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story:10

新学期特有の真新しい環境を彩る独特な空気感が拭い切れない4月中旬の平日、2年2組の教室では4時間目にてタブレットを使った授業が実施されていた。生徒一人ひとりが学校から支給された電子の板を使用して、担当教員の解説を聞きながら学習を進めていく。普段から常々スマートフォンをイジっているような大体の生徒は余裕でその内容についていけているが、あまり慣れていない義朗は所々で困惑している。


操作などについて分からなくなるたびに、その都度右隣の席に居る凜に訊く。


「凜、今のはどうすりゃあよかったんね?」


「ん? これはね、ここを開いてこれをタップすればええんよ」


「うおお、なんじゃあね、こりゃ。真面目に聞いとっても分からんわぁや」


やはり、近代的な要素に触れると頭が追い付かない。物事を吸収するのに多少時間がかかりそうだ。慣れていないぶん新鮮で面白く思うこともあるが、理解するまでが難しいか。他の生徒からしてみれば当たり前でも、義朗にとっては遥か遠い未来の授業を受けているような感覚だ。いや、実質的にそうではあるのだが。


「うむぅ……、どうしたもんかのぅ……」


眉間にしわを寄せた義朗がタブレットの画面を見詰めているのもさることながら、教室の後ろ側の席に座っていた洲堂美遥は、遠目から一生徒の不審な動向に目を向ける。自身から見て右方向、向かい側で背中を丸めてタブレットを操作している夜海來太は、授業の進行度合いとは一致しない指さばきで液晶に触れていた。


「……………………」


自分の予想が正しければ、彼は写真をメインに投稿するSNSに自身のアカウントでログインしてフォロワーの投稿を閲覧しているか、勝手にゲームをインストールして遊んでいるかのどちらかだろう。いずれにしても、まともに授業を聞いていない。美遥は脳内でそんな仮説を立ててから、もしもの場合を想像して胸中で笑う。


(本当にそれで先生に見つかったら面白いよね)


個人的には黙認するが、後のことは自己責任だ。來太本人が授業についていけなくなろうが、担当教員に怒られて内申を下げられようが知ったことではない。サディスティックな思考に頭を預けながら、美遥は授業の内容に意識を向け直した。


一方の來太は、美遥の予想通りSNSを閲覧している。フォロワーの24時間以内の近況を発信する投稿は、平日の午前ということもあってか更新がかなり少なかった。それらを全て見終えると、抜かりなくログアウトしてからホーム画面に戻り、猫のイラストが描かれたアイコンをタップしてパズルゲームを開く。


一体何処から湧いてくる自信かは窺い知れないが、とりあえずは授業そのものはなんとかなる気がしていた。


担当教員の目を盗みつつ、來太はゲームを始める。パズルゲームということもあって、頭と集中力を主に使う。だが、そのぶん注意力が散漫になるため、教員に見つかるのは時間の問題だった。


來太の視界に、影が降りる。それにつられるようにして顔を上げると、青髭を蓄えた中年の男性教員が眼前に立っていた。


「なにやってんの?」


「…………あっ!」


自業自得とはまさにこのことか。結果的に來太に対する処罰は特になく、軽い注意だけで済まされたが、担当教員の中で今後彼に向ける目は厳しくなっている可能性は否定しきれない。元来の目立つ雰囲気や印象も合間って、マークはされ続けられそうではある。


そして昼休憩の時間に入り、授業中の微々たるざわめきを引きずったまま昼食の用意に取り掛かった。同時に席を立った凜と義朗は、食堂に向かうついでに來太を煽りに行く。


「なにしよん、來太! バカなんじゃないん?」


「そうじゃ! ちゃんと聞いとかんとわしみたぁに分からんよーになるでぇ?」


ヘラヘラと笑いながら、來太の目の前に立って指摘を入れる凜と義朗。更にそこへ、気まぐれで寄ってきた美遥も後押しする。


「よくもまぁ、慣れもせん相手にあんな堂々とできたよね」


先刻の授業の教員は、最初に顔を合わせてから二度目の対面だった。まだ相手の素性や生徒に対する態度も読みきれない中でよく内職を決行できたものだと言いたい。忖度を抜きにして來太へ淡々と突っ込みを入れた美遥に、凜は意外性を感じて振り返った。


「あれ? 美遥から來太に絡むって珍しいね」


次いで話題の中心人物である來太は、凜に注目してその代名詞ともいえる言葉を引用する。


「萩庭もよく言ってんじゃん! 細かいことは気にしないの! ってさ」


祖父から引き継いだといっても過言ではない前向きな口癖だが、発祥である義朗が客観的な観点からそれを切り捨てる。


「そんなんいうてもやるこたぁ、ちゃんとやれぇやの? 何でもそう言って許してもらえる思うとったら間違いじゃけぇの?」


「ほんまそれな。確かに私もよく言うけど言えばなんでも許される魔法の言葉じゃないからね?」


笑顔を含んだ柔らかい言い方だが、意味は全くその通りだ。ものによっては反省はしているし、投げやりになってもいない。しかし、來太は角が立たない程度に凜に煽り返し、痛いところを突く。


「えっ? そしたら萩庭の1年の時の遅刻とかが何回もあったのはどうなるん?」


「………………」


図星で押し黙る凜。祖父はまだしも、自分こそやるべきことをやっていなかった気がした。返答に詰まったからこそ、凜が言えることはただ一つ。


「細かいことは気にしないの!」


「言えねぇだろうが!」


いや、どっちもどっちである。

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