贋作計画
大都会の片隅に年季の入ったビルがあった。その一室をアジトとしている詐欺グループがある。
その詐欺グループのリーダーが、新たな悪事を計画していた。アジトに部下たちを呼び集める。
「いいか。一世一代の儲け話だ。この計画には、協力者が必要になる」
「…協力者ですか?」
「お前たちに、優秀なイタコを探してもらいたい」
イタコとは、死者の霊魂を憑依させる能力を持った人物のことだ。部下たちは鳩が豆鉄砲を食らったようだった。
「イタコなんか探し出してどうしようというんです?」
「イタコにゴッホやピカソなどといった画家の霊魂を憑依させて、絵を描かせるんだよ。そしてその絵を、新たに見つかった名画として売りつける」
「…それはつまり、イタコに贋作を描かせるという事ですか」
「果たしてそれを贋作と呼べるか。イタコが描いたとはいえ、画家を憑依させているわけだからな。それはもう画家本人が描いたようなものだろう。本物だと言えるんじゃないか」
「確かにそうかもしれませんね」
「絵が完成したら、画廊に持ち込む。当然、鑑定する事になるな。画家を憑依して描いた絵だ。筆使いや技術や特徴は完璧だ。本物だと証明されるだろう。世紀の大発見となり、莫大な金が手に入るというわけだ」
「さすがはリーダー。素晴らしい計画です。ゴッホやピカソにしても、死んでなお作品を発表出来るとあっては、ウィンウィンじゃないですか。さっそく、とりかかりましょう」
部下たちは、イタコ文化が残る東北地方の南部に出向き、ひとりのイタコと接触することが叶った。犯罪に協力させるには、弱みを握るか、金をちらつかせるかの二つの方法しかない。イタコ業は儲かるものでもないようで、金をちらつかせたら、すぐに話がまとまった。
贋作製作は都内のホテルで行われた。イタコはさっそく霊魂を憑依させる。目を瞑り、手を合わせ、何やら訳の分からない文句を唱える。ジャリジャリ、ジャリジャリ、と数珠をこすり合わせる音がだんだんと大きくなっていき、イタコの声も上ずり、ハイの状態になる。やがて少し様子が変わったかと思うと、オランダ語でしゃべりはじめた。オランダの画家、フィンセント・ファン・ゴッホの霊魂を憑依させたのだ。
語学が堪能な部下が、ゴッホと交渉に入る。現代におけるゴッホ絵画の価値を伝えてから、新しい作品を描いて欲しいと口説き落とす。贋作詐欺に使うとはもちろん言わない。ゴッホは、終始まんざらでもなさそうだった。そしてあっさりと承諾し、新たな絵画を描き始めた。
やがて絵画が完成すると、リーダーはさっそく画廊へ持ち込む。
「ご主人、見てもらいたい絵があるんですよ。ある骨董品屋で偶然見付けたんだが、ゴッホが製作したものじゃないかと思いましてね」
店主である画商の男は、ゴッホという言葉を聞き目の色を変える。
「どれ、どれ。本物なら世紀の大発見ですぞ」
と、持ち込まれた絵を凝視する。
ゴッホの霊魂を憑依させて描いた絵画は、まばゆい黄色と厚塗りの筆跡が残った風景画であった。夜空には、ぐるぐるした渦巻く星や月が描かれている。リーダーの思惑通り、筆使いや技術や特徴は完璧だった。イタコの体を使ったとはいえ、ゴッホ自身が描いたのだから、当然といえよう。
「どうです?ゴッホの絵に間違いないでしょう」
リーダーは得意げに言った。しかし画商の男は、首を横に振り言う。
「これは贋作だな」
「ハァ!?そんなわけはない。ゴッホだって。ほら、この筆使い、どう考えてもゴッホだろう。ゴッホでないわけがない。もう一度ちゃんと見てくれ」
「何度見ても結果は変わらんよ」
「どこがゴッホでないと言うんだ」
「この描かれている風景、東京だろう」
「え!?」
「ほら、ここに描かれてあるこれ、東京スカイツリー」
「え!?」
そういえば、贋作製作の為に用意した都内のホテルからは、東京スカイツリーが一望出来た。
終