【11話】自己紹介
よろしくお願いします。
入学式翌日、僕は指定された教室にやってきた。
「ここが、教室なのか…」
そこは、とても教室とは思えない豪華さで、さらに場所が敷地にある庭園内という、もはや常識を逸脱したものだった。
「本当に五席しかないんだな」
黒板に書かれた名前に指定された席にとりあえず座る。席としては前に二席、後ろに三席で、僕は後ろの窓側の席だ。
このSクラスがどういうクラスなのかはまったくわからないが、とにかく僕は出来る限りのことをするしかない。
「どう考えても、これのせいだからなぁ」
そう呟きながら、ズボンのポケットに入っているあのコインを手に取る。今でも謎のコインだが、少なくともあの地獄の生活からは脱却できた。そのことに関しては感謝するほかない。ただ…。
「僕は授業についていけるのだろうか」
そう呟くと…
「大丈夫だと思いますよ?」
声がしたので再びポケットにコインをしまって振り向くと、そこには蓬莱院さんがいた。
「おはようございます、松下さん」
「お、おはようございます。蓬莱院さん」
蓬莱院さんは、僕の隣の席に座った。どうやら席はそこらしい。
「ここが教室なんて良いですね!」
なぜか蓬莱院さんは嬉しそうにしている。普通ならこんなのはありえないのだが。
「そうですね。普通の学校はありえないんですけど。それに授業にはついて来れるから大丈夫というのもですが」
こういうお金持ちばかりが集まった学校ではこんなことがあるのか?いや、間違いなくないだろう。この学校が異常なだけだ、きっと。
「そうなのですか?私は他にもこういう学校はあると思っていますよ?授業もそのままの意味です」
本当、この人はどこまで真面目なのか天然なのかわからない。
「改めて、今日からよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
蓬莱院さんが手を差し伸べてきたので、とりあえず握手をした。
その後、例の三人がきてそれぞれ席に着く。
「うん?」
「どうかしたんですか?」
「あ、いえ…。なんでもないです」
入学式ではよく見えなかったのもあるだろうが、例の三人はどこかで見たことがある気がする。どこで見たのだろうか。
考えていると、担任と思しき女性が教室に入ってきた。服装はスーツでかなりの美人だ。着物を着せればかなりの和服美人になるだろう。それに、彼女もどこかで見覚えがあった。
「みなさん、席に着きましたか?それでは、オリエンテーションをはじめます。便覧を使用しますので、机に用意しておいてください」
いきなりそう言われたので、準備していなかった僕はバッグから便覧を机の上に出す。
「では改めて。新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。私が担任を務める市原三奈美です。担当教科は英語です。よろしくお願いします」
市原三奈美、思い出した!弱冠四歳で英検二級に合格し、八歳で一級合格。そして、十五歳で海外の一流大学からオファーがあり、飛び級で一流大学へ進学。しかも主席卒業という偉業を成し遂げた天才。たしか僕よりも十歳くらい上のはずだから、年齢的には二十五くらいだろう。それでも若すぎる年齢だ。
「このクラスは今年度から発足したSクラスということで、入学試験で極めて優秀と認められた五人だけが入れる、つまりみなさんがクラスの一員というわけです。せっかく同じクラスになったので、仲良くしてくださいね?ということで、自己紹介をしていただきましょう。では、順番は…」
そう言って、考えはじめる。と思ったら…
「いいや!面倒くさいから君からね!ええと、松下くん!」
指が僕の方へ向いた。あっさり考えるのを止めたと思ったら、僕から自己紹介をするのかよ!あまりにも急で何も言うことを考えてない。
「はい…」
仕方ないので、イスから立ち自己紹介をはじめた。
「えっと、松下遼といいます。家庭は両親との三人家族です。趣味とかは特にありません。性格はまあ、見てわかるとは思いますが、かなりの人見知りで、自分からは話しかけずらいと思うので、みなさんから話しかけてきてくれると嬉しいです。部活はどうするかまだ決めていません。よろしくお願いします」
とりあえず適当なことを言って、終わらせた。一応拍手は出る。
「ありがとうございました。では次は蓬莱院さん、お願いします!」
「はい」
今度は蓬莱院さんのようだ。
「蓬莱院梓と申します。家族は両親、そして妹の四人家族となっています。名字からも理解している方はいらっしゃることと思いますが、私は蓬莱院の本家に連なる者です。名字で周りから避けられることが多かったので、今回を機に仲良くできれば大変光栄です。趣味はお茶、ですかね。部活動はまだ決めていないので、じっくり考えていきたいと思います。よろしくお願いいたします」
拍手が起こる。これがお嬢様の自己紹介の仕方か。意外に普通に感じたが、少しでも参考にさせてもらおう。
「ありがとうございました。では、次に藪敷くん。お願いします。」
「はい」
いよいよ例の三人の自己紹介だ。まずはメガネをかけた男子だ。見た目はパッとしない普通の感じで、身長は僕よりも低い。おそらく一七〇前後だろう。
「自分は藪敷湊といいます。家庭は母子家庭で弟との三人家族となっています。趣味は読書です。得意科目は国語で、運動系は基本的に苦手です。なので、部活に入るとしたら、文化系になると思います。よろしくお願いします」
藪敷湊。中学の時の全国模試で、どの科目もだけ常に満点かそれに近い点数を出していて成績優秀者として名前が挙がっていた気がする。特に国語に関しては、模試では常に満点だった。入試の成績がどうだったかは不明だが、おそらく満点を取ったのだろう。
「ありがとうございました。では、小峰さん、お願いします」
「はい!」
次はあの背の低い女子だ。百四十もないかもしれない。顔も童顔で、やっぱり小学生にしか見えない。それにしても…
「小峰未来です!見た目はこんなんですが、れっきとした十五歳です!」
声が個性的すぎる。声優とかにいてもまったく不思議ではないと思う。
「家族は両親で三人家族です。あと、一応小さい頃は子役をやっていました」
この一言で思い出した。たしか小学生の時に見た映画で、日本はおろか海外の賞を総ナメした『家族の純真』で主人公の娘を演じて話題になった。その子役だった子がなぜかここにいる。もう役者生活はやめたのだろうか。
「そのため、今まで思うような学校生活が送れなかったので、今回でいろいろ経験できればいいなと思っています!よろしくお願いします!」
理由は定かではないが、彼女がそう決めたのなら、それを尊重すべきだろう。そして、彼女は趣味を言わなかった。
「ありがとうございました。では最後に善野くん、お願いします」
「はい!」
最後は、明らかに運動系のガタイのいい男子。身長も僕より高い。僕が百八十ないくらいだから、間違いなく百九十近くはあるだろう。
「俺は善野翔といいます。運動全般が得意で、勉強に関してはあまり得意ではありません。家族は父子家庭で兄と姉の四人家族です。趣味は筋トレとランニングです。部活は運動系、特に陸上部には関心があります。よろしくお願いします」
善野翔。中学生でありながら、陸上の王と呼ばれる十種競技で日本新記録を叩き出した陸上界の次期エース。というよりもうエースかもしれない。ここは決まった期間以外出れないはずなのに、なぜここに来たのかさっぱりわからない。
「全員、ありがとうございました。では学校についてですね。便覧を参照してください」
そこから、いろいろ説明を受けた。月〜金で、時間は六限まであり授業は五十分、単位制だ。三年間で決まった科目を合計で九十単位取る必要がある。授業選択はネットで出来るそうだ。
しかも自分で選択できる上に、教室ごとに授業が異なるから専門的に学べるという特徴もある。
ちなみに部活は入っている人は多いが、強制ではないため入らない人もいる。しかし、その分成績が求められるため、実質強制なのだ。
そして、最後この一言は強烈だった。
「この学校では成績による実力主義のため、もし成績が悪ければ他のクラスの成績優秀者と入れ替わることが考えられますので、それもよく考えて決めてください。これで説明は以上となります。質問はありますか?」
「先生、よろしいですか?」
蓬莱院さんが手を挙げた。
「なんでしょうか?蓬莱院さん」
「確認なんですが、もし、学年の途中で卒業単位を満たせないと決まった場合、それは留年という形になるんですよね?」
「そうですね。もし留年してそれでも成績が悪ければ退学処分となります」
「ありがとうございます」
「他にありますか?」
誰も手を挙げなかった。
「では、これで終了とさせていただきます。今日はこれで終わりになります。お疲れ様でした」
そう言って出て行った。この時、僕はポカンとするほかなかった。
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