いつもとは違う朝食
「ふぅ……ご馳走さま! 初めて食べる料理だったけど、とっても美味しかったよ!!」
「一人で全部食べちゃったの!!?」
「え、コレ一人前じゃないの……?」
せっかく梨花が来てくれたんだしと、冷蔵庫からお気に入りのりんごジュースを持って来るや否や、目の前に飛び込んできた光景は、満足そうにお腹を叩く梨花と、スクランブルエッグが綺麗に平らげられた皿だった。
悪びれる様子のない梨花の様子から、本気で一人前と思って食べていたのだろう。
「一応、二人で分けて食べれるように多めに作っていたはずなんだけど……そうか、梨花には足りなかったか」
ふと目を離した隙に二人前超を食べきってしまうのだから、相当にお腹を空かしていたのかもしれない。
「いやぁ〜、ははは……面目無い」
満面の笑みを浮かべて申し訳なさそうにこちらを見てるのだから、許してしまいたくなる。
少なからず、梨花に俺の料理が美味しいと思って貰えたのだと考えたら、嬉しくて堪らなかった。
「いいよ、材料ならまだあるし。どうする?」
嬉しい気持ちをなるべく表に出さないようにしながら、おかわりを提案してみる。
一度、表に出してしまったら朝食どころではない気がしたからだ。
しかし、梨花の返事は思ったものと違っていた。
「んー、大丈夫かな。そこまで私は大食いって訳じゃないし」
真顔でおかわりを断る梨花。
「二人前食べておいて……? 恐るべし、運動部」
あまりにも予想外の事で心の声が漏れ出る始末。
そんな俺の反応に、不思議そうな表情を浮かべる梨花は、恐る恐る質問をしてきた。
「これでもいつもより控えてたつもりなんだけど、そんなに多いの?」
「多いというより、結構驚いた」
「ありゃま」
どうやら、運動部の食事は少なからず二人前を食べる事もあるようだ。
よく考えれば、運動漬けで消費カロリーは桁違いに多いのだ。自然と食事量がかなり多くなってしまっても仕方のない事だ。
考え不足な自分を少し恨めしく思った。
けれど、ゆっくりと恨めしく思わせてくれないのが、今日の梨花である。
「それより、大和も早く朝ごはん済ませよ? 私、早くイチャイチャしたい!」
「はいはい、分かってるよ。もうちょっとだけ待っててくれ」
「えへへ〜、楽しみだな〜」
屈託のない梨花の笑顔が、俺と早くイチャイチャしたいが為に、出された朝食をあっという間に食べきったのかも知れないと、俺に思わせる。
早食いはあまり行儀のいいものではないが、もし本当にそうだとするなら、俺はどんな表情で梨花を見ればいいのだろう。
自然と頬が緩んで、キモチ悪い表情になりかねない。
自分の朝食を作っているうちに、少しでもカッコイイ表情を作れるようにシミレーションしないと……。
これからの事を考えながら、再びトマトとウインナーを卵と一緒に炒めていたが、出来上がったものは少しばかり焦げてしまっていた。
梨花には「あはは〜、ドンマイドンマイ〜〜」と笑われてしまったが、口が裂けても「誰のせいだと……」だなんて言えるはずもなく───。
「いただきます」
彼女に見守られながら、少し苦い朝食を食べる事になったのだった。