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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第4章 高校1年秋
174/280

VS福岡国際⑦!



氷からはそこまで気負いを感じないし、気持ち自体は相当昂っていそうだけど、身体はリラックスしている。



初球のインコースのストレートを簡単に見逃して、2球目のアウトコースのストライクギリギリに決まるパワーカーブを見逃した。



ストライクコースを聞いた氷は一瞬審判をチラリと見ていた。



多分、これも氷からすればボールコースだったのかもしれない。


それでも審判がそのコースをストライクをとるなら、それを踏まえて対応するしかない。




「ストライク!!」




「ストライク…。」




3球目はアウトコース高めのストレートで、氷の身長からすれば高い気がしたが、これもストライクコール。


氷からすれば打つべき球ではないものを2球連続でストライクコールされていた。



ここで不貞腐れてもストライクがボールになる訳では無い。


氷にしては珍しく苦笑いしながらベンチを確認してきた。




とりあえず俺も少し笑いながら、氷に打てのサインを出してあげた。



氷はいつものようにオーバーリアクションで頭をこくこくと動かして、打席に入っていった。



いつも通りの氷なら結衣を打つことは難しくはないはず。


しかし、現状は結衣対氷というよりも、それにプラスで審判が混ざっている。



氷は審判のストライクゾーンを意識しながら、結衣のボールも弾き返さないといけない。



そうなるといつも通りのバッテングをするのは簡単ではない。


試合はメンタル面や、その日の体の状態や、試合の展開などを出来るだけ加味して100%に近づけるように努力しないといけない。



100%に近付けろとはいうが、打撃に関しては実力の30%位しか出ないと思ってもいい。




100%の実力を出せるのが1番理想にはなるけど、現実は100%の実力を大きく伸ばせば、30%でも高い能力を発揮することが出来るようになる。




それが3割打てれば一流という目安なのかもしれないし、高校野球は3割打てても凄いバッターという感じはしない。



氷はこの試合が始まるまでは、公式戦.556と相当な打率を残している。



1年生大会で大きく打率を伸ばしているから、1年生同士の勝負なら氷を抑えることはかなり難しいということになる。



今日は2打数0安打で、打率的なところから考えるとそろそろ一本出てもおかしくは無い。



追い込んだ氷に対して、相手バッテリーは簡単には勝負してこずに、アウトコースを広めにストライクを取っている審判を逆手に取ってきて、アウトコース攻めに変えてきた。




キィン!




「ファール!ワンボールツーストライク!」




氷はアウトコースギリギリに決まっているか、決まっていないか微妙な球に手を出さざるを得なくなっている。



ほとんど崩されていなかった氷のフォームがやや崩れ始めてきた。


ボール球をファールにするには少し強引な打撃が必要になる。



普通なら見逃せばいいのだが、今の氷はどこまでストライクコールされるかが分からなくなっている。



2球ファールにして、アウトコースを意識させられて氷に6球目は今日1番と言っていいほどのストレートを投げ込んできた。



いつもよりも踏み込み気味の氷は、厳しいインコースのボールへの反応がやや遅れてしまった。


普通なら詰まらされるところだが、いつもよりも身体を少し開いて、振り抜くというよりも身体の前でボールを払うように打ち返した。




「やった!抜けた!」




一二塁間の打球でファーストの横を抜けて、ライト前ヒットになりそうな打球になった。




「鈴音!捕れる!!」




インコースで勝負することをサインで知っていて、一二塁間をいつもよりも閉めていたので、セカンドの多賀谷さんが氷の打球に頭から飛び込んだ。




「あぁ!!」




悲鳴のような声が出てしまったのは白星ベンチからだった。


相当高い技術を見せた氷だったが、多賀谷のダビングキャッチに阻まれてしまった。



ゲッツーを取りに二塁へ投げようとしたが、美咲のスタートが早く二塁へ送球は出来ずに一塁でアウトを取られた。





「ナイスキャッチ!ツーアウトー!!」



「「ツーアウト!ツーアウト!!」」




福岡国際からすれば下手するとワンアウト一、三塁のピンチがツーアウト二塁となって、あとワンアウトを取ればチェンジという比較的な楽な場面に変わった。




「4番ファースト、橘さん。」



先程までファインプレーで盛り上がっていた福岡国際も、ファインプレーでヒットを損した白星も一瞬静かになっていた。



ここまでの流れなどこのバッターには関係ないことを分かっていた。



福岡国際からすれば、あと一つアウトを取ればいいのだが、最もアウトを取りにくいバッターに打席が回ってきた。



白星にしてみたら、ここまで期待の出来るバッターは桔梗以外にはいない。



桔梗は今日1番の視線を集めている。


グランドの中もそうだが、グランドの外の観客からも注目されるほどの選手だ。




「桔梗ー!1発よろしくぅ!」


「とりあえず同点にして!」




「結衣ぃ!ここは絶対抑えろよー!」


「慎重に勝負していこ!」




桔梗が打席に入る瞬間は静かになったが、打席に入ってしまうと、すぐさま両ベンチから声援が飛び交っている。



桔梗は緊張感が少しは感じられるが、特に力みは感じないし、精神的にはリラックスしてそうな感じがする。



対する結衣は緊張感というよりも、少しだけ桔梗と対戦するのを嫌がっている。


心が弱い方に流れているとかでは無く、ここまで慎重に行って、最後の勝負球を読み切られていたし、ミスショットもなく弾き返しされている。



ストレートは一打席目を長打にされて、二打席目はレフトスタンドに叩き込まれた。



変化球はまだ打たれてないとはいえ、桔梗が変化球攻めを読んでいる可能性はある。



俺も変化球を狙うならパワーカーブを狙っていく。



チェンジアップも確かに決め球の1つではあるが、ストレートが有効に使えれば最大限の威力を発揮できるボールなので、逆にいえばストレートが通用してない桔梗に投げるのは危険なボールになる。




チェンジアップは狙って打つようなボールでは無いので、変化球待ちしていた場合はチェンジアップを簡単に弾き返される。





「ちっ。だめか。」




結衣は俺が思った通りに、スライダーからパワーカーブと2球続けて変化球を投げてきたが、桔梗はほとんど反応なく見逃してきた。



どちらのボールもストライクからボールになる危険の少ないボールを選んできた。



キャッチャーの秋山さんも自ベンチに対して何度か目線を飛ばしている。



ツーボールになって桔梗との勝負をどうするかベンチに確認しているんだろう。




そして、3球目。



「ボール!ボールスリー!」



インコースへ勝負の一球を放ってきたが、力みがあったのか桔梗が軽く仰け反るようなボールになってしまう。



スリーボールになって、一塁が空いている場面で桔梗と勝負する理由が無くなった。


桔梗をランナーに出すと逆転のランナーになるが、そもそもここで無理に勝負してしまうと同点にされる可能性が1番高い打者なのだ。





「ボール!フォア!」




桔梗はその場にバットを置いて、肘に着けたプロテクターを外しながら一塁へ軽く走り出していた。



勝負を避けられたことでピッチャーを睨むこともないし、道具を乱雑に扱うことなんて小学生の時から見たことがない。



クールと言われることが多いみたいだけど、本当はクールというよりも出来るだけ真摯に物事に取り組む姿勢がそう見える要因なんだろう。




「ツッキー!打ってー!」




俺の見る限りはそこまで警戒されていない月成がバッターボックスへ。



今日もピッチャーライナーと空振り三振で、1打席目はまだしも2打席目の打席内容は褒められたものではなかった。



桔梗は確かに強打者で、打線のど真ん中で居てくれることは打線の厚みが増すが、その後ろを打っているバッターが舐められると、カウントが悪くなると桔梗との勝負を避けてくる可能性はある。



この打席の月成は今日1番集中しているようだ。



こういう時の月成はヒットが出なくても、かなりしぶといバッテングを見せるし、一振で決める鋭いバッテングを買って5番を任せている。



月成に対しては、基本的にストレートで押してきている傾向にある。


身体もそこまで大きくはないし、パワーがあるようには見えないので、力押しで攻めるのが正解と思っているはず。




ストレート狙いのサインを出したい気持ちはあったが、かなり集中している月成を邪魔するのもどうかと思ったので、ここは月成に任せることにした。




ストレートで押してくるかと思われたが、桔梗と同じように慎重にコーナーに変化球を投げ込んできた。



初球は甘めのチェンジアップを見逃してワンストライク。


2球目の厳しいパワーに対しては狙っていたのか、豪快なスイングで少しだけタイミングが早く、一塁線へ大きく切れるファールになった。



変化球2球で追い込まれると、集中していた月成にも焦りが見えてくる。



この打席で凡打すると、月成に打席が回ってこない可能性も大いに有り得る。



だからこそ、ここで同点打を打ってチームの為になりたいという気持ちは痛いほど伝わってくるが、それが力みになるとろくな事にはならない。



一度打席を外して、軽く2回スイングして、審判に軽くお辞儀をしながら打席に入った。



一旦タイムをかけることで気持ちを落ち着かせることは出来るが、大体の選手は多少はというくらいなのに対して、月成はあの一瞬でかなり精神を安定させてきた。



月成は野球の技術で言えば、どれもそこそこになんでも出来るといった感じなのに、レギュラーを掴んでいる。



それを可能にしているのは、月成自身の中にある何かがそうさせている。


今も尋常じゃない早さで気持ちを切り替えて打席の中に入っている。



その何かが分からないので、メンタルの強さということにしておくことにしている。




3球目は秋山さんが中腰になって高めを要求していた。



一旦高めの釣り球を使って、その次かそのまた次の勝負球への布石にするのだろう。



月成の肩のラインくらいの見送れば完全にボールというストレートがきた。



誰もが見送ると思ったボールに対して、上から振り下ろすようなスイングで強引に打ちにいった。





カキィィーン!!




振り下ろすようなスイングで高めのストレートを叩きつけるように打った打球は、高く跳ね上がってファーストの頭を越していった。




「回れ回れぇーー!!」




三塁コーチャーが大きく腕を回して、二塁ランナーの美咲に対してホームへ向かうように指示していた。




美咲はそれを確認するよりも前にホームを狙って全力疾走している。



打った月成はガッツポーズとかをすることなく一塁へと走り出していた。


ベンチの選手たちは回れ回れと声を上げながら、今にもベンチから飛び出して行きそうだ。




福岡国際は同点にさせまいと、外野前進していたのでライトの滝本さんがすごい勢いでチャージしてきた。



美咲が三塁を蹴ってホームへ向かったのとほぼ同時か少し遅れて、ライトの滝本さんがボールを拾い上げると、最低限のステップでバックホーム。




滝本さんが強肩なのは三塁コーチャーも美咲もよく分かっている。


それでもツーアウトでスタートを早めに切っていて、しかも鋭い打球ではなかったので、ホームに突っ込まないのはないと判断したんだろう。




美咲も足が速いのであっという間にホームまであと半分のところまで来た。



滝本さんの送球はやや一塁側に逸れたが、女子選手とは思えないほどの矢のような低い弾道の送球が、あっという間にホームまで帰ってきた。




キャッチャーの秋山さんが少しだけ逸れた送球を腕を伸ばしてキャッチすると、三塁から突っ込んでくる美咲に対して、身体を三塁側に流しながら、最低限ランナーが滑り込んでこれる走路は確保しつつ、素早くタッチしに行く。




キャッチャーは滑り込めるくらいの走路を開けておかないと、アウトを取っても走塁妨害でセーフに変わる場面も何度か見た事がある。




美咲はタッチを避けるスライディングをせずに、一直線にホームへと滑り込んできた。




「セーフ!」



「アウトだ!!」




美咲と秋山さんは両方同時に審判にアピールしていた。




かなり際どいタイミングになった。


ライトが滝本さんでなければ、こんなタイミングになることは無かっただろう。





「アウトぉ!!スリーアウトチェンジ!」





「ふー。だめか。」




俺も思わずアウトコールを聞いて声が漏れてしまった。


美咲は滑り込んだそのままの体勢で、少しの間動かずに固まっていた。



試合はまだ終わってないので、ベンチの選手たちが美咲の帽子とグラブを持って近づいてくるのを確認すると、苦笑いしながらユニホームの土を払ってショートのポジションへと向かっていった。




月成も残念そうな顔をしながら、一塁コーチャーの梨花と何かを話しながら、ベンチからグラブとかを持ってきてくれるのを待っていた。




その話している所にファーストの桔梗も混ざって三人で話していた。



三人ともそこまで悲観したような雰囲気でもなく、一点差で負けていても落ち着いている。




「まだ大丈夫だよ!しっかり守って行こう!!」




「「おぉ!!」」




夏実はベンチから守備につく選手たちに声を掛けていた。



それに合わせて試合に出ていない選手たちも、レギュラーの選手たちに声援を飛ばしている。



1年生大会で一般生も初めの方は積極的に使っていたので、今出ているレギュラーだけでなく、この準決勝までこられたのは他の選手たちの力もあってこそだ。



それをみんな分かっていて、チームが一丸となっているのを感じている。


これまでは特待生と一般生に少しだけ壁があったように感じたが、試合中でも気にせずに選手に声を掛け合うことが出来るようになっていた。




「皐月ぃ!この回も抑えて!」



「七瀬さーん!頑張ってー!」




花田と青島も俺のそばで、誰がどう見てもエースにしか見えない投球を続けている、七瀬に声援を送り続けている。




七瀬は少し疲れが見えながらも、6回表のマウンドに上がっている。



チャンスを生かせなかった次の回は、強力なクリーンナップ、3番の秋山さんからの打順で始まる。




ここまで秋山さんを二打席抑えていたが、流石に三打席目になるとどんな凄いボールでも目が慣れてくる。



ここまで有効に使えていたスライダーで、カウントを稼ごうとしたところを狙われて、センター前ヒットを打たれた。



続く4番のパワーヒッターの滝本さんとの対決で、長打だけは警戒しないといけないという場面がきた。



流石に滝本さんにはバントはさせずに強行策で勝負しにきた。



強行策ならゲッツーを取りたくなるが、柳生は低めのストレートや変化球ではなく、少し危ない高めのストレートを要求していた。



初球から少し甘めの高めのストレートを見逃す訳もなく、もちろんフルスイングをしてきた。




「美咲っ!捕れる!!」



強烈な打球がセンター前に抜けそうだったが、柳生が予めセンターラインに二遊間寄りにポジションを取らせていた。




滝本さんはパワーヒッターには珍しく、センター返しを基本とするバッテングをしている。



だからこそ、ど真ん中高めのストレートを要求してセカンドベース寄りにポジションを取らせたのだろう。




いくらストレートに威力があるとはいえ、あまりにも危険なボールではあるし、実際に今も火の出るような当たりがセンター前に抜けようとしている。




そんな打球に美咲が素早い反応で、打球に頭から飛びついていた。



グラブにボールが入ったが、打球が強すぎてグラブからボールが溢れた。



だが、美咲は溢れたボールを倒れ込んだまま冷静に処理した。




「へい!こっち!」



右手でボールを拾い上げて、セカンドベースでかのんがボールを要求している。



美咲はどうにかかのんにボールをトスすると、美咲からのボールを素手で掴んで、秋山さんのスライディングを華麗に避けながらファーストに送球。




スライディング避けながらだったので、送球が乱れてワンバウンドになったが、桔梗がこれを難なく拾い上げた。




「アウトぉ!!」




「うっしゃ!」



「美咲やるじゃーん!」




かのんが倒れ込んだ美咲に手を貸して起こすと、軽くハイタッチしてポジションへ戻っていく。



柳生の作戦は上手くいってしてやったりという顔をしているが、対照的にピッチャーの七瀬はほっとした表情をしていた。



美咲のファインプレーでツーアウトを取ると、そのプレーに背中を押されたのか、先程ホームランを打たれた戸根さんに対して圧倒的なピッチングを披露した。



打たれた高めを徹底的に避けて、低め低めにボールを集めて、最後はインコース低めギリギリに決まるスライダーを投げ込んだ。




「ストライク!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!」




戸根さんはスライダーに対して手も足も出ずに、見逃し三振に打ち取って3番から始まった攻撃を三者凡退で切り抜けてきた。




もう後残すところ攻撃回数は2回となり、6回裏の柳生からの攻撃で、今日三度目の姉妹対決が始まろうとしていた。




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