story:14
海上に浮かぶようにして建っている大きな鳥居が見えてから数分して、フェリーは遠足の現地である島に到着した。港を経由して外に出ると、土産物店や島の中央に位置する山などが見え、全体的に開けた通りが広がっている。
義朗を先頭に、後ろから凜たちが続く。せっかくなのでこのメンバーで島内を散策するという意向になったため、四人グループで行動する。後方からぞろぞろと圧を含んだ足取りで凜や美遥、來太がついてくることに気付き、義朗が驚き交じりに突っ込みを入れた。
「うおおぃ! なんねぇこれは! 大名行列みたぁになっとるでぇ!」
前方に立場が上の者をおいて部下を従えているように見える様は、まさに大名行列そのものだ。狙ってもいない自身等の隊形を面白く思い、義朗は不意に笑ってしまった。それにつられて笑う凜はまた別のイメージが湧いたようで、一人ひとりに目を向けながら言う。
「大名行列? 私はどっちかっていうとRPGのパーティみたいだと思ったけどね! じいちゃんが勇者で私が魔法使い、美遥がヒーラーで來太がかませみたいな!」
「おい? なんか一つだけ不名誉なのがあるで?」
良くも悪くも、明らかに來太に注目した発言を続ける凜に対して当人は苦笑する。美遥は流れに便乗して一言添えた。
「一列になって動きもカクカクする?」
現役の高校生同士でコアな話が始まりかけている気がする。義朗はこのままではだらけてしまいそうだったため、仕切り直して三人に呼び掛けた。
「ほんでのぅ、そういうんよりまずぁ何処行くんね?」
着いたはいいが、何処から見て回っていこうか。観光地ということもあって名所は沢山ある。世界遺産に認定されている神社や水族館、登山コースの頭上に伸びるロープウェイや神聖な炎が鎮座しているお堂など様々だ。基本的に自由行動のため、何処へ行こうが自分たちしだいである。
先程からの笑顔を崩さぬまま、凜が答えた。次いで、美遥と來太も同調する。
「みんなが楽しければ何処でもいーよ!」
「私も、何処でもいい」
「俺も!」
皆一様に同じ意見だった。とりあえずは、来たからには何かしらのことをして楽しめればいいという。そんな曖昧な返答しか挙がらないことに義朗は溜め息が出たが、現役の高校生たちに投資する意味を持ってして一同をリードする。
「ほうね、ほいじゃったら水族館のほうに向けて一通り歩いてみるとするかの。途中土産屋があるけぇの、帰りにそこで土産でも買や良かろうて」
「さすがじいちゃん! 分かっとるねぇ!」
こうして義朗一行は、島の水族館に向けて歩き出した。程々離れた距離にあるため、道中で色んな発見や風景を楽しむことが出来る。まずは土産物店や名産品を取り扱う店が軒を連ねる通りを歩いて、そのまま商店街に突入した。気を抜けばはぐれてしまいそうな人混みが、そこにある。
人の波に流されそうになって連れを振り返り、義朗が注意を促す。
「うおお! 凜、美遥、來太、道は譲りんさんなよ? 譲ったら流されるで?」
後方の凜たちは、ひたすら先頭の義朗についていくほうが賢明だ。本来なら周囲の人間に気を遣いたいところだが、この場に至ってはそれは通用しない。連絡手段はあるにしても、実際にはぐれてしまえば面倒臭いのは目に見えているため、來太は得意気に対策を述べる。
「お、そーよ! そんなら一列になって後ろから肩掴んで進むのはどう? 電車ごっこみたいにさ!」
「普通に恥ずかしいでしょ、それ。だったらせめて服の裾を掴むとかにせん?」
來太のズレた発言に、淡々と突っ込む美遥。言うのは勝手だとしても、人目を気にしないわけにもいくまい。前方の義朗と凜は、何も言わずに來太の言葉を聞き流した。
商店街を過ぎると、石造りの鳥居の前に出る。その向かい側からこちら側まで戻ってきている観光客が、鳥居の方を振り返って礼をしているのを見るに、そこからが神社の敷地内になるのか。とはいえ凜は、神社と呼ばれている範囲は更に先にあるものだと思っているため、他者との認識の違いを疑う。
「えっ? なんか礼してるっぽいけど、ここからが神社の中なん?」
以前家族と来た時はそのまま鳥居の向こうまで歩いていたが、実際はどうなのだろうか。義朗は言われてみれば、というように一瞬だけ沈黙を挟み、眉根を潜めて鳥居を見据えると、軽い足取りで歩み出しながら答えた。
「分からん。ほいじゃが、念のため真ん中は避けて通るようにしようかの」
参道は神様が通る道のため、真ん中は避けて端を通らなければならないというマナーを重んじての対応だ。分からないことは分からないと正直に言い、自分なりの出来る限りで連れを誘導する。基本的に左側通行で人が流れているため、義朗たちもそのまばらな波に乗った。
夏祭りなどでよく見られる屋台や、風情を感じられる灯籠、和の雰囲気を助長する五重の塔が見られる通りを道なりに行き、一行は世界遺産に認定されている海の上に建てられた神社の入り口に立つ。外観からしてみても、鮮やかな朱色と海の青というコントラストがとても美しい。参拝する前に、受付及び拝観料の支払いを済ませて中に入り、本堂を巡る。
神社内の見学が終わると、改めて島の奥まで行き、古民家が建ち並ぶ道を経由して水族館に辿り着いた。普通に生活していれば見られないような海の魚や、ペンギンやスナメリなどの海洋生物を見て、ひと時の感動を覚える。館内は魚たちの生活環境に合わせてか、薄暗い照明に照らされた部屋もあった。
一応はこれで目的地まで行き、名所の一部は見て回ることは出来た。あとは時間帯も踏まえた上で昼食を取るために、商店街に向けて踵を返す。先刻の石造りの鳥居があるところまで戻ったタイミングで、來太が何気なく呟いた。
「あー、マジで腹減ったなぁ。何食うよ?」
「うおお、ほんまよの。まー、昼飯時じゃけぇ何処の店も多いじゃろうての」
現に自分たちを含む2年生全員に加えて一般の観光客も島内に居るのだ。飲食の店舗数からしても、何処の店も客でいっぱいだろう。行列は目に見えて分かる。こうなれば行く店だけを絞ってその行列に並ぶか。そう思案していた最中、義朗の視界にはいつかの軌道が過った。
「っ!」
「じいちゃん!」
「うおお……!」
今回ばかりは、凜にも軌道が見えたようだ。それを察した義朗は、確信めいて大きく頷いた。まさか黄泉に戻る手がかりが、この島にもあるかも知れないとは。一方で状況が読み取れておらず、呆けた様子の來太たちに適当な理由をつけてその場を離れる。
「すまん、來太に美遥や。ちと電話せなぁいけんことがあったけぇの、ここで待っとってくれぇやの?」
「すぐ戻るけんねー!」
言うがままに、義朗と凜は何処からか伸びている黄金色の軌道をなぞっていく。來太は突然の動向に呆気に取られ、二人をただ見送ることしか出来なかった。
導かれたのは、海を挟んだ先に見える遠方の山々や穏やかな風に吹かれてゆったりと回る風車が目に止まる砂浜だった。踏み締めるたびに沈んで足を取られる砂の上を歩き、その一画に浮かぶ温かい光の球体と対峙する。周囲の風景と同化しているようにも見えるそれは、まるで地上に舞い降りた太陽のようだ。
「これよのぅ、記憶の破片とやらは」
「間違いないでしょ、前に見たのと同じだよ?」
手を伸ばしながら確認する義朗に、凜は先日の出来事を思い返しながら答える。触れた途端に、在りし日の記憶が蘇ってくるはずだ。その予想は的中し、二人の脳裏には過ぎ去った日の光景が流れ込んできた。
凜が2歳の赤子の時だったか、義朗は当時この場所に娘夫婦や自身の妻とともに訪れる。文字通りの家族旅行だった。その日も雲一つない晴天で、凜にとってはこの上ないほどに解放的な環境だったことだろう。観光地で得た思い出は、今も記憶として自身等の中に刻まれていた。
「今日、こうしてまた二人で同じ場所に来られたんも、巡り合わせじゃったんじゃのう」
記憶の破片、黄泉に戻るための手がかりは、いつ何時現れるのかは分からない。ましてや、あとどれほどあるのかも不明瞭だ。
戻るべき場所への鍵をまた一つ手に入れて、二人は目下の行事に改めて臨むのだった。




