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第2話 顔の無い写真

 授業で先生が何かをしゃべっているが全く身が入らない。

 特に今の時間は古文だから、何も無くても眠くなって異空間に行きがちだ。

 とりあえず、意識を取り戻したら黒板の板書を機械的にうつす作業を繰り返している。


 授業に身が入らないのは単に眠いだけではない。


 いきなり先ほどの昼休みに明日行くことが決まった黄金発掘プロジェクトなのだが――如何せん着ていく服がどうしたらいいのか分からないからだ。


 普通にどこからか発掘するだけなら単純に作業着みたいなのを着ていけばいいだけの話なのだが、なにせあの憧れの早耶ちゃんが来るんだ。


 動きやすく汚れてもいいだけが取り柄のダサい作業着じゃお話にならないだろ……。

 かと言って洒落込んだ服だと発掘調査で一瞬でダメになる可能性もある――もともとそんな高い服持って無いけどさ。


 とにかく着ていく服に困り果てたのだ。


「帰りにどこか寄って服を探そう」


 そう思って席を立った時に裕太に声をかけられる。


「おい、カラオケでも寄って帰ろうぜ」


「お前は余裕あるなぁ。明日の黄金の国探しはどうしたんだよ?」


「俺は毎日を刹那的に生きているんだ。明日突然死ぬかも分からん。

 遊べるうちに遊ぶんだよ」


「よくその発想でこの高校に入れたな……。

 ちょっと寄るところがあるから。

 遊びすぎて明日、時間に遅れるなよな」


「ほい~。明日9時な~」


 裕太は暢気そうな声を出して別れた。


 裕太は毎日のように遊び歩いているが本当に受験は大丈夫なのか?


 まぁ、僕だって明日黄金探しと早耶ちゃんに浮かれているから人のことを言えないんだけど……。


 そんなことを思いながらデパートに寄る。


「うーん、高いなぁ……」


 しかし、昨今の物価高もあってなのかどうにも値段と見た目が釣り合うものが存在しない……。


 最悪1回しか着ないかもしれないもののために1万や2万とか払えないからだ。

 かと言って安物を買うぐらいなら、ウチにある作業着で十分だ。


 開き直って作業着か……と思いながら自宅まで帰っていくと、古着屋があった。

 70代のおばあちゃんが個人で経営しているために、

 基本的に僕の年代に合わないものばかり売っている。


 でも、たまに僕にも合いそうな掘り出し物があるのでここには度々立ち寄っている。


 最後の砦だと思って店の暖簾をくぐった。


「こんにちはー! おばあちゃん、お久しぶりです」


「おやおや、慶介君。お久しぶり。今日はいったいどんなものをお求めかい?」


「そうですね……山登りに適した服装で何かありますか?」


 先ほど裕太からLINEで送られてきた地図によると目的地は分からんが全体図を見ると、山奥のようだった。


 どうせ何も見つからずに行って帰ってくるだけなんだし。“山登り”と言う感覚は間違っていないだろう。


「なるほど……これなんてどうだい?」


 おばあちゃんはクシャクシャと皴を寄せながら笑顔で立ちあがる。


 そして、何とも言えない茶色の服を指し示してきた。……どうにも、おじいちゃん臭い。早耶ちゃんの前にも出ることを考えると絶望的な色合いだ。


「えっと……もっと明るい色の服ありませんか?」


「明るい服ねぇ……それならこういう感じの服はどうかね?」


 そう言っておばあちゃんは自衛隊の迷彩服のようなものを取り出してきた。

 まだ新しく、もしかしたらウケがいいかもしれない。


「あ、それ良いですね。いくらですか?」


「上下で合わせて3000円だよ」


 サイズを確認したがほとんどピッタリな感じがした。


「そんなに安くて大丈夫ですか!?」


「いいのよ。今度お友達でも連れてきてくれれば」


「ははは、商売上手ですね。今度クラスメイトを連れてきますね」


 僕はお金を払うと迷彩服セットを受け取った。


「まいどあり~。またおいで~」


 おばあちゃんのしわがれていながらも元気な声を背にしながら考えた。


 果たして僕の友達が好む商品があるのだろうか……。

 今回は辛うじて僕のニーズに合ったんだけど……。


 折角だから買ったことをSNSで報告するか……。


 家に帰って試しに着てみると思った通り僕とサイズがぴったりだった。

 

 スマフォを固定してパシャリっと。


 後はこれをインスタにでも上げよう。店の名前も書けば少しでも宣伝に――。


「えっ……!?」


 写真を確認したところ、あまりに恐ろしさに体が震えた。


 なんと、僕の顔が写っていなかったのだ。消しゴムで消されたように顔が白くなっている。


 嘘だろ? と思ってもう一度位置や角度を変えて撮り直してもどうやっても僕の顔だけ写らない。


 顔が元から無かったかのようにドロンと白く、のっぺらぼうなのだ。


 スマートフォンのカメラ機能が壊れてしまったのかと思って別のものを撮影しようと思って立ち上がった。


 塀を歩いている猫を撮影してもちゃんと写る。


 テレビの歌って踊っているアイドルを写してもちゃんと顔が写る。


 物陰から夕食の準備をしている母さんを撮影してもちゃんと顔が写る。


 つまり僕を撮影するときだけ顔がのっぺらぼうになってしまうのだ。


「な、なんだよこれ……」


 スマートフォンやカメラの機能が問題で無いとすると“他の何か別の理由”があるに違いないと思った。


 僕はオカルト板にアクセスしてみる。


 色々と写真に関係する異常な現象が起きているケースについて調べてみたら、

“死期が近い人が顔が写真に写らないことがある”と言った情報があり、

 それを見た時、思わずスマートフォンを取り落とした。

 

 健康な高校生が普通に暮らしていて突然死期が近いという事はあり得ない。


 もしかしたら、明日の黄金の国探しは大変なことになるのかもしれない……。


 僕の人生最期の日になるかもしれないからだ。


 まだ秋になったばかりなのに寒気がして腕を見ると、

 鳥肌がブワッと気持ちが悪いぐらい立っていた。

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