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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第1章中学生時代
7/280

ピッチャー龍vsバッター光!



左打席に憧れの姉が真剣な顔をして俺の方をみていた。



サインは投手の俺が出すようにした。

普段ならシグナルサインで投手がサインを出すなんてありえないが、姉はサインを出した順番をいちいち覚えようとはしないだろうから、単調にならないようにサインを出すことにした。



『意外と打つ気ない?あんまり積極性を感じないな。』



サインを出したら、次に天見さんはキャッチャーミットをゆっくりとストライクゾーンを円を描くように動かしてもらい、投げたいコースに来た時に頷いてコースを決めるという試合じゃありえない決め方でサイン交換した。



『打つ気がないならこれで十分だ。』



バシッ!!



「ストライク!!」




ど真ん中よりやや内角気味のストレート。

多分135キロ前後のストレートだと思う。



『りゅーはやっぱり何かが見えてるっぽいなぁ。初球から甘いコースの7割位のストレートを投げてくるなんて。』




2球目は打ち気になるかと思っていたが、あんまり変わっていないようだった。

この雰囲気を読む力も相手の実力はもちろんのこと、精神力や緊張度など総合してレベルが高ければ高いほど曖昧にしか分からない。


投手として姉と対決することになって、

自分自身の集中力が高まっているのか姉の雰囲気がかなり鮮明に伝わってきている。


姉弟ということもあるんだろうが心理戦なら俺の圧勝だった。


2球目はさっきより厳しめの内角ストレートを選択した。




そして、2球目。


指から放たれたボールは左打席の姉の内角を抉った。

ストレートが来たと反応したが、内角のギリギリコースだった為にバットを止めた。



「ストライク!」



「かーおーりー!今のストライク!?」



「かなり厳しいコースでしたがストライクでしたよ。」



そう答えると俺にボールを投げ返してきた。

俺は姉とは違って、テンポよくボールをポンポンと投げるタイプではなかった。

少し間を取って相手を焦らしたり、タイミングをずらしたりして投げていた。

コントロールの良さもそこそこなレベルなので、投手としてマウンドに上がる時はコースに狙い済ますよりもゾーンへ投げることを意識していた。


3球目のサインを決めようと姉の雰囲気を確かめたが、いつの間にか感じることが出来なくなった。

ここまで投げた2球目で決着がついていない場合は予め投げる球を決めていた。



俺は返球を受けて、考える間を与えないように素早くサインを出した。

天見さんも何となくわかっているのか、俺が投げたいコースに構えていた。



キャッチャーとして天見さんのレベルの高さを再確認した。



俺のピッチングフォームは少し姉に似ている。

姉はセットポジションから投げるが、俺はノーワインドアップからかなり足を高々と上げ、大きな歩幅で踏み込み、深く沈み込んで投げる。


俺の選択した球は2球目と同じインコースのストレート。


「くっ!舐めすぎ!!」




カキイィィーン!!



綺麗な打球音と共に高々と打球がライト方向へ伸びていく。



姉には流石に俺の投げるボールを読まれていた。

だが、別にそれでよかった。


俺が投げたのは130km/hくらいまで落としてカットボール系を意識させるボールだった。


東奈光という選手を熟知しているからこそ、こういう駆け引きが出来た。


姉は俺の術中にハマっていた。


俺のほぼ予想通りにツーシームと思ってのスイングで、ボール変化せずバットの上っ面で打ってしまった。


高々と上がった打球はライトフェンス5m手前でワンバウンドした。



打球がライナー性ならもちろん長打だが、あれだけ高々と上がればライトフライだ。


姉が甲子園決勝で相手の四番にわざと得意なコースに連続でストレートを投げて、抑えたその状況を変則的に作り上げた。



姉は最後のストレートは力技で、俺は逆に力を抜いたストレート。



「ツーシーム系が来るんじゃないかと思ったんだけどなぁ。抜いたストレートかぁ。」


独り言を呟きながら、俺のリードに何か思うところがあるみたいだった。


俺たちはすぐに2打席目の勝負に入った。

あんまり雰囲気が感じ取れなかったが、一瞬強い意志を感じ取った。



多分1球目からスイングしてくる。

俺は投げられる変化球はかなり多いが、ウィニングショットと呼べるボールを持ってなかった。


姉からトレースしたナックルカーブは空振りを取れるボールだが、姉に通用するかは分からない。


俺が姉からのトレースボールで1番自信のある変化球があった。

姉が甲子園で相手を苦しめたシンキングファストというボール。

ツーシームやスプリットなどの沈むボールボールの総称である。

姉のシンキングファストはツーシームと言えるが、自分が投げやすいように改良して更にストレート寄りボールに仕上げていた。


このボールを低めにコントロール出来れば、多分内野ゴロに打ち取れる。



自信のあるシンキングファストを投げよう。


サインを出し始めようとした瞬間に、なにか見透かされたような感じがした。

サインの途中で手を止めるとこちらの迷いを相手に悟られてしまう。


一度サインを出すのをやめて、シンキングファストという手もある。

打ち損じを狙うボールは相手から読まれていると、ただ少し遅いストレートになってしまう。


嫌な予感を信じることにした。


一度シンキングファストのサインを出して、途中でサインを破棄した。


真ん中付近からややボール球になるスライダーを選択した。


スライダーでもキレよくスライドするように変化量が大きく曲がる球もあれば、変化量をやや抑えて速いスピードで曲がっていく高速スライダーというものある。


俺は高速スライダーの方を選んだ。

狙ったところよりもスライダーが低めに行ってしまった。


だが、このスライダーを強振してきた。


完全に体勢が崩れて、ヘルメットが脱げて地面に転がっている。


それをヒョイっと拾い上げて、何食わぬ顔で打席に入り直した。


「スライダーね。OKOK。」


今のスイングは明らかにストレート系を狙っていた。

俺の直感が正しかったことに少し胸を撫で下ろして、2球目は少しだけ変えて変化量の多いスライダー。



「ボール!」


このスライダーには反応せず。


反応はしなかったけど打ち気は強く感じる。


甘い球は投げたくないが、ボール球中心に勝負するのは流石に逃げ腰過ぎる。

ここは自分の力を信じて、対応されるまではストレートでいこう。



空振りを取りやすい高めのストレート。



140km/h以上は出てるであろう威力のあるストレートで、またもや強振してくるが振り遅れ気味の空振り。


中途半端な高めは危険な球になりやすい。


高めに外れてしまってもいいと思う意識で投げるようにすることが重要なのだ。



今のスイングを見て気づいたことがあった。

その観察眼を信じて4球目を投げることにした。


小学生6年生のクソガキだった俺がプロ野球選手の姉に向かって言った言葉を思い出した。



ブンッッ!!!



姉のバットは空を切って空振り三振。

選んだ球はインコース高めのストレート。



姉は甲子園の時、直球系の球を投げる割合が9割を超えていた。

プロになってからは小手先の変化球でかわそうとして、かわせなかった。


ピッチャーとして1番重要なのはストレート。

それは速いとか遅いとかは関係ない。


遅いストレートを速く見せる投球術でプロ野球で大活躍した選手もいる。


その助言からか怖がらずにストレートを投げるようになった。


一回目の打席で抜いたストレートで抑えて、追い込んでからのボールは何か変わり種を用意してくると予想していた。


変化球が頭の中にあって、そんなボールを意識している時点で俺の投げるストレートが打てるはずがなかった。


変化球で勝負するのが悪いなんてことは全くないけど、あの時の言葉は今でも間違っていないと言い切れる。



「姉ちゃん、次の打席が最後。」



「………。」




そんな目で見るなと言いたくなるほどの威圧感を感じる。


ここまではテストを兼ねた姉弟の成長を確かめる対戦だった。

2打席目に姉を軽くひねったせいなのか、完全にスイッチが入ってしまった。


姉はいつも笑顔を絶やさずでプレーをしているが、ここ一番の場面だけは威圧感を放っていた。


高校時代の姉からはそれがほとんど見られなかった。

姉にとって女子野球の世界ではここ一番の場面がなかったのだろう。


そんなことを考察する前に、目の前には最も尊敬し、永遠の憧れのはずの姉が打席で悪魔的な笑顔を振りまいていた。



『いや、普通に怖いんだけど。』




俺が悪魔に取りつかれた姉に少しビビっていた時────



『りゅー。姉弟の感動の対決なのに、三振したボールから嫌な雰囲気。冷たいというか冷酷?姉に対する態度じゃなくない?』



俺自身が気づいていなかったが、先に相手を圧倒するような雰囲気を醸し出していたのは俺の方だった。


ただの姉弟の勝負では済まされないほどヒートアップしていた。


この状況に1番困っているのは天見さんだった。

テストというよりも姉と弟の野球を通して喧嘩をしてるような感じに見えた。


実際は別に意地の張り合いという感じではない。

俺自身テスト自体はどうでもいいことだったけど、今はこの勝負には負けたくない。


それが野球を辞めてしまった不甲斐ない弟であっても。


お互いに絶対に負けたくないと意気込んでの3打席目。


勝ち負けの基準を決めていないけど、勝利条件はなんだろう。

こういう個人的な勝負はあまりにも曖昧すぎる。

3打席勝負なら投手のが有利だ。

何故かと言うと四球はまた最初からのカウントになることが多いからだ。


3打席で2つ四球をとったらバッターのもちろん勝ちだと思うが、今みたいな個人的な勝負で三振かホームランだ!みたいな勝負だと四球での決着はあまりにも白けてしまう。

カウントをやり直しにしたとしても、バッター側にはメリットがなく不利となってしまう。


そんなことを考えつつ、姉の様子を観察していた。


3打席目。



姉からは何も感じない。

ただ俺の球を打つことだけを考えていた。


この場面はあえて三振に取った時と同じインコースの高めのストレート。


慎重にいきたい場面だからこそ、様子で際どいコースへの変化球を選択することも多い。


ストライクからボールになる変化球を投げれば、振って凡打してくれたら最高の結果。

空振りだとカウントも稼げるし、見逃されてもワンボール。


そうやって逃げてばかりだとカウントを悪くして結局四球になったり、ストライクを取りにいって痛打されたりする。


だからこそ、強気のインコース高めのストレート。


さっきよりもいいコースへストレートを投げ切った。


狙ってたのか反応したのか分からなかったが、鋭いスイングで厳しいコースのストレートを打ちにいった。




カキイィィーン!!!




パチィィン!!



勝負は一瞬でついた。


強烈な打球は俺の顔面を目掛けて飛んできた。

俺は顔に飛んでくるボールに対して慌てることなく、素早い反応でグラブを出してしっかりとキャッチした。


「ふー。危ね。」


捕るまでは落ち着いていても、ピッチャーライナーはかなり危険だ。

グラブに収まったボールを見て、安堵溜め息をついた。



「りゅー!大丈夫!?」



さっきまでの鬼に取り憑かれた姉は居なくなっていた。



「大丈夫だよ。それより打撃の練習出来なさそうなのによく打てたね。」


「軽く練習はしてたよ。周りは超一流のピッチャーばっかりだったし、投球練習の時に打席に立たしてもらったりしたしね。」



投手の姉に俺の球が通用しない訳だ。

いくら凄い中学生だと言っても、間近でプロのボールを見ている姉には力不足だった。

それでも一つ三振取れたから御の字ということにしておこう。




「よし、投手テスト終わり!」



「姉ちゃん、打撃テストはバッティングマシーンでやる?」



「何言ってるの?私と勝負するに決まってるでしょ。」



まぁ。そうなりますよね─────



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