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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第1章中学生時代
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テスト!



グラウンドに行く途中に大人4人と中学生1人で歩いていたからなのか、部活動の終わりの生徒などが横を通るときにとてつもない視線を感じた。



「龍くんの成績を元いたチームのスコアブックを光さんの口添えで借りれてまとめてたんだけど、まとめればまとめるほど、光さんのこと思い出しちゃった。」



姉と俺は見た目が姉弟と分かるくらいには容姿や雰囲気が似ていた。



だが唯一、グラウンドでプレーするときの雰囲気だけは違っていたらしい。



姉には見る者を笑顔に出来る雰囲気や惹き付けて離さない魅力があった。



逆に俺にはそういう雰囲気を感じず、絶対的な威圧感や冷徹さを思わせるような冷静な感じらしい。



グラウンドに着くと、ぱっと見た感じ誰も部員はいなかった。


この時間に練習が終わってるとは思えなかったので、練習は休みなんだろう。


「天見さん、そう言えばもう監督として活動してるんですか??」


「いや、まだだね。4月からこの学校に赴任するから選手達との顔合わせとかそういうのは終わってるけど、本格的な指導とかは4月からになるかな。」


「白星の女子野球部ってどうなんですか?」


「うーん。良くて3回戦にいければいいかなって感じ。今年入学になる1年生は12人声をかけたんだけど、結局5人しか来てくれなかったね。でも、この高校に5人来てくれるだけでもありがたいのかな?」


天見さんは姉が引退した後、キャプテンとして現在福岡4強の城西女子野球部を強くした。

投手育成に力を入れて、打ち勝つというよりも守り勝つ野球を目指した。

3年夏に甲子園に出られたが結果は一回戦敗退だった。


高校野球を引退した後は、女子プロ野球志望届けを出した。

3位以上であればプロ入りしようと思っていたが、育成契約での指名だった。


育成契約を拒否して、大学でもう一度自分を鍛え直して支配下でのプロ野球選手を目指した。

3年時には女子大学野球で全国準優勝してプロ注目の選手までなった。

だが、進路を決める際にプロ野球選手になりたいという気持ちが薄れてしまっていた。


姉がいた時も甲子園準優勝、天見さんが自分の力で出た全国大会も準優勝。

全国大会優勝出来なかったことをいつも夢に出てくるほど悔しく、優勝への思いが日に日に強くなっていった。


結局プロ野球志望届けを出すことなく、プロという夢の舞台に見切りをつけた。

全国大会優勝という夢を叶えるため、選手としてではなく指導者としてその夢を子供たちへと託すことに決めた。


「中々大変そうですね。」


「ふふふ。そうだね。けど、チームを強くするのが難しいのは龍くんも分かってるよね?」


「それはなんとなくは分かります。」


「 光さん率いる城西でも甲子園優勝することは出来なかった。あの時、私達1年がほんの少しだけでも上手ければあの試合は勝ててたのに。」


天見さんはとても懐かしそうな顔を見せていたけど、その奥にある悔しさは隠しきれていなかった。


「姉ちゃんが高校野球のコーチなんてするとは思えないんですけど、どう思います?」


「ははっ。そりゃ一緒にやってくれるなら嬉しかったけど、光さんはプレーで皆に笑顔を届ける方が向いてるというかそうあって欲しいって気持ちのが大きいかな?」


天見さんも俺もどちらも姉のプレーに魅了された仲間なんだろうなと嬉しくなった。


「りゅー。それじゃ今から準備して!20分後に始めるからね!」


用意周到に姉が持ってきたユニホームに袖を通して、軽くランニング、ストレッチ、ダッシュ、壁当てをして最低限動けるようにした。


「りゅー。まずは50M走からやるよ!」


俺は特に瞬足ではなかった。

遅くはないが、別に早い訳でもない。

小学生の頃はダントツで早かったが、中学生になってからは俊足と言われる選手には適わなくなった。


「んー。6秒51。」


姉からタイムを聞いてやっぱりそんなもんだよなと思いながら汗を拭った。


「教頭先生、足はそんなに物凄く早い訳でもないみたいですね。」


「中学生ということを考えると充分早いとは思いますけどね。これからのテストでどんな結果が出るか少し楽しみにさせてくれる結果じゃないですかね。」




「りゅー。次はなんのテストにする?」


「なんでもいいけど、実践的なことやる前に簡単なやつからやっておいた方がいいんじゃない?」


「なら、遠投で! このホームベースから、センターバックスクリーンのところの110mの表示がされてるフェンスの方に投げて!あっちから距離計って落ちた位置から110を引いたざっくりとした計算方法だけど問題ある?」




「いや、別にそれで大丈夫。」




「このホームベースから横に引いてる線から出ないように!教頭先生達もラインからはみ出てないか見ておいて下さいね。」



3回投げないといけなかったので、毎回全力というのも芸がないと思った。


1球目は助走なしでの遠投。

2球目は軽く助走してから低い弾道での遠投。

3球目はしっかりと助走してから全力の遠投。




「1球目93m、2球目91m、3球目はフェンスの少し下の方に当たったから111mくらいかな?」


この結果は野球を辞める前とそこまで変わらなかった。


「次はピッチャーとしてマウンドで投球して!」


「キャッチャーは天見さん?姉ちゃん?ピッチングって傍から見ても分かりずらいと思うけど……。」


「とりあえずキャッチャーは香織よろしく!結果が分かりやすいように私と3打席勝負しなさい!」



いきなり姉と勝負することになった。


ファンである理事長は喜ぶだろうが、普通に考えてピッチャー、バッター、キャッチャーはどちらかというと身内で固めてあるこの勝負に意味があると思えなかった。



まぁそれでも姉が力を抜くとは思えなかった。


「理事長さんと教頭先生は投球練習するのでよかったら近くで見てみてください。」




天見さんが気を利かせて2人をバッターボックスに入らない所くらいまで近寄らせていた。



バシイィ!!!




「は、はやい……!」



「近くで見るとこんなに球って速いものなのか…」



結構驚いた様子で5割くらいのストレートを見ていた。

次にカーブやスライダーなど、変化球の鋭い曲がりにとても驚いていた。



「龍くん。ラスト1球!」



コースに完璧に制球されたストレートでは無かったが、天見さんのキャッチングでストライクと判定されそうないいキャッチングだった。


「最初に受けた時の光さんの球も凄かったけど、龍くんのボールとても中学2年生が投げていい球じゃないね。」



最後の一球はかなり強いストレートを投げたので、これまでのストレートとの明らかな違いに2人は驚いていた。



「あのストレートで140キロくらい出てると思います。今からの勝負は姉と弟の親睦みたいな所もありますが、少なくとも私は本気で打ちますので。」



姉に対してバッティングピッチャーをしたり、逆にボールを投げてもらったりはしたことはあったが、こうやってグラウンドで相対するのは初めてだった。


姉は打席に入り、高校時代から打撃フォームもほとんど変わっていない。

プロでは打席に一度も立っていなかったが、練習を欠かさずやっているのが分かった。


「バットは高反発の女子野球用のバット使うけど問題ないよね?」


俺は特に返事せずに、軽く頷くだけだった。

最初はどうしようとか意味無いとか色んな感情が湧いていたが、段々と気持ちが落ち着いてきた。



初めての姉弟対決が始まるのであった。


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