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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第4章 高校1年秋
144/280

大きすぎる壁!




「やっぱり厳しいな…。」



試合展開はやっぱり厳しいものになってしまった。



ブルペンでも調子は悪くはなさそうだったが、波風の打線があまりにもしぶとかった。


ストライクゾーンギリギリにストレートを投げても、変化球を投げてもファールにされる。



無理に合わせている訳ではなく、自分のスイングを崩さずにバットを振り抜いた結果が、ファールになっているだけだ。



四球も初回に伊志嶺さんに対して慎重になり過ぎて出しただけで、それ以降は出していない。



初回は1番、2番連続で外野フライに抑えたが、続く伊志嶺さんにはワンストライクを取ってから4球連続ボールを投げて歩かせてしまった。



4番バッターに粘られながら、最後のストレートをレフト前へ弾き返された。



5番にも粘られ、ここも外野まで運ばれながらもどうにか無失点で抑えた。


1回だけで27球というかなり多い球数をなげさせられることになってしまう。



1回裏。


かのんは緩急に惑わされながら、決め球のチェンジアップを打ち上げてしまいファーストファールフライに倒れる。



2番の氷は抜群の動体視力を生かして四球でランナーに出たが、大湊先輩がチェンジアップを引っ掛けさせられサードゴロゲッツーに打ち取られた。




2回表。



先頭バッターの6番には相手が打てそうにないところにボールをコントロールして、決め球に高めのストレートを打たせてショートフライ。



波風に2人しかいない1年生のスタメンの大城さんに、初球のスライダーをレフト前へ流し打ちされて、ランナーを背負ってしまう。



続く8番の許斐さんにも慎重に攻めていたが、ストライクゾーンギリギリのインコースのストレートをあっさりと右中間に運ばれた。



バッターの許斐さんも瞬足の選手だったが、一塁ランナーの大城さんも同じくらいの瞬足を飛ばしてあっという間にホームまで帰ってきた。



打ったバッターの許斐さんも瞬足を飛ばして一気に三塁まで到達。


ライトの月成の処理もそこまで悪いわけではなかったが、許斐さんに三塁打を許してしまった。



ワンアウト3塁の場面で、9番ピッチャーの我那覇さんに打席が回ってきた。


ここは当然9番ピッチャーだったので、スクイズを警戒のシフトを敷いた。


バッテリーもスクイズをやらせないように、様子見で初球はウエストボールを投げた。



一瞬だけバントの構えを見せてきた。

今のバントの構えはブラフな気がした。


わざわざ外したボールに一瞬だけバントの構えを見せる理由がない。


相手にスクイズをチラつかせるなら、しっかりとバントの構えを見せた方がいいような気がする。



バッテリーは高めのバントしにくいストレートを要求したが、我那覇さんは最初からスクイズする気がなくスイングしてきた。



前進守備の外野の頭を軽々と越え、許斐さんは歩いてホームへ戻ってきた。


打った我那覇さんも駆け足くらいのスピードで2塁へ到達して、1点を追加されて2-0でなおもランナー二塁のピンチ。



早くも1番バッターへ打順が戻ってきて、3球目のシンカーを打たれて、グラブの横を抜けてセンター前ヒットになった。



センターの瀧上先輩の守備の上手さと肩の強さを事前に知っていたのか、二塁ランナーは無理せず三塁でストップした。



ここで1本出ていたら試合が終わっていた可能性があったが、このピンチを救ったのは桔梗の守備だった。



波風の2番バッターは背中から入ってくるスライダーに、一切ビビることなく踏み込んで引っ張ってきた。



真芯で捉えた打球は140km/hくらいのスピードは出ている。


ワンバウンドした打球は跳ね上がり、桔梗の顔面に向かっていたが、体勢を落としながら半身にして何とかキャッチ。



すぐさま二塁へ送球して、大湊先輩がセカンドベースを踏んでファーストへ送球。


桔梗は投げ終わってすぐにファーストベースに戻り、大湊先輩からの送球を精一杯体を伸ばしてダブルプレーを完成させた。



「桔梗!!ナイスッ!!」



涼しい顔で帰ってきた桔梗は、すぐに打席に入る用意をして打席に向かった。




2回裏。



桔梗は相手がどんなボールを投げるか確認する為にボールを見送っていた。



バッテリーは桔梗を怖がる様子もなく、ストレート2球ストライクを取ってきた。


電光掲示板には2球とも116km/hのストレートだった。



3球目に選んできたのはチェンジアップ。


低めギリギリのコースで見送るには危ないコース。


バッテングフォームを崩さずに重心をギリギリまで右足に残して、理想的な変化球を打つフォームでセンター返し。




ピッチャーの左を抜け、センター前ヒット。


誰もがそう思うような打球だったが、伊志嶺さんがダイビングキャッチ。


その場で起き上がらずに、倒れ込んだまま手首のスナップを使ってファーストに送球。



桔梗は懸命にファーストを駆け抜けたが、ほんの僅かに間に合わずアウトになってしまう。



5番の月成、6番の進藤先輩は変化球攻めで的を絞れずどちらも内野フライに打ち取られた。



我那覇さんは打てない投手ではなかった。

波風でエースになれる投手が悪い投手な訳が無い。



キャッチャーのリードが上手い。

厳密に言えば、そのリードを教え込んだ指導者が投球術を理解している。


上手く的を絞らせずにのらりくらりと逃げられている。



3回表。



3番の伊志嶺さんからの攻撃。

白星の守備位置は内野も外野もかなり下がっている。


サード側にバントされたらまずファーストでアウトにするのは無理だろう。


バントしてヒットならまだましと思えるような打者なのだ。


うちの桔梗も相当いい打者だけど、伊志嶺さんは今プロに入っても通用する可能性すら感じられる。



ガギイィン!!



ほんの僅かに詰まったような音が響いた瞬間に、セカンドのかのんを痛烈な打球が襲った。



あまりの打球の強さにグラブからボールが飛び出た。


かのんは焦ることなくボールを拾い上げて、ファーストにボールを送ってワンアウトをとった。



4番はレフトにラインドライブする打球を放って、氷は必死に打球を捕りに行ったが打球に追いつけなかった。



それを見てなのか分からないが、5番もアウトコースのボールを強引にレフト方向へ打っていった。


フラフラと上がった打球に氷が突っ込んでいくが、このボールにもやや届かず氷の手前に落ちた。



ワンアウト1.2塁のピンチを背負っても、柳生のリードは落ち着いていた。



6番に対しても、徹底して慎重に攻めてボール球のカーブを打たせた。


ボテボテのゴロになったので、ゲッツーは取れず進塁打となりツーアウト2.3塁となった。




7番の大城さんが左打席に。


彼女は打順でいえば許斐さんよりも1つ上の打順を打っている。


俺が調べた情報によると…。


大城渉(おおしろあゆみ)


静岡県出身で、中学生時代に中部地方の最優秀外野手として選出されたらしい。


タイプ的には許斐さんと似たような選手で、好打瞬足で守備も上手い。


多分実力的にはそこまで差はないだろうが、ここまでいい外野が2人いるので、何事もなければ2年間は外野は安泰だろう。



際どいコースを突きながら、カウントを3-2までどうにか持っていった。


ここまでカウントを持ってきたのはいいが、バッテリーは投げる球がなくなっていた。


変化球もストレートもどちらも空振りを取ることが出来ない。


俺も波風が強いことは十分承知していたが、ここまでしつこいバッティングをしてくるとは思っていなかった。



今年の波風は守備重視のチームと言われていたが、ここまで打撃がいいと1人抑えるのも一苦労だ。



アンダースロー特有の下から浮き上がる軌道のストレートを高めに投げた。


高めなのでヒットにされやすいが、慣れていない分抑えられると思ってバッテリーは高めのストレートを選んだはず。



この高めのボールの選択はよかった。


それでも軽く当てるようなスイングでセカンドの頭を越されて、センター前ヒットになってしまった。


フルカウントでツーアウトだったので、二塁ランナーも打つ前から早めのスタートを切っていて、悠々とホームまで帰ってきた。




4-0。



左対左とか関係なくしっかりと捉えてくる。


海崎先輩は完全に攻略されていた。

初回から思っていたことだが、波風は海崎先輩が登板してくることを分かっていた。



いくら強いチームとはいえ、ここまでアンダースローに対してタイミングを合わせてくるのは難しい。


強豪に勝つには梨花のような正統派の投手じゃなく、海崎先輩のような変わった投手を使ってくると読まれた。



かといって、ここから梨花を投げさせてどうにかなるとも思えないが…。



バッター集中で8番の許斐さんとの勝負。


一塁ランナーは警戒されていないのをいい事に、初球から完璧なスタートを切って盗塁を簡単に成功させてきた。



海崎先輩も相手のプレッシャーと戦いながらの投球になっているので、球数の割には汗もかなりかいているし、肩で息をしているのが分かる。



ツーボールからの2球目。

ストレートを完全に投げミスして、棒球の様なストレートがど真ん中へ。



完全に打たれたと思ったが、この絶好球を許斐さんは力んだのか打ち損じた。


それでも外野の頭を越していきそうな打球になった。


うちにはまだ運が残っていたのか、その打球が飛んだのが守備の名手の瀧上先輩の方だった。



捕るのはそこまで簡単な打球ではなかったが、背走しながら包み込むようにボールをキャッチした。



「瀧上先輩ー!ナイスキャッチでーす!」




海崎先輩は3回4失点。

四死球1、被安打8で4失点でどうにかギリギリ踏ん張っているという感じの内容だった。



ベンチに戻ってきても、明らかに疲れた表情でびっしょりとかいた汗を拭いていた。


梨花は早い段階から肩を作っているので、いつでも投げられるけど、そこらへんは監督がどう思っているかは分からない。



「まだまだ4点差!攻撃もこの回合わせて5回も残ってるんだから、気合い入れていくぞ!」




「「お、おーー!!」」



円陣で大湊先輩が気合いを入れ直していたが、選手達はやっぱり波風の強さに圧倒されている。


諦めている訳では無い。

それでも心の中では勝つのは厳しいと思っているんだろう。



7番の瀧上先輩からの攻撃。


白星の7番、8番、9番に対してストライク先行の投球で、波風バッテリーに手玉に取られてしまった。


3人とも簡単に打ち取られて3回裏の攻撃が終わった。



海崎先輩のところで代打も考えられたが、まだ投げられるという判断で4回も続投になった。



「監督。梨花はいつでも投げられそうなんですけど、継投はいつからにしますか?」



「うーん。今の西の実力だと波風と戦うのは厳しいと思う。かなりうちも調べられてるから、確実に弱点突かれるよ。」



「そうだと思います。それを分かっていても、梨花に投げさせてあげたいんです。」



「なにか考えてることあるんだね?」



「一応は…。けど、この試合に勝つ為ではないです。」



「そうだよね。東奈くんは西を何処から使うべきだと思う?」



「この回、海崎先輩がピンチを作らなければ5回からですね。もし、この回ピンチを背負ってしまうなら3番の伊志嶺さんの所から行きたいです。」




「伊志嶺さん?いいの?だって彼女は…。」




「だからこそ伊志嶺さんの所から投げさせたいんです。」




俺の強い押しに監督は悩んでいる様子だった。


監督はこの試合梨花を使うことを躊躇している。


試合前は継投策を考えていたが、試合が進んでいく内に梨花を投げさせたくない気持ちが大きくなってきたんだろう。


監督とは考えていることが逆で、俺はこの試合に投げるべきなのは梨花だと確信していた。



「ふぅ…。気が乗らないけど、どうなっても東奈くんが半分は責任を持ってくれる?」



「はい。元から全部責任を取るつもりで提案してるので。」



俺の強い口調に監督は少し嬉しそうな顔をしていた。


監督が何を考えて笑ったかは分からないが、俺の提案を受け入れてくれた。



俺は強い意志を持って提案したが、海崎先輩もこの回ピンチを背負わずに、4回4失点でマウンドを降りてくれることを祈っていた。



別に梨花を投げさせたいから海崎先輩に打たれて欲しいとかは微塵も思わないし、抑えればまだ勝てる可能性は残っている。



その幻想を打ち砕くように波風は襲いかかってきた。


9番の我那覇さんに対しては、アウトコースギリギリに決まるストレートで今日始めての見逃し三振に打ち取る。



続く1番にきっちりとセンター返しをされ、2番バッターの初球から盗塁を決められた。


2番バッターにはスクリューをバットの先っぽで拾われて、ライト前に落ちるヒットになった。



二塁ランナーはハーフウェーだったので、三塁ストップであっという間にワンアウト1.3塁のピンチを背負ってしまった。




「3番セカンド伊志嶺さん。」



球場に早くも今日三度目のウグイス嬢からのコールが球場に鳴り響いた。


一塁側のベンチからも、スタンドからも沖縄特有の指笛がやたら耳に残る。


打席に入る前に2回フルスイング。

そのスイングの鋭い風切り音がこちらのベンチまで届いている。



仕方ないことだが、ベンチの選手たちは自分達とは明らかに違う伊志嶺さんの姿に目を奪われていた。




「タイム!審判、ピッチャー交代。海崎に代わって西。」




「梨花。カウントが悪くなっても絶対に歩かせるなって柳生に伝えておいて。」



「ん?そのまま伝えておくわ。」



「それじゃ、頑張って!」



「おう。んじゃ行ってくるわ。」




いつもと同じようにゆっくりとマウンドに向かう。



この登板が梨花にとって試練になることは俺と監督しか知らない。


梨花にはとってはいずれ通らないといけない道だ。


結果がどうであれ全力でぶつかっていくしかない。




「本当に頑張って。」




梨花と伊志嶺さんとの対決が始まった。





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