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茉莉の日

作者: 奏 歌音


あなたの崩壊を止められない。


真実を求めるあなたがそれを認めようとしないから。



あなたの許しを得られない。


あなたが望む世界は決して訪れることがないから。



それでも、あなたの渇きを癒したい。


あなたの世界を壊したのは私なのだから。




「茉莉、水野は今日から秋祭りだね。茉莉は行くの?」


クラスメイトの最上美和子もがみ みわこの言葉に、私、山郷茉莉やまさと まつりはあっさり首を横に振った。


「うぅん、行かないよ」


美和子はその言葉に大げさにリアクションしながら、


「あぁ、愛町心がないなあ、茉莉はあ」


そういってよよよ、と泣いて見せたりする。


「あはは……」


曖昧に笑いながら、私は、心がずきずきするのを感じていた。


水野とは、私が住んでいる町の名前だ。

ちなみに今通っている高校は宮藤という、水野から一駅離れた場所にある。


水野にも高校はあったけど、私は宮藤に通っている。

宮藤のほうが都会だし、学習のレベルも高い。


けれど、そんなの私にとってはたいした問題じゃなかったと思う。


私は、逃げてしまったのだ。


大好きだった、男の子から。




彼は、優しい、穏やかな人だった。

けれど、時々子供みたいにすねたり、大人みたいに苦しげな目をしたりしていた。


私は彼が好きで、でも、同時に怖かった。

誰にでも優しい彼が、私の気持ちを知ったら、それで私を拒絶したら、それは、私にとって、私の世界の、崩壊。


私は臆病だった。

結局何も出来ないまま、私は、水野高校ではなく、宮藤高校に進学した。


彼は、水野高校に進学したのに。


水野の町は、私を不安にさせる。


田舎のくせに。


何もないくせに。


ただ、閉鎖的で、出て行くものも少なければ、入ってくるものも少ない街のくせに。


昔は偏差値が高くて、人気もあって、でも、今は宮藤に全部奪われて、古臭い伝統が残ってるだけの、見捨てられた高校のくせに。


どうして、彼はそっちを選んだの・・・?


わかっているのに、本当は。


住んでる町の高校に進学するのは、当たり前ではないか。


はみ出し物は、私。


愛町心なんて、悪いけど私は全然持っていない。


水野高校の校舎も、制服も、そこに通っている先輩たちも、今通っているだろう同級生たちの大半も、私は吐き気がするくらい嫌いだった。


水野なんかに通うくらいなら、自転車で片道40分かけてでも、宮藤に通うほうがよっぽどまし。


今だって、私は宮藤を選んだことに、後悔なんかしていない。




ただ、私が失ったものがあるとするなら。


「茉莉」

「ん、何?愁真しゅうまくん?」


それはきっと、


「そろそろ、帰ろうか」

「あっ、ほんとだ、いっけない!今日は見たいテレビがあるんだっけ!じゃね、美和子」


水野に、置き忘れてきた。


「はいはーい。ラブラブでうらやましいかぎりですねぇ」


私の、初めての、本気の恋。




「大分涼しくなってきたね。風が気持ちいいなぁっ」

「あ、ちょっと、こぐのはやいって、茉莉!!」

「あははっ、早く追い付いて見せてよ、愁真くん!」


愁真と二人で並んで、自転車をこぐ。

水野のそれよりも強い風が、髪を後ろへ流す。

肌いっぱいに、それをしみこませる。


秋祭りは、もう、すぐそこだった。


どうでしょうか?



「秋」というお題で書いた小説なんですが、祭りの描写とか、荒々しいの苦手なんですよね・・・。

なので、今回は女の子の一人称に挑戦。

男の一人称のほうが個人的に好きだったのですが、そればっかりというのも、ちょっとなあ、と思いまして。

すごくあっさりした話になったなあ、と思っています。

愁真くんと茉莉ちゃんの出会いその他もろもろ、水野の初恋の人のその後など、書きたいことてんこ盛りですが、そこはぐっと押さえて。

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