【7話】中学卒業式
よろしくお願いします。
〜卒業式当日〜
「フー、よく寝た」
僕はこの日、とにかく機嫌が良かった。いよいよ、中学生活最後の日がやってきたからである。そう、卒業式である。ある意味僕が一番楽しみにしていた日である。なぜなら…
「はあ、やっとこの地獄の生活が終わる」
そう、僕にとってこの中学三年間は地獄そのものだった。中一からいじめが始まり、親からの罰も始まった。三年かけてエスカレートしていき、人生で最悪と言ってもいいだろう。まあ、たかが十五歳の僕が言えるもんでもないけど。
僕はいつも通り制服に着替えて、学校へ向かう。
特に友人みたいなヤツはいないので、一人で颯爽と歩く。
そしたら、今までで最短時間といってもいいくらい学校に早く着いた。学校の正門には『卒業証書授与式』という立て看板があった。
そして、上履きに履き替え教室に入る。黒板には卒業時によく描かれる黒板アートが描かれていた。そして、このクラスの生徒全員の名前も書かれていた。当然僕のもだ。
ここにいるヤツらが、僕を本当にクラスメイトとして思っていたのか甚だ疑問だが、今回はそう思ってくれてたと思っておこう。
その後、教室にどんどんクラスメイトが入ってきて、正装をした担任の伊藤が入ってくる。そして、話し始める。
「今日は、お前たちの中学生活で最後の晴れ舞台だ。この三年間多くのことがそれぞれにあったはずだ。そのことを振り返りながら臨んでくれ。いいな?」
『はい!』
全員が声を出す。そして、整列して体育館へと向かう。その左胸には、卒業式用のコサージュを付けている。
そして、入り口にたどり着き…
「じゃあ、行くぞ」
僕は体育館に入った。保護者や在校生が拍手をしている。そして、指定された場所へ進みそこに用意されたイスの前に立つ。
全員が並び、一礼して座る。
卒業生一同が揃うと、壇上に副校長が上がり、開式の宣言した。
まずは来賓紹介や国歌斉唱など、どんどん進んでいく。
そしてついに、卒業証書授与の番がきた。僕の学校は結構な人数がいるので、代表者が壇上に上がり、証書を受け取る。
担任がクラスの生徒の名前を呼び、呼ばれたら声を出して立つ。別のクラスの佐藤の名前も呼ばれた。
「はい」
流石に卒業式には来ていたようだ。親からも言われたのだろう。その後も、下っ端連中の名前も呼ばれた。
他のクラスが呼ばれて、ついに僕のクラスがきた。どんどん名前が呼ばれていく。そして…
「松下遼!」
僕の名前が呼ばれた。機嫌が良かったのか、
「はい!」
結構大きな声を出せた気がした。おそらく中学生活で一番の声量だろう。音楽の授業でもこんな声は出したことはなかった。
その後も式辞や送辞、答辞などが順調に進み、ようやく最後の校歌斉唱がきた。これが終われば卒業式は終了となる。
〜国歌斉唱中〜
校歌も歌い終わり、閉式が副校長から宣言され、卒業式は終了した。あとは退場するだけだ。
女子の多くは泣いている。中には、男子にも一部泣いているヤツがいた。まあ、高校からは別になるヤツがほとんどだ。
僕は特に友人らしいヤツなんていないから泣くこともないが、実際いろいろあったのは事実だ。
その後、僕のクラスの順番が来て、拍手に見舞われながら退場した。その時の表情は、明るかった。
教室に着くと、一人一人に卒業証書と通知表が渡された。
それは僕も同様で、伊藤から、
「卒業おめでとう」
と言われた。あまり嬉しくはないが、たまにはこういうのもありかもしれないと思えた。
そして、最後伊藤からの言葉があった。
「みんな、卒業おめでとう。この三年間、いろいろあっただろう。でも、それも必ず大人になった時に役に立つ。高校も別になるからといって、決してそれが最後という訳でもない。これからも、きっと良い出会いが待ってるはずだ。それを楽しんで、良い人生を送ってくれ。そして、たまには遊びに来いよ!」
伊藤の目には涙が溜まっていた。この時が、彼を初めて先生として認めた瞬間だった。
その後、南先生も駆けつけて最後の言葉を話してくれた。内容は伊藤とほとんど変わらなかったが、あまりにも号泣しすぎて、途中何を話してるのか分からなかった。
でも、それだけ生徒を大切にしてたのだと思えた。僕についても決して救ってはくれなかったが、僕の辛さは理解はしてくれた。それだけでも、心のどこかで安心を得ていたのかもしれない。
そして、解散となった。これで、本当に中学生活は終了となった。
放課後、僕は南先生と話した。
「松下くん、本当にごめんなさい!」
先生が頭を下げた。もう終わったことだ。
「もういいです、少なくとも先生が相談に乗ってくれただけでも十分落ち着けましたから」
「なんか、松下くん、変わったわね」
「えっ?」
突然の言葉に、戸惑う僕。
「急にごめんね。なんか男の子らしくなったというか、たくましさが急激に出てきた気がしたの」
「そうですか」
僕は適当に返して、
「まあ、高校でもなんとか頑張ります」
「あの星峰だものね。あそこはレベルがめちゃくちゃ高いから頑張ってね」
「はい。先生、ありがとうございました」
「ええ。卒業おめでとう!」
お互いに握手をして別れ、僕は下校した。
帰宅途中僕は、これまでのことを振り返った。それは決して許されないことばかりが思い出となってしまったが。
本当に不幸だったと思った頃は、何もかもが嫌で死にたいとさえ思った。学校でのイジメに、両親からの虐待。これはもはや、今の僕を形成しているといってもいい。
このおかげで、僕は何事も疑うということを知った。決して信じることだけがすべてではないのだと。裏切られる可能性もあるのだと。
でも、あのコインを拾ってから、本当に馬鹿みたいにありえないことが起こり続けた。正直、僕は困惑せざるを得なかった。
この前の星峰合格の際もそうだ。僕は推薦式の中で特待生扱いとなったことで授業料免除となった。授業料免除のことは以前、蓬莱院さんが打診の際に約束してしまったため、たとえ特待生でなくとも授業料免除の可能性はあっただろう。
ただ、言っていた面接が重視されるはずの推薦式で、なぜその面接がダメダメだった僕が合格で、しかも特待生扱いとなったのかがまったくわからない。まさか筆記が良かったからなんて理由はない、と思いたい。
彼女がまた何かしたのか、それとも本当に会議でそうなったのか。どちらかはわからないが、おそらく後者だろう。でも、どちらにせよ今回のことはよかった。
「これで、ついにあのクソ両親の元を離れられる」
これは僕が受験校を選ぶ際、最優先として考えていたことがあった。それは、一人暮らしをする際の寮があるかどうかであり、学力的な面は二の次だった。寮があるなら、僕は自由にできる。つまり、解放された気分になるのだ。本当に素晴らしい。
僕が星峰の受験を決めた要因の一つに、その寮が関係していた。どうやら星峰は完全寮制で、決まった期間を除いて学校の外に出ることはできないらしい。僕にとってはとにかく一刻も早く両親の元を離れたかったから、寮生活ができる学校を受けまくったのだ。
そして、今回決まったのが星峰だった。公立高校は受けなかった。そもそも、授業料免除の超名門校に合格したのに、わざわざ受ける理由がない。
しかし、今の僕はこれでよかったのだろう。もしあの日常が続いていたら、僕はもしかしたらこの世にすらいなかったかもしれない。
でも、最近のことは正直言ってしまえば、僕自身にもわからなかった。一体何が起こっているのか、どうしてこうなったのかなど。もしかしたら、僕の将来は…
そう思っていると、いつも間にか自宅に着いていた。そして、ドアを開ける。
「ただいま」
「遼、卒業おめでとう」
「おめでとう」
両親のいきなりの言葉に」
「うん。ありがとう」
と、最後の一言は呟きながら扉を閉めた。
僕の将来は、【HAPPY COIN】が握っているのかもしれない。
読んでいただきありがとうございます。
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