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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第1章中学生時代
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橘桔梗!



「姉ちゃんおはよう。」



「おはよーん。」



姉は早起きして朝から化粧をしていた。

なにか仕事あって出かける予定なのだろう。


「あ、りゅー。明日学校終わったら桔梗を家に連れてきて。昨日の約束ちゃんと守ってあげようと思ってさ。りゅーも手伝ってもらうからそのつもりで。」



「はいはい。桔梗ちゃん連れてきたらいいんやね?大喜びで来ると思うよ。」



朝ご飯を食べようとすると、俺のおかずがなかった。

ゆっくりと姉を見ると、舌を出して手を合わせてごめんねのポーズをしている。

姉の分だけじゃ足りずに俺の分の飯まで食べられてしまった。



「ごめんごめん!ママのご飯食べる事あんまり出来ないからつい食べちゃった。これでなんか買って食べて。」



そう言われると100円を渡された。



「100円じゃおにぎり一つも買えないんだけど!」



そうやって朝からあーだこーだしていると、いつものように蓮司が俺の事を迎えに来た。


「あ!光さん!お久しぶりです!」


「蓮司!久しぶりやね!サッカーやってるんだって?サッカーでも頑張るんだぞっ。」



蓮司も姉に懐いていた。

純粋に姉のような存在として尊敬してるといつも言っていた。



「それじゃ、いってきまーす。」



結局姉から1000円を確保して、近くのコンビニで1000円分の食事やおやつを買っていった。


そして、昼休みに桔梗の所に姉からの伝言を伝えに行った。



「桔梗ちゃん!ちょっとこっちきてー。」


他のクラスの女子を正々堂々と呼びに行った。

俺と桔梗と蓮司は3人の仲の良さは学校の友人達の中でも常識になっていたので、特に恥ずかしがることもなかった。


桔梗は未だにちゃん付けされて呼ばれることだけは不満みたいだが、俺がそんなことを気にしていなかったのでちゃん付けされなくなるのは当分無理だろう。



「桔梗ちゃん、明日練習?」


「うん。練習。」



「んー練習なのか。どうしようかなぁ。」



「どうかした?遊びにはいけない。」


「姉ちゃんが桔梗を明日呼んで来いって言ってるんだけど───」

「明日暇。龍の家に行けばいい?」




「────暇なら良かった。明日放課後に家に来てくれたらいいよ。練習道具は持ってきてね。」



俺は言いたいことが沢山あったが、あまりにも早すぎる返事だったので、無視して話を先に進めてしまった。



次の日の放課後。



ホームルームで先生の宿題をやってこいという、毎日聞いたセリフがいつものように右から左に通り抜けた所でさっさと家に帰ろうとした。



「龍。道具はあるから一緒に帰ろう。」


俺の事を逃がさまいと桔梗が教室の前で俺の事を待っていた。


「そうやね。久しぶりに2人で帰ろうか。」


俺と桔梗は前に話した通り、なかなか気まずかった。


桔梗がなにか俺に文句のひとつでも言えば謝ったり話ができた。

わざわざ俺から脈絡もなく野球辞めてごめんねとは言い出せなかった。



「ねぇ、今もしかして何か悩んでたりする?いつもボケてるけど今日は特段酷い気がするんだけど。」



桔梗は少しはオブラートに包んで話すということを覚えた方がいいかもしれない。

そもそもこんな口のきき方は俺や蓮司にしかしてないだろう。

桔梗のことは昔からよく分からなかったが、思春期真っ只中の今だと尚更よく分からなくなっていた。




「そうなんだよね。ちょっと一昨日に色々とあってどうしようかなと思ってて。」


「蓮司には話した?」


「いや、まだ誰にも話してない…。」


「私が気づく位だから、蓮司もきっと気づいてる。だから蓮司には相談した方がいいよ。すっごい馬鹿だけどそういう事だけはちゃんとしてるから。」


「分かってる。どうしても困ったら桔梗ちゃんにも相談するよ。」


「ん。わかった。」



そう簡潔に桔梗は答えるとこの話は終わって、姉のことをずっと質問してくるようになった。


いつの間にか俺の家の前まで着いた。

何も考えずにそのまま家の中に桔梗のことを連れ込んでいた。



「おかえりー、桔梗のこと家の中に連れ込んじゃってー。おねぇちゃん妬けちゃうなぁ。」


横にいる桔梗を見ると少し顔を赤らめている。

そんな桔梗を見ていると少しは俺の事を───。


と思ってはいけない。

この少し顔を赤らめているのは姉の言葉の内容ではなく、姉の言葉にだった。


どういうことか分からない人もいるだろう。



俺のことなどどうでも良くて、姉におかえりと言われ、話しかけられているだけで赤面しちゃうピュアな女の子なのだ。




「あっ。桔梗ちゃん!久しぶりねー。すっかり大人っぽくなっちゃって。」



そこに母さんまで現れてしまった。

女性3人に囲まれそうだったので、先に練習場に行くことにした。



女性陣はまだ話しているのだろう。

来るまでの間ジャージに着替えて、一人で体を軽く動かしていた。


暫くして練習着に着替えた二人が練習場にやってきた。


仲良さそうに話しながらストレッチをしたり、怪我防止の為の筋肉トレーニングのやり方を教えてたりしていた。


結構時間がかかりそうだったので、俺は打撃練習の為にマシンにスイッチを入れてスピードをいつもの145km/hにセットして打撃練習を開始した。


マシン打撃練習であんまりやるのが好ましくないのが、マシンのタイミングで1.2.3のタイミングで振ること。

マシンはあくまでも補助的なものでしかないと思っている。

145km/h以上のストレートを体感して打つ練習にはなるが、試合ではもちろん変化球も投げられるしタイミングをずらす為にピッチャーも工夫してくる。


何も考えずに来るストレートに対して脳死でフルスイングするのはあまりいいことでは無い。


マシン打撃は目的をしっかりともってやるべきである。


速い球にフォームが崩れてないか、理想のフォームで振れているかの確認など。


あえて自分の苦手なコースに設定して、そのコースをしっかりと打ち返せるようにする。


外野フライ、内野ゴロを意図的に打ち分ける。


素振りでは完璧なフォームで振れてる人がマシン打撃で大きい打球を打とうとすると、打つことに脳のメモリを割かれてさっきまで良かったフォームがあっさりと崩れることもある。


崩れたフォームで打つことは困難で、その弱点が露見した場合は確実にそこを突かれてしまう。



カキィィーン!



いつものようにフォームをしっかりと確認しながら、芯で捉えて右に左にライナー性の打球を交互に打ち分ける。



「ふー。今日は調子いいな。」



姉は桔梗に対して色んなトレーニング方法を教えていた。


主には筋肉トレーニングだろう。

女性だから男性に負けないように筋肉を付ければいいという訳じゃないといつも言っていた。


筋肉をつけないといけない部位はもちろんあるが、プレー自体にあまり影響しない怪我を防止するための筋力トレーニングを重視していた。


姉はほとんど怪我をしたことがない。

野球の練習以外に基礎トレーニングにかなり時間を割いていた。


野球が上手くなる為にハードトレーニングをしても、そこで怪我して野球出来なくなるのは本末転倒だ。


しっかりと練習が出来る身体を地道に作って、それを維持するためのトレーニングも必要だった。



「りゅー。ちょっと桔梗に投げてあげて。」


「はいはい。」



桔梗が右バッターボックスに入った。




橘桔梗。


右投げ右打ちのポジションはファースト。

小学生1年の時に蓮司と俺が野球に誘ってそこから野球を始めた。

小学生の軟式で全国大会優勝した時にもレギュラーとして出場。


主には6番ファーストとして出場し、小学生までは女子の方が成長が早いのと、俺と蓮司はいつも遅くまで練習に付き合ってあげて、唯一女の子で強豪チームのレギュラーを守り続けた。


当時から打撃のセンスはあった。

課題だった守備は時間をかけて克服して、いつの間にか守備にも自信を持つようになっていた。


打撃フォームは少しバットを立てて、スタンダードな構えに足はあまり上げず、摺り足でスムーズに踏み込んでくる。


打撃の教科書に出てくるような基本に忠実なフォームで、特徴がないのが特徴だった。


小学生の頃から順調に成長しているのであれば、好打者になっているだろう。



そして、桔梗の打撃投手としてまずは四隅にストレートを散らしてみた。




カキイィーン!



ストレートはかなり高い確率で打ってきた。

投げてみた感じは低めのボールを上手く捌くローボールヒッターになってる?

女性野球の中ではそこそこ身長の高い桔梗が攻められる場所といえばまず低めだろう。


長身のバッターは低めに弱いとよく言われているが、桔梗は低めをいつの間にか得意にしていた。


10球前後で打つのをやめて、姉がその都度桔梗に対して細かいアドバイスをしていた。


ツーシームやカットボールなど、ストレート系の変化球を交え、ストレートもさっきまでは女子としては速い120km/h前後くらいで投げていたが、ストレートを125km/hまで上げてみた。



「中々苦戦してるな。」


中学生なら115km/h投げられるならエースになれるだろうし、125km/hとなると全国でも中々会えるレベルではない。


それでも空振りをすることはなかった。


カットボールはかなり打ち損じていた。

ツーシームへの対応は良好で、1球ホームランになったであろう打球を打たれた。


「りゅー。ちょっとだけ投げて。」


桔梗を指導した後、姉に対して同じような投球をした。

いつもとは違うフォームで、次々と快音を残して打っていく。


これを何回か繰り返して、遂に俺の球数も100球近くまでになってきていた。

6割くらいの力でしか投げていなかったので、特に疲労感を感じることもなかった。


桔梗はとにかく真剣に指導を受けていて、最初の浮ついていた雰囲気はすっかりとなくなっていた。


最初に投げた時にちょっとした癖があるなと思っていた部分がこの短時間で気にならないレベルまで消えていた。



「龍。最後は好きなように投げてみて。」


そこそこに投げてあげてという感じだった。


俺は高速スライダー、ナックルカーブの2つの変化球と130km/h位のストレートを織り交ぜて投げた。


ここでやっと気づいたが、桔梗は選球眼がかなりよくなっていた。


力をセーブしながら投げているので、結構際どいところのコントロールが効く。

ストライクとボールの出し入れをしたが、ボール球に反応はしてもバットがきっちり止まっている。


「ラストねー!」


最後に選んだのは高めの135km/hくらいのストレート。



カキィーン!



まさか打たれるとは思わず、反応が遅れて俺の横を抜けていくヒットを打たれた。




「龍、手加減したね。本気を出されても打てなかっただろうけど、いいボール投げてくれていい練習になったよ。ありがとっ」



桔梗は珍しく俺に頭をぺこりと下げて、姉と楽しそうに話をしていた。


俺も今日はそこそこの球数を投げたので、クールダウンをしながら小学生時代の桔梗と比べて想像以上に成長していたのを実感した。



「頑張ってるんだな。」



成長した桔梗を見られて満足していた。



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