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増幅して、膨らんで、溢れて 2

 体全体に伝わる、梨花の熱さ。

 それは決して苦になるものではなく、むしろ心地よくて、それでいてやはり落ち着かない。

 だからといって手放したくはない。

 そんな愛おしいくらいの熱さをかれこれ数分ほど抱きしめていると、

「ん……ふふ……っ」

 梨花が突然、笑みをこぼすのだった。


「えっと、どうかしたのか? もしかして、変なところ触っちゃったか? それなら、本当にごめん。悪気はないんだ……」

「ううん、そうじゃないよ。ちょっと、この時間が夢みたいで、思わず笑ちゃった」

「そう、か……それなら、提案してみてよかったよ」


 本当に突然梨花が笑い出すものだから、何かやらかしたのかと思ったがそういう事ではないと分かり、一安心。

 それと同時に、梨花がこの時間(俺とのハグ)を夢のように感じてくれている事に嬉しさを覚えた。


 調べた事を実践しているだけだというのに、底知れぬ充実感に俺は再度、体に感じる熱に意識を持っていかれそうになる。

 そのギリギリのところで、梨花は俺の頭をポンポンと優しく撫で叩きながら話しかけてきた。

「でもまさか、大和から抱きついてくるなんて思わなかったよ。やっぱり、大和もイチャイチャしたくて仕方なかったんだね〜」

「アレはそういうわけじゃないんだけどね」


 熱に溺れそうになりながらも、俺は梨花の言葉を否定した。

 かと言って、どう言ったわけで梨花に抱きついたのかを言葉にする事は出来ないのだけれども。


 今の俺には『好きが我慢出来なくて』なんて言葉を言える勇気が無いのだから。

 そしてそんな自分を受け入れる勇気もまだ無いのだから。


 と、いつものようにくだらない自問自答を繰り返す。

 かと言って、前に進む事を諦めていると聞かれればそういう訳でも無い。

 ただただ単に、度胸がないのだ。


 しかし、そんな事は梨花には関係のない事で、なんなら行動を制限する理由にもならなくて───

「じゃあ、本当はイチャイチャしたくないの?」

「そこまでは言ってないだろ。……じゃなきゃ、こんなに体を密着させたりしないだろ」

「言われてみれば確かに」

「だろ?」

 好きな人とイチャイチャしたい。今はそれだけを考えればいいのかも知れない。


 そんな風に自分に言い聞かせていると、今まで横向きの状態でハグを続けていた梨花が突然立ち上がると、

「じゃあ、もっとイチャイチャしたいからもっと体を密着させちゃう!!」

 そのまま俺の真正面に……というより、腰の上に座り直した。


 さっきまでの横向きのハグ以上に彼女の熱が体全体に伝わる新しい体勢は、俺にとって試練になりうるものだった。

 慌てて俺は梨花に問いかけてみるも

「お、おい! 梨花! この体勢はマズイって!!」

「え? でも、この方が密着しやすいもん」

「とことん、イチャイチャにしか頭にないんだな……。いや、その方が気が楽だけどなんか複雑だ……」

 本人はあまりピンときていない様子。


 純粋に、イチャイチャ度を増したい為に密着度を上げただけの梨花に、俺はただただ笑って力を抜くしかなかった。

 そして、それと同時に変な誤解を生まないように『とある箇所』には意識を集中しないようにと、心に誓った。


 だが、そんな俺をタイミングよく揺さぶってくるのだから、梨花には困ったものだ。


「あのさ、大和。私、別に大和ならどこを触られてもいいんだよ?」

「……いきなり、どうした?」

「私がさっき、笑っちゃった時にさ、謝ってたでしょ? 『変なところ触っちゃってゴメン』って」

「あ、あぁ……そうだな」

「大和の言ってる“変なところ”が何の事か分かんないけど、大和になら別にどこを触られても平気だよ、私は」


 この子は自分が言っている意味が分かっているのだろうか。

 いや、分かっていないのだろう。分かっていたら、『どこを触られても平気』なんて言葉が出るはずもない。


 少なくとも俺を“男”として認識しているのなら、尚更だ。


 だが、現実は残酷で───

「だって、大和が真面目で優しい男の子だって事、私は知ってるもの」

「梨花……俺は……」

「だから、私は平気だよ大和。思いっきり、イチャイチャしよ?」

 彼女にその気が無くても、厳しい“現実”を突きつけてくる。


 真面目で優しい。

 聞こえはいいし、実際にそう思われているのなら嬉しい限りだ。

 それが彼女である梨花から言われるのなら、さらに嬉しい。


 けれど、どこか物足りなかった。

「梨花、俺は真面目でも優しくもないよ……」


 いや、何が物足りないのか自分でもよく分かってる。

 分かっているからこそ、今ここで、梨花の肩を掴んででも確かめないといけない。


「───俺は、梨花が思っているような安全な男じゃないから」


 だから俺は、今から彼女にキスをしようと心に決め、気づけば顔を近づけ始めていたのだった。

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