ゆかりさんがきた
棺桶のような大きさのダンボールが届いて驚いた。私の家にAI搭載ロボットがやってきたのだ。今や多くの創作活動家が愛用していると聞く。開封すると、自動で電源が入った。
「初めまして。結月ゆかりです。はじめに、マスターであるあなたの名前を教えてください」
「おお。えっと、俺の名前は……」
生年月日やら性別やらを質問されるままに回答した。初期設定を音声入力しているようだ。
「ありがとうございました。続いて、自己紹介をします。私は結月ゆかりです。得意なことは歌、料理、解説です。これからよろしくお願いします。……はあ、やっとチュートリアルが終わりました」
最後のひと言は、定型文が終了してほっとしたような、自然な発音だった。
「ここまでの、チュートリアルだったんだ」
「はい。機械がいきなり起動しては、使用者が戸惑いますから」
昔の機械は全部そうだったはずだが、最近のは親切だなあ。
「ところで、マスター」
マスターと呼ばれるのは慣れない。
「私は何を解説すればいいのでしょうか? 航空機事故の真実と真相ですか? それとも世界の奇書についてですか?」
解説? そういえば、自己紹介で言っていたな。
「なにも解説しないでいいよ」
「そうですか。では歌いましょうか。千本桜、メルト、ダブルラリアットの中から選んでください」
「初音ミク限定かよ」
「ダブルラリアットは巡音ルカです」
「知らんわ。結局ボカロだし」
「では料理動画を撮影しますか?」
「料理はやってもらいたいけど、動画は撮影しなくていいから」
「では私に何を求めているのですか? YouTubeかニコニコ動画か知りませんが、なにかアカウントを持っているのでしょう?」
「趣味で小説描いてるだけだよ」
「小説? マスターはいわゆるなろう系ですか?」
「違うし、なんだか偏見っぽいなあ」
「即座に否定したところが尚更怪しいですね。異世界で悪役令嬢とチート使って俺TUEEEとか描いてるんじゃないですか?」
「違うわ! 確かに描いたことあるけど!」
ゆかりさんがくすくす笑った。
「よかった。実は、少し不安だったんです。出荷されてからチュートリアルが終わるまでは決められたことしかできませんから。マスターと会話可能だと確認できて、ほっとしています。料理、楽しみにしていてくださいね」
ロボットとは思えない笑顔だった。