第1話 黄金の国の噂
ウチの学校の周辺ではこういう噂が流れるようになった「黄金の国に行けるらしい」と。
先月ぐらいから突如として噂になりだしたが、全く興味は無かった。
でも、クラス中ではその話でもちきりだった。
「なぁ、慶介。知ってるか? 考古学研究会がついに“黄金の国“に到達したらしいぞ」
「へぇ、そうなんだ。それって何かの新興宗教か何かだった?」
僕、新見慶介が本を読んでいると親友である前田裕太が首に絡みついてきた。
しかし僕は全く興味が無い。
僕はてっきり“黄金の国”とやらは何かの新手の宗教団体のニックネームだと思っていたからだ。
「いや、それが考古学研究会のSNS見て見ろよ」
そう言って裕太からスマートフォンを渡されると珍妙な写真だった。
大判小判をちょっと咥えながら“学校辞めまーす! お前らも来いよ!”と言うものだった……。
その他にも、壺のようなモノを掲げたり、金塊をバラまいたりしている写真もあった。
でも何だか嘘くさいし、“作られたような感じ”すらする。
AIか何かで合成したような画像の投稿じゃないか?
「へぇ……それで、考古学研究会の人たちって本当に学校辞めたわけ?」
この学校の偏差値は60と、そこそこレベルの高い進学校だ。
考古学研究会の奴らは僕も知っているがそんなに成績が悪い集団では無く、
普通に“レール”に乗っていればそれなりの大学に入ることはできただろう。
「興味があって調べたやつがもういるんだけど、
考古学研究会の奴らは今週頭には全員退学届をすでに出ているらしいよ」
「そんな、学校辞めるだなんて信じられない……それも全員だなんて人生考え直した方が良いよ」
「俺も学校まで辞めるだなんてちょっと驚いたんだけどさ。
でも、よく考えてみたら一生遊んで暮らせるだけの金が手に入ったんだから当たり前か」
裕太はそもそもこの投稿や噂話が本当だと思っているらしい。
どう考えてもおかしい。何とか説得しないと……。
「イヤイヤ! 学歴は一生ものなんだからさ!
仮に大人になってからやり直すにしたって面倒過ぎるって!
今現役のうちに勉強してなるべく良い大学に行った方が絶対に安泰だよ!」
裕太は“はぁ~”と大きなため息をついた。
どうやら裕太の中では僕の方が“問題外”のようだ。
「それこそ旧時代的な考え方だぜ。
今はFIREっていう若いうちからお金を稼ぎきって
早期に社会からリタイアするっていう考え方も流行っているんだ。
俺たちも早く黄金を得てこんな社会からオサラバしようぜ。
それに、高校生のうちからFIREできるだなんて最高じゃねぇか!」
正直な話、ここまで聞いても怪しいことだらけで、
これを信じ切ってしまう裕太の将来が心配だ。
「本当にヤバい新興宗教か詐欺なのかもしれないよ。
僕の家系はここの地域にずっと住んでいるけど、そんな埋蔵金伝説みたいな話聞いたことないって。
こんな短期間の間に情報が拡散して、それでいきなり見つかるだなんてなんかおかしいって。
しかも高校生が探し当てるだなんてどうかしてるよ」
「でもさ、最近は色々な探索の技術が発達しているからこれまで見つからなかった財宝とかも見つかるんじゃないの?
この大判とかは江戸時代のものっぽいから徳川埋蔵金かもなぁ……。
俺、買いたかったギターあるんだよな。10万もして手が届かなかったんだけど。
黄金があれば一体どれぐらい買い揃えられるんだろ……」
もう完全にどこかにトリップしてるよ裕太……。
甘い話には必ず裏があるのだ。それを指摘していかなくてはいけない。
「ちょっと気になるんだけど、埋蔵金とかみつけたら警察に届けなくちゃいけないんじゃないの?
あと、見つけたらその人たちで独り占めしそうなもんだと思うけどそこのところはどうなのさ?」
「分けるぐらい有り余ってるってことなんじゃないの?
警察に届け出たらその土地の人に没収されちゃうかもしれないし」
「いや、有り余ってるなら多少その土地の人にあげてもいいでしょ……。
論理破綻してるってその理屈……。
絶対に裏があるよその話。甘い話で釣っておいて何か悪いことを企んでいるに違いないよ」
「まぁ、慶介。細かいことをチマチマ気にすんなよ。早めにハゲるぞ?
俺たちも行こうぜ。ただ単に、言われたところに見に行くだけならノーリスクだって」
裕太は学生の本分を理解していない。僕たち高校2年生は来年の受験のこともあるわけだし……。
「リスクはあるよ。勉強時間を削ると定期試験や評定、受験に支障が出るって。
受験に影響すれば就職やその後の収入にだってマイナスだよ。
来襲の数学の小テストがヤバいから今日帰ってからやらないと……」
「たまには息抜きが必要だって。お前はガリベン過ぎるんだよ。
隣のクラスの中本早耶も来るみたいだけど」
「さ、早耶ちゃんがっ……!?」
思わずガタッと立ち上がってしまった。思ったよりも大きな声が出てしまったようで、周りの目線がとても痛い……。
僕は赤面しながら椅子に座る。穴があったら入りたい……。
中本早耶ちゃんは、この学年で一番可愛いと僕が思っている娘だ。
テストの成績も常に上位でありながら謙虚さも兼ね備えており、僕はかなりタイプなのだ。
「中本も黄金にはあんまり興味が無いらしいけど、
お前が来ると言ったら来てくれるって言ってくれたんだよ。
これを機に仲よくなったらどうだ?」
「へ、へぇ……。そ、そうなんだ……。そ、それなら僕も行こうかな。
裕太がそう言ったのに僕が来なかったら問題だしね……。
来週の数学のテストや来月の定期テストはまた今度考えることにしよう……」
「そうこなくっちゃな! お前運が良いって以前言ってたもんな!
その特殊な能力ならきっと黄金も見つかるぜ!」
「僕は運が良いんじゃなくて血液型が1憶分の1より確率が低く希少性があるものらしいんだ。
それだから一体どうしたんだって話なんだけどね。
能力としては凡才だしね」
Rh null型と言う血液型は誰の抗体に対しても陰性なので、誰にも輸血する事ができるらしく世界でも希少性が高いらしい。
その血液型だと分かった時、赤十字とかの人が“是非とも輸血してください!”って言ってきたなぁ。残念なことに貧血気味だから輸血できなかったんだけど……。
「いやぁ、何にせよ運が希少な奴がいるというのは良いことだ。
早速今度の週末にでも黄金発掘に行こうぜ!」
「週末かぁ……ってもう明日じゃないか!?」
ヘンな組織に勧誘されそうになったのなら早耶ちゃんを連れてすぐに引き返せばいいんだ。
これはある意味チャンスなんだ……。