【12話】変わり者の奴ら
よろしくお願いします。
担任が教室を去った後、僕たちはしばらく静寂の中に包まれていた。その中で、蓬莱院さんが言葉を発した。
「何だったんでしょうか?」
「僕に聞かないで下さい。それにそのことを思ったのは、僕だけではないと思いますよ?」
「えっ?」
蓬莱院さんが僕以外のメンバーに目を向けると、やはり同じことを思っていたようで、頷いた。
「一応あの人が、僕らの担任ということだけは間違いないと思います。」
「そ、そうですよね…」
僕が軽くフォローを入れると、蓬莱院さんは何か不満そうだったが、納得してくれた。すると…
「でもさ、あの先生面白そうじゃない?ウチ、結構好きだよ?ああいうキャラ」
今の発言は、小峰未来である。見た目は完全に小学生だが、実際は元天才子役だ。そのため、今の発言が本音なのか演技なのか僕にはわからなかった。
僕は、これまでの経験で人を疑うということを覚え、今もなお続けている。これまでで信じても良いと思えるのは、蓬莱院さんと彼女と同い年で専属メイドである一宮さんくらいだろう。
「そうですね。自分もああいう自由奔放な感じ、悪くはないと思いますよ?」
今度はメガネをかけた藪敷湊だ。こいつは全国模試で常にトップクラスを維持し続けた天才。見た目は真面目そうだが、実際はどうやら…
「俺も結構イケてると思うぜ?」
陸上の日本チャンピオンである善野翔まで言い出した。ただでさえ、こいつらがなぜこの学校に来たのかわからないというのに。さっきの自己紹介でさえ、あれが本心で言ってるのかなんてわかるわけないのだ。心が読めるわけでもないのだから。
今、僕の制服のポケットにはあのコインが入っている。それでも、今まで他人の心を読むことなんて出来たことがない。そもそも、あれにそんな機能が付いていたら、それはもう気持ち悪いという他ない。
「そうですね。私も今まで真面目な先生しか出会ったことがありませんので、ああいう感じの方も新鮮に感じます。」
遂に蓬莱院さんまで言い出して、結局あの担任を信じるということで結論が出た。
(本当、なんで誰も疑うことをしないのやら…)
このことは、僕はあえて言わないでおくことにした。
その後、解散となり蓬莱院さん以外の三人と別れた。そして、専属メイドの一宮さんが迎えに来て、学食で昼食をとり、その後図書館に向かった。
図書館にて
「で、彼らはそう仰ってたわ」
蓬莱院さんは、あの三人の自己紹介について教え、僕は自分の知っていることを教えた。また一宮さんも三人について調べてくれているようである。一体いつ調べてるのやら…。
「はい。あの三人は松下様の仰るように、彼らにはそれらのような過去があります。また、それぞれに特質した能力を持っています。それもとびっきりの」
「特質した能力?あの三人に何かあるのですか?」
理解出来なかった蓬莱院さんが質問する。これに一宮さんが答える。
「お嬢様。これは私の考えになりますが、それぞれ説明していきます。まずは藪敷湊ですが、彼は知識面で天才的な力があると思われます。彼は一般で入っていますので成績を調べたところ、やはり筆記試験に関してはほぼ完璧でした。特に国語は、文句の言いようのないほど完璧な解答となっていました。この事から、彼は知識面での力があると判断しました。」
「ふん。なるほど…」
「いや、ちょっと…」
思わず話に入ってしまった。
「どうかしましたか?」
「いや、どうしましたかって…。なんで成績のことを知ってるんですか?そもそも、どうやって調べたんですか?」
「普通に調べましたが…」
「普通って…」
「松下さん?」
「は、はい…」
この時の蓬莱院さんの表情が、まるで彼女を信用しろとでも言うような不気味な笑顔で、ものすごい恐怖心を覚えた。
そうだ。彼女はいくらメイドとはいえ、あの蓬莱院家に関わる者だ。蓬莱院家の情報網なら、たかが一人の成績データの入手など造作もないだろう。
これを悟った瞬間、僕は言うのを諦めた。
「あっ、いえ…。続けて下さい」
「よろしいですか?では再開します。今度は小峰未来ですが、松下様も仰ってたように、彼女は元子役です。筆記試験自体は特待生でない生徒とさほど変わりませんが、面接ではただ一人全員満点を付けています。この学校の面接官は決して満点をつけないことで有名です。」
「てことは…」
この時点で、僕と蓬莱院さんは察した。
「はい。彼女は面接を演技でこなしたものと思われます。芸能界でのドラマや映画のキャスト選考は、オーディションで行われるというのが当たり前らしいので、今回も似たようなものかと」
「なるほど。それならまあ…」
たしかに、オーディションとかで面接のようなものは慣れているから、彼女からすれば当たり前のことをしたのかもしれない。
「最後に善野翔ですが、彼はオールラウンダーといった感じです。試験結果も全体的にバランスが良いです。ただ、一般で受けた理由がよくわかりませんが」
「一般なんですか?彼が受けたのは」
「はい」
たしかによくわからない。仮に彼の家庭、もしくは彼自身に問題があるなら、それは彼のプライバシーに触れる可能性がある。少なくとも、そこまでして強引に調査する必要性は僕にはない。
「これは、彼自身に問う必要がありそうね」
「はい。こればかりは彼自身に直接聞かれた方が早いかと思います」
「そうね。ところで…」
「申し訳ありません。Sクラスのことについてはまだ…」
「まあ、そこまで慌てて調査する必要性もないから、ゆっくりでいいから確実な情報を得てちょうだい」
「かしこまりました」
二人にとっては、これが当たり前なのだろう。ただ…
「昨日の今日でそんなのわかったら、僕は少なくとも引きます」
これだけを二人に伝えて、今回は解散となった。
「はあ、疲れた…」
解散後、僕は部屋に戻ってきた。初日のはずなのに、疲労感が尋常じゃない。
「これがこの学校のオーラのようなものなのか?」
そんなことを考えていると…
「うん?またか…」
ポケットに入っていたコインが光り出した。それを手に取ると…
「なんだこりゃ!?」
コインの光が壁に当てられ、そこから謎の映像が流れ始めた。僕はこのコインが起こす事は、すべて本当のことだとすでに決めている。今までの流れからして、いきなり嘘のことをやるとは考えにくい。しかし…
「これのどこがハッピーなんだ?ただの盗撮じゃないか」
それは誰かの部屋の映像だった。完全に盗撮状態である。このことが本人にバレたりなどしたら、完全に盗撮を疑われることになり、最悪退学なんて可能性も出てきてしまう。
「秘密にしとこう…」
そう決める僕だった。そして、改めて映像を見る。
「この部屋、まさか…」
その部屋には、大量の筋トレ道具があった。そこへ、誰かが帰ってきた。その人物はやはり…
「善野の部屋か…」
善野の部屋だった。その善野は帰ってきた途端、すぐに運動着に着替えて筋トレを始めた。それも尋常ではないほどである。
「これは、流石に筋トレバカとしか言えない」
ただ、この映像は自己紹介の時の特技、趣味の証拠にもなりうるから、これはこれで利用できる。今回は、彼の趣味は合っていると言っていいだろう。
しかし、この映像は一体いつ終わるのだろうか。今回が初めてで終了時がわからない。
「いつまでやってんだ?これ…」
すでに二時間経っていた。その時間中、風呂に入ったり夕食をとったりしていた。それでも、未だに終わる気配がない。
「流石に飽きてきたから、科目選択でもするか」
そう自分に言い聞かせながら、科目が書かれた便覧を開く。すると…
「よし、今日はこれくらいだな」
どうやら善野は筋トレを終えたらしい。僕はある意味感心した。
「本当、筋トレバカ…」
『だな』を入れようとした時、僕の感心は一切消え去ることになる。
「な、なんだこれ…」
善野は、突然自分の筋肉の感触を確かめ始め、さらには自分の汗の匂いを嗅ぎ始めたのだ。
「うん。この筋肉、この汗の匂いはやはり素晴らしい!これらを共有できるものはいないだろうか!はあ、この香水も最高!」
こいつは、どうやら重度の筋肉と匂いフェチらしい。世界を探せばどこかにはいるだろうが、果たしてこの学校にはいるだろうか。いるなら是非とも見てみたいものだ。
この映像を最後に、別の映像に切り替わった。今度は、一見普通の部屋である。そこへ来たのは…
「今度は藪敷か…」
藪敷湊の部屋だった。今はどうやら科目選択を考えているようだが、突然机から謎の包帯を取り出し、左手に巻き付け出した。そして…
「ああ、我が左手よ!この疼きとともに、我を素晴らしい未来へ!」
ああ、痛い痛い。こいつはどうやら真面目なキャラと思いきや、重度の厨二病のようだ。こんな奴でも頭がいいんだから、羨ましい他ない。でも、厨二病はごめんだ。
その後も、よくわからないことを永遠と言っていたので、音楽を聴くことにした。
そして、音楽を聴き始めて十分くらい経った頃、ようやくよくわからない発言会が終わり、また別映像へと切り替わった。今度は、いかにも女の子らしい部屋である。
「善野、藪敷ときたから、あとは…」
そこに来たのは…
「やっぱり小峰か…」
最後はやはり小峰未来の部屋だった。流石に女子の着替えは見られないので、そこは我慢した。
しばらく待っていると、どうやら着替え終えたらしいので、試聴を再開する。
彼女は特にこれといったことはなかった。普通に科目選択したり、部屋にある漫画を読んだりなど、いかにも普通な少女だ。そう、この時までは…
「特になさそうだから、もういいかな。って何やってんだ!?」
いきなり服を脱ぎ始めて、裸になる。そして、鏡の前でなぜか自分の身体を確認している。そして…
「xxx!xxx!xxx!」
いきなり放送禁止レベルの発言を連呼しながら踊り出したのである。言いたくはなかったが、最悪だ。僕にとっての彼女は、映画『家族の純真』で心優しい娘を演じていたあの彼女だった。でも、今はどう考えても放送禁止レベルの発言を連呼している。いくらそういう年頃で一人とはいえ、あそこまで堂々と言えるものなのか?少なくとも僕には無理だ。というより、常識的にあり得ることなのか?
とにかく、未だ映像は流れているが、僕はこれ以上見るのはやめた。この時、すでに日は落ちていた。
「はあ…。こんな変わり者の奴らと三年間共にするのか。真面目な奴いてくれよ!蓬莱院さんや一宮さん以外に!」
僕はそのままベッドで就寝した。そして、小峰の映像が終了した。
その後、蓬莱院さんと一宮さんの映像が流れていたのだが、この時僕はすでに爆睡しており、映像や音に全く気付かなかった。
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