【4話】嫌な予感
よろしくお願いします。
あの後、両親と合流して何事もなく自宅へ帰ってきた僕は、あの出来事について考えていた。
「どうしてあの時…」
僕はどうしても理解できなかった。あの場所は死角となっていて、しかも森が生い茂っており、声が届きにくい場所だった。それなのにはっきりと声が聞こえた。周りは気付いたような素振りはなかったことから、僕だけはっきり聞こえたことになるのだ。だから、明らかにおかしいのである。
コインのことも疑ったが、何より証拠がない以上断定するのは難しかった。
一方で、最近僕自身にも力が付いてきたように感じる。勉強しているので当然といえば当然なのだが、なんでも記憶力が以前より明らかにいい。別に勉強方法を変えたわけではない。点数をあげられたことで、親からの罰が減ったからか。それは一理あるかもしれないが、それが理由といわれるととても答えられない。それに、相変わらず罰はある。これも手元にあるこのコインの仕業なのだろうか。もはや訳がわからない。
でも、これ以上考えても受験のことを考えると支障をきたすかもしれない。
「仕方ないから、一旦置いておこう…」
僕は机に向かい、勉強をはじめる。
この日以降、特に何かが起こるわけでもなかった。塾でのテストもいつも通り満点、決して事前に特定の場所を見ていた訳ではない。きちんと実力が付いてきた証拠といえる。
塾での三者面談でも、きっともっと上のやつを受けてもおそらく受かるだろうと推しを貰った。でも、学校の成績が反映される以上、上のレベルに合格するにはテストの点数を上げる他なかった。
あと、宝くじの件だが当選宝くじを手紙と同封して、災害被災地に書留として郵送した。僕が持ってても仕方がないから。
後日、当選宝くじが届いた被災地は、お礼を言いたいとテレビやSNSで呼びかけているが、目立つのが嫌なので決して会うようなことはしない。
〜始業式〜
そして、いよいよ中学生最後の学期がやって来た。しかし、一つ問題があった。佐藤のことである。ヤツは一度決めたことはどんな手段も厭わず、最後までやろうとする。再び、僕の体はボロボロになるのだろう。せっかく良くなったというのに。
僕はボロボロの制服を着て、学校へ向かう。どうせ退屈だ。友達なんていないし、教師も信用なんてしていない。どうせ佐藤たちにやられているのをただ遠くから眺めているだけ。そんな教師はさっさと辞めてしまえと思う。
唯一理解はしてくれる南先生だけど、結局自己保身で報告しない。
そうイライラしながら歩いていると、いつのまにか学校に着いており、教室に入ってただ窓から外を眺める。
「本当、面倒くさい」
そうため息を吐いていると、クラスが何やら盛り上がっている」
「ねぇ、聞いた?佐藤のヤツ、父親に怒られて謹慎処分を受けたって」
「マジで!うわー、ダッサw」
「つるんでたヤツらも哀れだよなぁ。アイツら佐藤がいないと何もできないじゃんw」
どういうことだろうと思っていると、担任の伊藤が入って来た。
「はい、先に着け〜!朝の朝礼始めるぞ〜!」
僕含め、クラスの生徒全員席に着く。そして、伊藤は話し始める。
「今日はこの後始業式があって、その後は掃除して終わりだから、おそらく昼頃には解散になるだろう。あと、佐藤は家の事情でしばらくお休みだ。以上。質問あるヤツはいるか?」
誰も手を挙げなかった。
「じゃあ、この後体育館に行くから並べ!」
この後、式特有の校長のダラダラ長話を聞いて、終了後掃除をしていたら、あっという間に昼頃になっていた。
そして、放課後になった時伊藤に呼び止められた。
「松下!ちょっといいか?」
「えっ。あ、はい…」
「この後時間あるか?」
「まあ、ありますけど…」
時間はあるが、早く帰りたいので早めにしてほしい。
「ちょっと校長室に来てほしいんだが、いいか?」
は?なんで校長室なんだよ。
「あの、僕別に校長と話すことなんて無いんですが…」
「いや、校長と話すのではなくて、もっとお偉いさんだよ」
「校長よりもえらい人?」
とりあえず伊藤とともに校長室へ行く。そして、伊藤はドアにノックをする。僕はこの時、すでに嫌な予感はしていた。
「失礼します。生徒の松下を連れて来ました」
「どうぞ、入ってください」
「し、失礼します」
ドアを開けて入ると、そこには校長と一人の少女が座っていた。しかも、その少女にはとても見覚えがあった。やはり嫌な予感は当たっていた。なぜならあの時、僕が再会したくないと望んでいた少女だったから。
「お待ちしていましたよ。松下くん、だよね?三組の」
「えっ、あ、はい…。松下遼です」
「座ってくれ」
「あ、はい…」
校長に言われ、少女の真向かいの席に着く。そして、隣に担任の伊藤が座り、謎の四者面談が始まった。
「えっとね、松下くん。この方は 、蓬莱院財閥のご令嬢の蓬莱院 梓さんだ」
「松下遼さん。この間は助けてくださって、誠にありがとうございました。改めて、私は蓬莱院梓と申します」
まさかの大財閥のお嬢様かよ!蓬莱院という名は流石に僕でも聞いたことがある。世界でも屈指の大財閥で、政治や経済界との関係も深い。また、僕も利用してる蓬莱銀行や、車の蓬莱モータースなど専用の経営店を持ち、総資産は数十兆とも言われている。
「あ、えっと、松下遼です。お礼は別にいりません。ただ近くを通っただけですから。で、なぜ僕がこの学校にいるってわかったんですか?」
「あの後、失礼ながらあなたのことを調べさせて貰いました」
「はあ…」
再会なんてしないと思ってたし、再会するにしても流石に早すぎる。まあ、世界屈指の大財閥の情報網からすれば、一人の情報など雑作もないのだろう。
「それで、僕になんの用でしょうか?」
「松下くん。実は君に、星峰の推薦の打診が来ているんだよ」
「えっ!」
私立星峰高校。全国でも屈指のお嬢様学校で、エリートだらけの超名門校。ここを卒業できれば、将来は約束されるともいわれている。現に、多くの政治家や大企業のトップなど多くが星峰出身だ。でも、この学校に推薦枠というのはなく、完全な実力主義だったはず。
「しかし、なんで僕なんですか?もっといたと思うんですけど…」
「これは私が打診したのです。単純に言うなら、あなたが助けてくれた時から、あなたのような生徒がほしかったのです。どうしてもああいう相手に立ち向かう勇気は必要ですからね。それと個人的に、松下さんとともに学んでみたいと思ったのです」
最後のその言い方だと、完全に告白みたいな感じだな。それに、このためにわざわざ僕を探し出すとか、再会するにしてもやり方が大胆すぎる。常識的に考えられない。まあ、こういうのもお嬢様の特権と考えればわからなくもない、かもしれない。
「ですが、僕の成績を考えるとかなり厳しいと思います。それに、星峰には推薦というのは無かったはずです」
そう、これまでの星峰の入試は、私立としては珍しい五科目の合計得点だ。それに、中学の成績がほとんど反映されないというのは有名な話である。
「ウフフw」
今の一言に、お嬢様は笑う。
「何かおかしいこと言いました?」
「それなら、今年から推薦枠が採用されたのです」
「……はあ!?」
この時僕は、三学期が始まったけど、初っ端から思いがけない出来事に困惑していた。
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