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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第3章 高校1年夏
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絶体絶命2!



「大変なことになっちゃったね。これからどうしようか?」



1年生プラス大湊先輩がマウンドに集まっている。

多分、話をまとめているのはキャッチャーの柳生だろうか?


日頃誰かとすごくワイワイ楽しくしてる印象は無いが、野球の試合となるとしっかりとまとめようとしている。




「試合中にこんなこと言いたくないんじゃけど、次の回下位打線からで3点返せねぇと思うわ。」




「それは確かにね。けど、いつまでも点取られても腹立たしいし。」




「まだ諦めちゃだめだよ!ぼ、ボクが打つから!」




「プリちゃんの打順って3番だよー?流石に回って来ないんじゃない?」




「私も私まで回してくれたら打つよ。4番として最後に勝負したい。」




遠くから見てもなにかあんまり緊張感が感じられないというかリラックスしてるのだろうか?



「とりあえず、初球か2球目スクイズか一塁ランナー盗塁してくると思うから気をつけて。」




「「了解。」」





「プレイ!」



マウンド上の梨花もさっきまではイライラを隠せていなかったが、1年生達が出てきて少しだけ落ち着いたように見えた。




「走ったよー!」



一塁ランナーはスタートした。

ここまで一切クイックを使ってこなかった梨花が、初球はあんまり上手くないクイックで高めのストレート。




柳生はそれを素早く2塁へ送球。

捕ってから投げるまではかなり早い。



柳生が2塁に送球したのを確認したと同時に3塁ランナーがホームに突っ込んできた。


よくある1.3塁のトリックプレーだ。



1塁ランナーを2塁に盗塁させて、キャッチャーが2塁に送球した瞬間に3塁ランナーがホームに帰ってくるという、小学生から中学生ならそこそこ成功率が高い作戦だ。



あまりに低い送球だとピッチャーが捕ったりして3塁ランナーが挟まれることもあるので、2塁へしっかりと送球したと分かる高さでスタートしないといけない。





「かのんキャノン!」



さっきまでそこに居なかったかのんが、柳生の2塁の送球をかなり高くジャンプしてカット。


すぐさまそのカットしたボールを3塁へダイビングスローしたが、ジャンプしてそのまま投げたせいで体制を崩してその場に転んでいた。




そのプレーを見た3塁ランナーはサードに戻るが





「アウトオォー!」



かのんの鍛えられている体のバランスで、ジャンプして捕ってから投げるまで飛んでいる間に全てこなせるのはあれは選ばれし人間しかできない気がする。




「かのんー!いいぞー!」

「カッコイイっス!」



これまで少し静かになっていたベンチ外の1年生達もかのんのプレーには大声援を送っていた。




「ナイスプレー。じゃけど、いつまでも寝転んでないで起きろ。」



梨花がかのんの近くによって手を貸して起こそうとしている。

こういう光景はいいなと思いながら見ていた。




「ふーんだ!手なんて借りたいしないもんね!」



そういうと体を反転させるようにピョンと1人で起き上がった。




「はぁ。じゃったらさっさとポジションに戻れ。」



グランドでファインプレーに手を貸すピッチャーと内野手という構造なのに、まさかの拒否してルンルン気分でポジションに戻っていくかのんと、ため息をついてマウンドに戻る梨花。




何はともあれ1アウト2塁。

一気に失点のリスクは下がったが、落ち着いたと思った後の初球とかは気をつけないといけない。




パシッ!




その心配もなく、さっきとは打って変わってストレートゴリ押しで柳生もコースには構えずに結構好きに投げさせている感じだ。




「ストライクツー!」



急にストレートをゴリ押ししてきて、しかもそのストレートに全然タイミングが合わずにかなり振り遅れている。



カウント2-2。

ここまで7番に対してはストレートしか投げていない。

バッターはここでスプリットがチラつくだろうし、バッテリーもそれは考えているだろう。




柳生が梨花にサインを出して選択したボールは。




バチィィ!




「ストライク!バッターアウト!」



最後の最後までストレートで押して、最後は高めのストレートに完全に振り遅れて空振り三振。




「よーし!ツーアウトー!」



「「ツーアウト!!」」




梨花は完全に立ち直って、内野陣は大湊先輩以外は初の公式戦で楽しそうにプレーしている。


1年生達は実力はあるが、なぜかみんな試合中は明るいというか緊張とは無縁な選手が多い。




「うしっ!」



梨花の容赦のない快速球が内外に決まっていく。

バックからも息を吹き返したように大きな声も出てるし、ベンチ外の1年生もめいいっぱい応援していた。




「おっしゃぁ!」



最後の球も相手のバッターはインコースの真ん中のストレートにやや腰が引けての見逃し三振で、梨花のかっこいい声がグランドに響いていた。




「西さんナイスー!」

「梨花いいよ!かっこいいー!」



相変わらず声がグランドによく響く美咲と夏実が梨花に最大の声援を送っていた。



珍しく梨花が帽子を取って1年生達に手を振っている。

珍しいというかこういう場面を俺たちは見たこともないし、手を振られたスタンドにいる1年生がビックリしているほどだ。




7回裏。


最終回の攻撃は7.8.9の期待出来ない打順。

この試合7.8.9の選手にヒットは出ていないし、みんな簡単に打ち取られていた。




7番の瀧上先輩はまだ少しは打てる気がしていたが、8番の代打で出た遠山先輩はかなりイマイチな打撃だった。



もし代打を出すなら8番か9番。


一応逢坂先輩がライトにいるからもし同点に追いついて、延長戦になったとしてもマウンドに上がれるから延長戦は有利だと思っている。




しかし、さっきの2点の追加点は流石に重くのしかかってきている。

ここまで1点も入られていないうちが最終回に3点取るのはさすがに厳しい。


ピッチャーが変わるならまだチャンスはあるが、球種まで読んで尚且つかなり対策した投手に対してカットボールという変化球1つでこんなに抑えられている。



少しは慣れてくるはずの終盤の方が全然打てないのは、単純に彼女の投手の能力が高いと思うしかない。




「えーと。なんで、ぼ、ボクが円陣の声出しさせられてるのかわからないんですけど…。ボクが言えることは勝つ!負けたくない!……おかしくないよね?」




「月成の言う通りだ!ぜってぇ勝つぞぉ!!」




「「おーー!!!」」




月成の純粋な気持ちに反応したのは梨花で、気合いの入った声を被せてきた。



「西さん。ありがと。」



「月成の気持ちは痛いほど分かったからな。」




月成はかっこいい人になりたくて、梨花は女の人から見たらかっこよく見えるのだろう。

結構色々と月成が梨花に話しかけているところをよく見るし、梨花もそれを嫌がる様子もなく仲良くしてるのかな?




「ねぇ、東奈コーチ。何狙ったらいいかな?」



俺の元に来たのは瀧上先輩だった。

守備は相当な上手さだが、打撃にはやっぱり自信なさそうにしている。




「うーん。低め打つのあんまり上手くないですよね?けど、追い込んできたら案外高め使ったりするからそれを狙っていってもいいかもですけど、低め低めに投げられるとキツいと思いますけど。」




「わかったよ。後輩がこんなに頑張ってるから私も先輩らしくしたいから…。」



瀧上先輩は優しいし、練習も真面目にやってるし、後輩思いなのはよく分かるけど、なぜかあんまり1年生達から人気がないというか慕われてないというか…。




「7番センター瀧上舞さん。」




「舞さーん!頑張ってー!」

「瀧上先輩ー!打ってください!」




みんな必死に応援してる。

ベンチのやや離れたところで自分の情けなさと悔しさの感情でかなり落ち込んでいるが、それをやるのは今じゃない。




「そんな目で見なくてもいいんじゃないの?私もさっきは怒ったけど分からなくもなくない?」




さっきから俺の隣にずっと座ってる海崎先輩がとても気になって仕方がない。




「まだ試合中なんでちょっと冷たい目で見ちゃったですかね?なんでさっきから隣に居るんですか?サードのランナーコーチはいいんですか?」




「選手に文句つけんの?どうにかエースピッチャーがどこに座ってても文句つけるとはいいご身分ね?」



だめだ。


俺が何を言ってもこの人はあの手この手で交してくるだろうし、それを楽しんできてるのもよく分かる。



日常生活では結構静かな感じで、小さい体には似つかわないクールビューティと言われてるらしいが、野球が絡むと人が変わったようになるのは仕方ないのかな?




「ストライク!ワンボールツーストライク。」




「舞は性格も真面目で基本に忠実なんだけど、なんでこんなに好不調が激しいのかってくらい試合毎に違うんだろうね?」




「守備はなにか彼女なりの確立されているものがあるけど、打撃はかなり感覚に頼っているからですね。いい時はいいけど悪い時は何が悪いか分からないんでしょう。」



瀧上先輩はハッキリとした弱点があるからそれを直すことに専念してもらって、来年に期待という感じだ。




「氷、次の遠山先輩の時に代打行くぞ。」




「やっと来た。頑張ってくる。ぺこり」




限界ギリギリまで細くオーダーしていて、やたら鋭く見える氷のバットとその不思議な雰囲気は野球人とは思えなかった。






「ストライク!バッターアウト!」




高めのボールを狙っていたが、低めに丁寧コントロールされたストレート、カットボールに全く手が出ずに空振り三振。




「ご、ごめん…。やっぱり打てなかった。」




なにかが終わったような顔をしてベンチに戻ってきた。

守備ではずっと貢献し続けて来たが、今日の打撃は瀧上先輩の日ではなかったと思うしかない。





「8番レフト遠山苺さんに代わりまして、時任氷さん。バッターは時任氷さん、背番号17。」




「氷ーー!」

「天才的なバッティングを見せてー!」

「氷ちゃん頑張ってッスー!」




この試合一番じゃないかと言うくらいの声援をベンチ外の1年生からかけられてる。

氷はみんなのマスコット的な感じで可愛がられているし、打撃の事も頻繁に教えてあげているらしいし、この声援もおかしくは無い。




「なぁ。龍、私の打順は代打か?」




「いや、梨花でそのまま行く予定だけど自信が無いのか?」




「打撃なんて自信があるほど練習してねぇよ。代打を出さないならゲッツー打っても文句言うなよ。」




そういうとネクストバッターズサークルに戻って行った。

ゲッツーの文句を言っていたが、氷が打つことはほぼ確実みたいな口振りだった。



シート打撃で投げている時は、桔梗よりも氷にやたら打たれると聞く機会が多かった。




「あの子、本当にバットコントロールいいわよね。私のストレートなんて全然通用する気がしないんだよね。」




氷は右投手の右田さんの対角になる左バッターボックスに入った。

後ろから見ると身長も小さくて、あんまり威圧感も凄みも感じないから舐められやすいと本人自身も言っていた。





「ボール!」




初球、2球目のカットボールを難なく見逃して2-0のバッティングカウント。



ピッチャーの右田さんはあまりにもあっさり見逃してきた氷を嫌がっている感じがするが、キャッチャーの方は少し楽観的な感じを受ける。



3球目。


氷の体にやや近いインコース高めのストレートを投げてきた。


このバッテリーは基本的には低め中心に投げてきて、急に高めに力のあるストレートを内角に投げてくる配球が目立ってきているけど、それがこちらの打線にはぶっ刺さっている形だ。




「その球じゃないんだけどな…。」




カキイィーン!!




長いバットが体を巻き付くように出て、内角の球を引っ張ってセカンドの頭上を越えて右中間真っ二つ。




「氷!回れ回れ!」



打つまではプロの選手顔負けのバットコントロールと鋭いスイングだが、走り始めると明らかに足が遅い。



頑張って一塁を蹴って二塁に滑り込んだ。

氷でも悠々と間に合うツーベースヒット。




「氷!いいぞー!」



2塁上でスタンドの1年生に大きく手を振って声援に応えていた。


やっぱりあの時氷を代打に出しておけばこんなことにはなってなかったんじゃないだろうか?

あの場面でも同じバッティングが出来るかどうかはわからないが、こうなっていた可能性は低くないのではないかと残念に思うしか無かった。




「西!気合入れて打ってこい!」



いつの間にかキャプテンも声出しだが試合に参加していた。


あのまま項垂れているだけで高校最後の試合になるかもしれないのは流石に情けないと思ったのか、気持ちをしっかりと切り替えて応援に混ざっていた。




梨花がバッターボックスに入っているが、打者としては好不調のある瀧上先輩を更に酷くしたような感じだ。


ほとんど打撃練習をせずに、やってもあんまり意味無いんじゃないかというくらいの力の入ってなさが特に目を付くレベルだ。


それでも高い身体能力と野球センスで打つ時はかなりデカい当たりを打つし、バンドも結構上手に決めてくる。




「ストライク!」



1.2球目共に低めのカットボール。

2球目をスイングしていったが、空振りでカウント1-1。



梨花は今何を考えてるか分からないが、氷がツーベースヒット打ったおかげでゲッツーは無いし気楽に行ってもいいが、当の本人が何を狙ってるかもよく分からないという始末。




『カットボール狙って。』



俺のサインをチラリとみて、カットボール狙いを指示したが打てるような気はしない。





カキキィィーン!!!




ストライクからボールになるカットボールをフルスイングして強引に引っ張り、打球はレフトスタンド一直線。




「やったー!入ったー!!」




「ファ、ファール!!」




アッパースイングの梨花は下に落ちるカットボールをあまりにも完璧に捉えたのか、86mでホームランになる球場で100m以上かっ飛ばしたが、ギリギリ切れてファールの判定。




「あん?あれ入ってねぇのか?」




あの打球は飛距離にお釣りが来るくらい飛んだが、ファールならいくら飛んでも意味が無い。

にしてもかなり際どい打球だったから入ってると言われてもおかしくないような打球だった。




梨花はホームベース上で打球を見ていたからかなり不服そうな感じだ。

もしかしたら、梨花の目からしたらギリギリポールの内側を通っていたという自信があったのだろう。




さっきの打球を見た竹葉の守備はかなり深めの守備に変更してきた。

長打を打たなくても少し前に守っていて、強烈な打球を処理するのは難しい。




気を取り直して打席に構え直す梨花。

あれだけ飛ばされてあまりいい気分のしていない投手の右田さん。




そして4球目。

右田さんの左腕の角度がやや高い。

ここでバッテリーはカーブを選択してきた。



ボールが放たれた瞬間のコンマ何秒で俺はすぐに察した。

ストレートでもカーブでもないここまで投げてきていないボールをここで選択してきた。




「ス、スライダー?」



カーブと思ってスイングにいこうした梨花は完全に体勢を崩されてしまった。

どうにかバットに当てようとしたが…。




「ストライク!バッターアウト!」




急に来たスライダーにタイミングを完全に崩されて空振り三振。



「くっそ!最後の最後であんなへなちょこスライダーに騙されるとか腹立つ!」



三振してベンチに戻ってくる途中で地面を蹴りあげて悔しさを露わにしている。





現在の状況は最終回ツーアウトランナー2塁で3-0で負けている。




選手の時は最後の最後まで勝ちを疑うのことはなかったが、コーチとして一歩下がって後ろから見た時に、この敗色濃厚のムードをどうにか出来ないのだろうか?



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