茉莉の日
1
あなたの崩壊を止められない。
真実を求めるあなたがそれを認めようとしないから。
あなたの許しを得られない。
あなたが望む世界は決して訪れることがないから。
それでも、あなたの渇きを癒したい。
あなたの世界を壊したのは私なのだから。
2
「茉莉、水野は今日から秋祭りだね。茉莉は行くの?」
クラスメイトの最上美和子の言葉に、私、山郷茉莉はあっさり首を横に振った。
「うぅん、行かないよ」
美和子はその言葉に大げさにリアクションしながら、
「あぁ、愛町心がないなあ、茉莉はあ」
そういってよよよ、と泣いて見せたりする。
「あはは……」
曖昧に笑いながら、私は、心がずきずきするのを感じていた。
水野とは、私が住んでいる町の名前だ。
ちなみに今通っている高校は宮藤という、水野から一駅離れた場所にある。
水野にも高校はあったけど、私は宮藤に通っている。
宮藤のほうが都会だし、学習のレベルも高い。
けれど、そんなの私にとってはたいした問題じゃなかったと思う。
私は、逃げてしまったのだ。
大好きだった、男の子から。
3
彼は、優しい、穏やかな人だった。
けれど、時々子供みたいにすねたり、大人みたいに苦しげな目をしたりしていた。
私は彼が好きで、でも、同時に怖かった。
誰にでも優しい彼が、私の気持ちを知ったら、それで私を拒絶したら、それは、私にとって、私の世界の、崩壊。
私は臆病だった。
結局何も出来ないまま、私は、水野高校ではなく、宮藤高校に進学した。
彼は、水野高校に進学したのに。
水野の町は、私を不安にさせる。
田舎のくせに。
何もないくせに。
ただ、閉鎖的で、出て行くものも少なければ、入ってくるものも少ない街のくせに。
昔は偏差値が高くて、人気もあって、でも、今は宮藤に全部奪われて、古臭い伝統が残ってるだけの、見捨てられた高校のくせに。
どうして、彼はそっちを選んだの・・・?
わかっているのに、本当は。
住んでる町の高校に進学するのは、当たり前ではないか。
はみ出し物は、私。
愛町心なんて、悪いけど私は全然持っていない。
水野高校の校舎も、制服も、そこに通っている先輩たちも、今通っているだろう同級生たちの大半も、私は吐き気がするくらい嫌いだった。
水野なんかに通うくらいなら、自転車で片道40分かけてでも、宮藤に通うほうがよっぽどまし。
今だって、私は宮藤を選んだことに、後悔なんかしていない。
4
ただ、私が失ったものがあるとするなら。
「茉莉」
「ん、何?愁真くん?」
それはきっと、
「そろそろ、帰ろうか」
「あっ、ほんとだ、いっけない!今日は見たいテレビがあるんだっけ!じゃね、美和子」
水野に、置き忘れてきた。
「はいはーい。ラブラブでうらやましいかぎりですねぇ」
私の、初めての、本気の恋。
5
「大分涼しくなってきたね。風が気持ちいいなぁっ」
「あ、ちょっと、こぐのはやいって、茉莉!!」
「あははっ、早く追い付いて見せてよ、愁真くん!」
愁真と二人で並んで、自転車をこぐ。
水野のそれよりも強い風が、髪を後ろへ流す。
肌いっぱいに、それをしみこませる。
秋祭りは、もう、すぐそこだった。
どうでしょうか?
「秋」というお題で書いた小説なんですが、祭りの描写とか、荒々しいの苦手なんですよね・・・。
なので、今回は女の子の一人称に挑戦。
男の一人称のほうが個人的に好きだったのですが、そればっかりというのも、ちょっとなあ、と思いまして。
すごくあっさりした話になったなあ、と思っています。
愁真くんと茉莉ちゃんの出会いその他もろもろ、水野の初恋の人のその後など、書きたいことてんこ盛りですが、そこはぐっと押さえて。