第3話 御守り
鳥の声が聞こえてくる。雀かなにかだろうか……。
22時には布団に入ったのにも関わらず、気が付けば日が昇って明るくなってしまった。
写真に顔がまともに写らなかったことにより、
ご飯も喉をあまり通らず、眠れもしなかった。
「今日僕はどうなってしまうんだろう……。
もしかしたら人生最後の日なのかもしれない……」
最初は悶々として眠れず、疲れてきてもボーっと考えながら朝日が昇るのを眺めていた。
それでも、出発時間が間近に迫った時僕は着替え始めた。
早耶ちゃんと折角仲良くなれるチャンスだというのにそれをフイにしたくも無かったからだ。
怖さもあったけど、ここで退くのなら一生早耶ちゃんと仲良くなれないかもしれない。
あんなに可愛くて気立てが良さそうな子と巡り合う機会、仲良くなる場面は無いのかもしれない。
ゾンビのように生きたような、死んだようなそんな生活をしていいのか?
そんなことは御免だ。
それなら例え今日が人生最後の日でも後悔しない選択をした方が良いんじゃないか?
「よし、行こう……。今日が人生最後の日かもしれないけど……。行ってきまーす!」
昨日は写真撮影の前に準備だけはすることが出来た。
一体黄金発掘のために何が必要なのかよく分からなかったが、
取り敢えず登山用具を一式。
後は何か掘るための道具を入れておいた。
持ち物について裕太は何も言ってこなかったので、逆に困ったのだ。
待ち合わせ場所はいつもは閑散としていると思われるバス停前だった。
何でも日中でも2時間に1本しか来ないようで、利用者もほとんどいない。いずれバスは廃路線になることだろう。
ただ、そこからすぐに山道に入ることが出来る上に目印にもなるので集まることにしたのだ。
そ、そして、待ち合わせ場所には僕が2番目に到着した。
い、一番最初に到着していたのは早耶ちゃんだった……。
出で立ちとしては露出の少ない感じのワンピースではある。
しかしこの山を登れるのかは謎である……。標高800メートルはあるからそれなりの労力を要するからだ。
そ、それよりも。さ、30分前なので、し、しばらく話しできるかな……。
「お――おは。おはよう。は、早いんだね」
心臓がバクバク常時なっているためにまともに声が出てこない……。
し、しっかりしろよ! 僕!
「おはよう。新見君。よろしくね」
小川の流れる音のような声と澄んだ瞳で見つめられたことで正直言って顔が真っ赤になったと思う。まともにその綺麗な顔を見つめることが出来ない。
「う、うん……中本さんよろしく……。
と、ところでどうして今回は参加したの?」
「前田君が言うには新見君はとてもお金に興味があるって言うから……」
なんで僕がお金に興味がある奴ってことになってんだよ……。
これじゃ僕が金の亡者みたいじゃないか!
でもここは話を合わせておかないと問題だよな……。
上手く否定する言葉も思いつかないし……。
「う、うん……。やっぱりお金は最低限は無いとね。
滅茶苦茶多くなくていいんだよ。分け前がちょっとでもいいからさ。
大学の入学金ぐらいになれば良いかなって……」
僕は黄金の国なんかどうでもよく、興味があるのは早耶ちゃんだけなんだけどね……。
「ホント、お金って無いと不幸になりますからね。
私、高校では実は授業料免除の特待生なんですけど、家にお金が無いんですよ。
中学生の頃は食費も無くてフードバンクに頼ったり、雑草を食べてたりしたぐらいで……」
「そうだよね……最低限暮らしていけるお金が無いと流石に辛いよね……」
早耶ちゃんの髪には艶があって、今の服にも貧困な雰囲気は見えない。
とてもそんなに苦労しているようには思えなかったので正直言って驚いた。
でも、女の子なんだから多少無理してでも身なりを気にするのかもしれない。
そして、僕はお金を全く気にしなくていい何不自由ない家庭にいたのは恵まれていたと言える……。
「あっ……! 暗い話してごめんなさい」
「い、良いんだよ別に」
僕はむしろ早耶ちゃんのことを一つでも知ることが出来てとても嬉しいぐらいだからね。
「でも何だか黄金を探すって言っても何だか本当なのかな?
って思うと、怖くなっちゃって。
昨日神社で御守りを買ってきたんです。
魔除けの効果があるそうですけど……良ければ、どうですか?」
早耶ちゃんは赤い袋の御守りを見せてくれた。
「ああ、ありがとう。ととと、とっても嬉しいよ」
相変わらずドモりまくりでとんでもなく情けないんだが……。
早耶ちゃんから御守りを受け取れて感動したと同時に、
黄金について同じよう考えを持っていたことが分かってそれも嬉しかった……。
僕は感動で手が震えるのを押さえながら受け取り、バックの水筒の入れる場所の隣に付けた。
これで昨日の写真の「のっぺらぼう現象」による命の危機から少しでも回避できればいいんだけど……。
「でも、迷彩服で来るだなんて。かなり気合入っているんですね。
それにとても似合ってますよ」
「これ古着屋でたまたまあったんだよ。丈夫そうだし買ってよかったよ」
頑張って探した甲斐があってよかった……。
黄金なんて全く興味が無いが、早耶ちゃんの家庭のためにも何とか小判の一枚でもいいから見つけてあげたいと思った。
黄金探しに対して俄然やる気が出てきたのである。