笑っていることだし、これで良いんだよな。

 

 そもそも棚から牡丹餅的な感じで偶然貰えたわけだし、少しでももらえれば十分だ。


「うわっ! 美味しい!」


 焼き魚も野菜も何もかも美味しい。夢のような味わいだった。


「お口に合ったようで良かったです」


 こんな早耶ちゃんが僕のことを好きかもしれないだなんて夢のような話だ……。

 悪夢が現実になるかもしれないと恐れていたのにいい夢をみているようだ……。


「あそこに見えるのが目的地だ。


「あぁ、あそこに小さく見える奴か……」


 黒い豆粒のように見える。地図の距離的に見たらその通りだけど……。


「あぁ……待っててくれ! 俺の黄金!」


 そう言ってご飯を食べ終わるや否や裕太は走り出した。


「ちょっと!? 待ってくれよ!?」


 登山部も驚きの速さで疾走していった。

 僕たちは追うのだけで精いっぱいだった。

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