かのちゃん!
「四条さんだっけ?君たちのチームメイト橘桔梗の幼馴染の東奈龍。よろしくね。」
「四条かのんだよー。四条さんって呼ばれるの嫌いっ!かのんって呼ぶか、かのちゃんって呼ばないと友達になってあーげないっ。」
『姉とは違うベクトルの扱いずらい女の子が現れてたな……。』
俺はいずれスカウトをやっていく上で、変わった女の子とは会うと思っていたが、急に会うと何を話していいかが分からない。
「それじゃ…かのんでいいかな?」
「えっー。やだやだ!かのちゃんがいいー!」
………………。
一瞬無言になってしまった。
その後も四条さんは駄々こねる続けたので、かのちゃんと呼ぶことにした。
「わかったわかった。かのちゃんね!」
俺は完全にペースを掴まれてしまった。
隣の玉城さんも諦めた様子で、全く助けようという素振りすらなかった。
『これが付き合いの差か…。』
俺と玉城さんは今日会ったばかりで顔見知りのレベル。
そんな人に助けてもらおうと思った俺が間違っていた。
「そういえばかのちゃん、MVPおめでとう。今日の先頭打者ホームラン凄かったね!」
「おっ。見ててくれたかね!去年はランニングホームラン2本打てたんだけど、柵越のホームランはやっぱり気持ちいいんだよー。」
中学生で髪の毛を染めるくらいに変わってはいるが、野球の腕だけは玉城さんにも負けずとも劣らない能力を持っている。
俺は癖の強すぎるかのちゃんをスカウトする気が少なくなってきたが、彼女の能力も一応しっかりと査定しておいた。
四条かのん。
打撃能力
右投左打。
長打力 50
バットコントロール 65
選球眼 30〜40
直球対応能力 60
変化球対応能力 70〜75
バント技術 不明
打撃フォーム
基本的にはスタンダードな構えで、バットをピンっと垂直に立てて構えている。
1番の特徴が投手が足を上げたと同時に、グッという感じで右足を内側に入れ、重心を落として左足1本で体を支えている。
俗に言う1本足打法だが、それにしては重心を低く落とし過ぎな気もする。
後々打ち方を真似してみたが強靭な下半身が必要だと思った。
守備能力
守備範囲 80
打球反応 60
肩の強さ 多分50〜55
送球コントロール 多分50くらい
捕球から投げるまでの速さ 70〜85
バント処理 不明
守備判断能力 50
積極的にカバーをしているか 90
走塁能力
足の速さ 90〜95
トップスピードまでの時間 100
盗塁能力 90
ベースランニング 90
走塁判断能力 不明
打ってから走るまでの早さ 50
スライディング 多分70
元々データで足がかなり速いことはわかっていた。
全国大会で俊足で名を轟かせた選手の走塁や盗塁などを何度も繰り返しみた。
タイムなどを測って行くうちにその時の映像が頭に浮かぶようになっていて、その映像とグランドを駆け巡るかのちゃんを比べても何の遜色もなかった。
「んー?どったのー?ぼけーとして。」
「あ、ごめんごめん!なんでもないよ。聞いてみたいことがあるんだけど、かのちゃんは俊足だけど、長距離バッターみたいな打ち方してるよね?俊足のホームランバッターになりたいとか?」
俊足の選手が目指すのは、常にヒットや四球を狙って、1つでも先の塁を陥れるようなタイプが多い。
もしくは、足の速さを活かして広い守備範囲誇る守備型の選手。
でもそれが全てでは無い。
これほどの俊足の選手であっても、ホームランバッターを目指すのもまたその人の目指す野球の形なのだ。
四条さんは俊足を活かすような打ち方をしていなかったのも相まって、将来の選手像がどんな風になりたいのか気になった。
「にゃるほどー。かのんはスターになりたいのだっ!」
スターか。
こういう選手像は真面目に考えろと指導者には責められたり、現実的な選手から言わせると馬鹿だと言われることも多い。
そういう世間の言葉を完全に無視して男の中で野球をやり、女子野球部が出来たばかりの高校で伝説を残した東奈光というスターもいる。
姉は将来像を話してくれなかったが、きっと普通じゃないことばかり考えていたんだろう。
「むっ。キミも、かのんの目標を馬鹿にするのか!?」
「全然そんなこと思ってくいよ。こんなこと言うと逆に馬鹿にしてると思われるかもだけど、かのちゃんはもっと努力したらスターになれる。」
「えっ?」
「今努力してないって言いたい訳じゃないよ?もっと上手くなれば、その足と実力で誰も追いつけないスピードで流れ星のように一瞬で駆け抜けれるさ。」
『くさすぎる!台詞回しが臭すぎる!』
自分が言った台詞に思い出すと恥ずかしすぎて変な笑いが出てくる。
プロ野球選手が子供に夢を与えるいうような言葉を同じ歳の女の子に言ってしまった。
野球を辞めたやつが、直前に大会MVPに選ばれた選手に言うような言葉ではない。
この台詞の臭さは隣にいた味方でいた欲しかった玉城さんでさえ、何言ってるんだこいつみたいな目で俺の事を見てきているような気がした。
「ほー。」
四条さんは少し驚いた様子で目をぱちくりしながらこちらを見ていた。
彼女は最初に思ったが、目が大きくちょっとだけつり目な感じがとても猫みたいに見える。
染めているであろうオレンジ色の髪の毛もさらに猫っぽさを際立たさせていた。
「ししょー!キミは今日から私のししょーだ!」
「…え?」
「─────ふふふ。」
何を言っているか分からない俺と、隣で笑いを堪えている玉城さん。
そして目の前には超真面目な顔をして俺の肩を両手でがっちりと掴むオレンジ色の猫。じゃない、かのちゃん。
「ししょー!かのんはこれから流星のかのんという2つ名でスターになりますっ!」
「………………。」
俺の言ったことで変なスイッチを押した気がしたが、ここで俺の唯一の味方が現れた。
「かのん。初対面の人を困らせちゃダメでしょ。」
聞きなれた感情があまり籠られてないような声が今はとても心強い。
「し、し、しょー!助けてーー!!」
四条さんは無情にも桔梗に抱き抱えられて、他のチームメイトの所に連行されてしまった。
「はぁ…。えらい目にあった。」




