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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第1章中学生時代

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合同練習!!

3チームずつに分かれて各球場で合同練習をしているところを、30分おきくらいにグルグルと回りながら色んな選手を見ていた。


ちょうど2周目に入ったところで、遂に俺のお眼鏡にかなう選手を見つけることが出来た。


あれだけ野手を探していたのに、俺がいいと思った選手は、まさかの投手だった。


彼女の名前と所属チームは――。


原ドリームガールズ。


七瀬皐月。


【投手能力】


最高球速 118km/h

コントロール 55~60

平均球速 114km/h

変化球 カーブとフォーク系の2種類?

投球フォーム かなりシンプルなオーバースロー。ここまで無個性な投球フォームも珍しいくらい、普通のフォーム。

スタミナ 不明

フィールディング 不明

クイック 不明

牽制の上手さ 不明


俺はスピードガンを持参している。


高性能なやつらしく、姉がスポンサーにお願いして、去年くらいに家へ持って帰ってきたものだ。


中学女子の平均球速は97km/h。


投手だけに絞ると、103km/hらしい。


七瀬さんは中学3年生になったばかり。


その時点で118km/hを投げられるなら、高校生になるまでしっかりトレーニングを積めば、120km/hは余裕で超えてきそうだ。


女子プロ選手で歴代最速なのは、フェアリーズ不動の抑え、白石詠選手の137km/h。


アマチュアまで含めるなら、甲子園で姉が出した144km/hが最速だ。


やっぱりストレートのスピードは、大きな武器になる。


120km/hと言われると、そこまで速くないように感じるかもしれない。


だが、女子中学生の平均から考えれば相当高いレベルのストレートだ。


女子中学野球なら、マシン打撃も大体105km/hから、速くても110km/hくらいで行う。


120km/hや130km/hを打っておけばいいと思われるかもしれないが、速い球ばかり打ちすぎると、逆に遅い投手へタイミングが合わなくなることもある。


俺も160km/hを投げる投手を打つために、マシンを前に設置して、体感160km/hのストレートを打つ練習をしていたことがある。


だが、その練習を続けていた時、110km/h前後のストレートと100km/hを切るくらいの変化球を使う軟投派投手に、全くタイミングが合わず打てなかった。


結局、相手が投げてくる平均的な直球を、しっかり打てるようにしておくことが一番大切だ。


だからこそ、その平均を大きく超えている七瀬さんのストレートはかなり魅力的だった。


だが、投球練習を始めて30球くらいで、七瀬さんはピッチングをやめてしまった。


「こら! 七瀬! ピッチング練習ちゃんとせんか!」


「今日はこれくらいでいいです。肩とか肘とか壊したくないですし」


「お前はもっと練習すれば、すごい投手になれる! だから、俺の言うことを――」


「うちは投手じゃない! 試合に勝つために練習はするけど、投手になったつもりはない!」


合同練習の最中だというのに、お構いなしに監督と七瀬さんは言い合いをしていた。


話の内容から分かることは1つ。


七瀬さんには、本当にやりたいポジションが他にあるということだった。


「えーと。去年の彼女の大会成績は……」


去年、彼女はほとんど投手としてしか出場していなかった。


成績もかなり平凡。


普通なら、そのままエースになっていたのだろう。


だが、本人が投手を希望していない以上、無理に続けさせても大成するかどうかは分からない。


それでも監督の方針には逆らえず、投手としての出場ばかりになっていたみたいだ。


野手として出場した試合が2試合あった。


そのどちらも捕手。


彼女が本当にやりたいポジションは、キャッチャーなのか?


まだ監督と言い合いを続けながらも、七瀬さんはキャッチャーミットと防具を身につけ、チームメイトのボールを受けようとしていた。


「なつみ! あなたがエースなんだから、どんどん投げてきなさい!」


そうピッチャーに喝を入れると、なつみと呼ばれていた投手が投球練習を開始した。


俺はそのまま、なつみと呼ばれる少女の投球を見ていた。


とにかく球が遅い。


コントロールはかなり良さそうだが、カーブは山なりで相当遅い。


最速99km/h。


変化球は70km/hほど。


むしろ、これだけ遅い球をよくあそこまでコントロール出来るなと感心した。


エースになれるような投手には見えない。


ただ、七瀬さんとこの投手を上手く使い分ければ、極端な球速差が武器になりそうだとは思った。


「江波! もっとシャキシャキ投げんか!」


なつみと呼ばれていた選手のデータを探そうとしていたところで、監督が苗字を呼んだ。


これでフルネームが分かる。


江波夏実。


2年時はベンチ入りしていたが、大会にはほとんど出場していない。


大差がついた試合で、1試合だけ登板した程度。


七瀬さんが捕手として出場した試合で投げていたのが、江波さんだった。


投手として登板していない時は、たまに外野手として出場しているみたいだ。


「江波からも七瀬にピッチャーをやるように言ってくれないか? そうしたら江波もレギュラーで使えるんだけどな……」


なかなかしたたかな監督だ。


自分の思い通りにならない選手を、仲の良さそうな選手に説得させようとしている。


その見返りとして、レギュラーというご褒美までチラつかせている。


それほど、この監督は七瀬さんの投手としての能力を買っているということだ。


「――はい。頑張って説得はしてみます……」


傍から見ていて、気持ちのいいものではなかった。


俺自身は、レギュラー争いというものをほとんど経験したことがない。


だから、今の江波さんの心情を本当の意味で分かってあげることは出来ない。


もし俺がベンチの選手だったとして。


友人を説得すればレギュラーになれる。


そんな状況になったら、俺はどうするのだろう。


相手を騙したり、危害を加えたりするわけではない。


ただ投手をやってもらうだけで、自分はレギュラーとして試合に出られる。


だからこそ、余計に難しい。


俺は彼女たちの行く末が少し気になった。


でも、今は選手たちの内情を偵察するためにここへ来ているわけではない。


それでも、あの2人には出来るだけいい方向へ進んでほしいとは思った。


今の俺に出来ることもない。


そう考え、他の球場を見に行くことにした。


昼休憩が終わり、午後の練習が始まった。


今度は試合形式の練習。


ピッチャーは全力では投げず、バッターに打たせる。


守備はその打球を処理し、打ったバッターもしっかり走る。


いわゆる実戦形式の総合練習だ。


この練習では、バッターはただヒットを打てばいいわけではない。


ランナーを進めるために内野ゴロを打ったり、外野フライを打ったりと、目的を持って打席に立っている。


さっきの2人も守備についていた。


江波さんはレフト。


そして、キャッチャーは七瀬さん。


江波さんの守備は、決して上手くはない。


それでもカバーの意識は高く、一球一球、真剣にプレーしていた。


こういう選手は、周りにもいい影響を与えることが多い。


自分が直接絡まないプレーでも、しっかり声を出して指示をする。


チームメイトがエラーしても、被害を最小限に抑えられるように毎回きちんとカバーへ入る。


江波さんは、献身的なプレーを信条にした選手なのかもしれない。


周りより実力で劣っていたとしても、そんなことは関係ない。


野球に対する真摯さを感じさせられた。


江波さんのプレーも気になる。


だが、本命はキャッチャーの七瀬さんだ。


彼女の捕手としての能力は、どのくらいなのか――。

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