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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第4章 高校1年秋
135/280

VS筑紫野女学院⑥!




剣崎先輩がバッターボックスに入り、いつもよりも気合いが入っているのがこちらに伝わってくる。



剣崎先輩は確実性は無いが、練習では桔梗と同じくらいかそれ以上にボールを飛ばしている。



あの恵まれた体格とパワーがあれば、もっといい選手になれるはずだ。



福岡県内でも剣崎先輩以上のフィジカルエリートをまだ見た事がない。


少しだけ脂肪が多めだが、姉の光ともそう変わらない体格をしているのに勿体ない。




監督がA特待でスカウトしてきただけはある。


もっと野球に真摯に向きあって、自分の足りないところを自覚するところから始めないと駄目だろう。



俺が言ってもあんまり聞く耳を持たないので、こればかりは自分で気づいてもらうしかないだろう。




「プレイッ!」



このお互いに譲らない試合に、審判のコールにも熱が入っているように聞こえる。



バットに当たれば力技でヒットになる可能性はある。


それが芯を捉えられれば1発で試合が終わるかもしれない。




「うおぉ!!」




ブンッ!



ベンチにまで豪快な空振りの音が聞こえる。


相手のチームは体格が大きい剣崎先輩を見て、長打警戒のシフトを敷いていた。


今の空振りを見て、外野と内野が少しだけ下がり強烈な打球に警戒した。




初球のカーブを狙ったように豪快な空振りし、バッテリーは変化球狙いと思ってくれれば、剣崎先輩が得意なストレートを打てる。



2球目、3球目にストレートを投げてきたがどちらもやや大きく外れてボール。



4球目は初球と同じカーブを投げてきた。

剣崎先輩にはどの球種を狙うかのアドバイスはしていない。



初球に投げてきたカーブと、ほぼ同じ高さから同じコースへ落ちているように見える。




カキィィーン!!




甲高い金属音と共に、強烈な打球があっという間に投手の頭上を通り越し、二遊間を破って勢いは衰えず飛んでいく。




剣崎先輩の物凄いパワーを改めて実感するような打球だった。



それでも今回はそのパワーが裏目に出てしまう形になった。




「アウト!!」



ライナー性で飛んだ打球はあまりにも痛烈過ぎたのか、センターが前に数歩進むだけで捕れるセンターライナーになってしまった。



普通のバッターから途中で失速して、センター前に落ちそうなものだが、その何メートルの伸びを生んでしまったのは剣崎先輩のパワーのせいだ。




「くっそ!」



ファーストベース寸前で捕られたのを横目で見て、悔しそうに地面を蹴りあげていた。



高校生らしくない少し荒っぽい悔しがり方だが、選手ならその気持ちは痛いほど分かる。




「剣崎。悔しいのは分かるけど、あんまり表に出しすぎると良くないよ。」




「は、はい。すんません…。」




これもよく見る光景だ。

悔しいプレーをすると、やや物に当たりがちなところを注意されている。



今は反省しているけど、その場面になると気持ちが前に出てしまうんだろう。




「かのーん。腕大丈夫かー?」




打席に入る前に、かのんにさっきの怪我はどうか確認してみた。



大きくジェスチャーで頭の上で丸を作っていた。


怪我をしたのは左肘で、左打ちのかのんには影響が少ないはずだ。



それでも消毒して、肘の絆創膏が剥がれないように軽く包帯も巻かれている。



パッと見るとかなり痛々しくも見える。

そんなかのんに観客から大きな声援が送られていた。




さっきのファインプレーを見ていた他校からの声援も送られている。



外野前進に近いくらいのシフトを敷いている。



ここまでのかのんの打撃と、2回戦も無安打だった情報も向こうは知っているだろう。



足が速くて、守備が上手い1番バッターのイメージがあるのだろう。


体格も特別大きくないし、しかも腕には痛々しい包帯も巻かれている。




「かのーん!打撃でも魅せてけー!」




最近全然調子が上がってこないかのんを少し心配していた。


元々気分にも打撃にもムラがあるかのんだが、ここまで調子が上がってこないとなにか原因があるんじゃないかと思っていた。




いつもお調子者だけど、最近は打てていないことを少し気にしていたようだ。



今のかのんからは、僅かに一流の選手のオーラを感じることが出来る。




やっぱりいまさっきのファインプレーで気分が最高潮まで上がってきている。




「ここで決めるぞー!」




カキイィーン!!




かのんらしい初球攻撃。

アウトコースのストレートを強引にライト方向へ引っ張っていく。



打球がやや上がり過ぎな気がしたが、外野が前進していたこともありライトは必死に打球を追う。




「抜けろぉー!!」



かのんは早くも一塁べースを蹴って、自分の打球が抜けるように叫んでいた。



その思いが通じたのか、ライトの頭上を抜けて完璧に長打コースになった。



打球がフライだったこともあり、ライトは早めに打球に追いついた。




「かのん!三塁行けるぞ!」




思ったよりも足が速いかのんを意識しすぎたのか、ライトは打球の処理に少しもたついていた。



ボールが返ってこないと分かると、一気に二塁ベースを蹴って三塁へ向かう。



返球が返ってきたが、かのんは三塁へ滑り込むことなく悠々三塁へ到達した。




「いえーい!」



堂々とこちらにVサインをして勝ち誇った顔をしている。


1番長打が欲しいところで長打を打てるのがとてもかのんらしい。



ベンチ全員が7回のかのんの大活躍に乗せられているのか、この回に同点に追いつかれたことを忘れたような雰囲気に包まれている。




かのんのプレーには人を惹きつけるものがある。



だからこそ、1番としての役割をもっと自覚してくれるといいのだけど…。



今の打球も大きなフライになって、定位置よりもやや後ろで守られていたらまずライトフライだっただろう。



それがスリーベースになるのもかのんの生まれ持ってきた運と実力なんだと思っていた。




「2番センター王寺凛さん。」




ここまでずっとウグイス嬢がアナウンスしていたが、この凛の打席にはとても球場に響いているような気がした。




サヨナラの場面でお互いに緊張感が流れていて、一瞬静寂が流れた時にアナウンスされたせいだろう。




凛も明らかに緊張していた。


1年生の中だと打撃がイマイチで、この打席スクイズの可能性は結構高い。



軟式の時は打撃がそこまでイマイチとは思わなかったが、それは軟式だったからだろう。



軟式バットは主に金属バットか、ビヨンドバットというゴム素材のバットが使われている。



小学生の時にビヨンドバットを使ってみたが、あまりにも簡単に打てすぎたのと、姉がビヨンドバットを使うのは良くないと忠告してきた。




凛と対決した時は金属バットを使っていたが、基本的にはビヨンドバットを使っていたらしい。



あのバットは個人的にオススメ出来るものでは無い。


試合で結果を出したいなら別にいいが、練習で使うのはやめた方がいい。



芯をくった打球とよく言うが、芯といっても芯にも色々とある。



スウィートスポットというその打者によって最も強い打球を打てる場所がある。



木製は2mm程度、金属は5mmから20mm程度という本当に僅かなスウィートスポットの打つ感覚が身につけば、一流に近いと俺は思っている。



ビヨンドバットの悪い所が、そのスウィートスポットが20cm近くあるというところだ。



ゴムで出来ているところに当てることが出来たから、根元だろうが先っぽだろうが勝手にボールは飛んでいく。



ゴムとゴムが当たることでボールが潰れずに、高反発で飛んでいくのがビヨンドバットの最大の利点だろう。



芯を外されても飛ぶのなら、ビヨンドバットを使わない手は無いが、硬式バットで飛ばすとなると話は変わってくる。



凛はそのギャップで苦しんでいる感じだ。大分ましにはなったが、まだ感覚として身についていないだろう。



代打も普通にありだなと考えていたが、スクイズするなら凜のままの方がいいとも思っていた。



スクイズをやるにしてもとりあえず失敗した時のリスクは言わずもがなで、3番には今日ヒット出ていない桔梗がいる。



少なくとも凛に打たせるよりも桔梗の一打に託した方がいいだろう。



それを承知でスクイズしにいくのか、凛の一打に期待してダメなら桔梗の一打に期待するのがいいのか。



内外野はかなりの前進守備を敷いている。

この場面でスクイズを警戒しないチームなんてない。



相手には凛を歩かせるという選択肢もあるが、今日は打てていない桔梗か、今日大当たりの大湊先輩のどちらかとは勝負しないといけない。




それなら途中出場の凛との勝負一択だろう。



監督が凛に長いサインを出して、それをバッテリーは凝視している。


凛はサインを見終わると大きく息をついて、打席に入りいつもよりも何倍も真剣な表情だった。




この試合で1番の場面なのはわかるが、それにしても力が入りすぎてるようにも見える。



初球は一旦外してくると思われた。

凛の体に近い厳しいストレートをやや仰け反りながら避けていた。




「ストライク!!」




「えっ…。」



かなり厳しいインコースをストライクに取られ呆気にとられていた。


このワンストライクは凛にとってはきついストライクとなった。




先程よりもじっと監督のサインを確認していた。


スクイズするなら、2球目か3球目しかないだろう。



それだと、この2球目ストライクを取られるとリスクがあるスリーバントをやらないといけなくなる。



それにしてもどんどん凛の緊張が酷くなっているような気がする。




相手バッテリーのサイン交換が終わり2球目を投げようとしている。



1球目はピッチャーはあんまり3塁ランナーのかのんを注視していなかったが、この2球目はセットポジションに入ってから、かなり気にしているようにも見える。




「これやばいかもな。」



「え?どうした?」




隣にいた海崎先輩が俺の言葉に一瞬反応した。


俺の予感は当たってしまった。



バッテリーはスクイズを読み切り、大きくボールを外してきた。




「当たれぇぇ!!」




凛はどうにかバットに当てようと、体を打席から投げ出してバントしに行った。



懸命のバントも虚しくバットにボールが当たらなかった。



キャッチャーはボールを捕ると、すぐさまホームに突っ込んできているかのんをアウトにしにいった。



かのんは挟まれて絶体絶命になった。




と思ったが、かのんは自分の感覚なのか勘なのかかなり早めにサードへ帰塁している。



それでも飛び出しているのは明確だった。



キャッチャーはすぐさまサードへ送球。


キャッチャーは戻りが早いかのんに少し焦ったのか送球がやや高い。




かのんは必死に三塁にヘッドスライディングで戻る。



サードもボールをキャッチして懸命にタッチしに行く。





「せ、セーフ!!」




審判の判定は間一髪でセーフ。


かのんのスクイズが失敗するという早めの判断がなければ完全にアウトだった。




「あ、危なかった…。」




ベンチの選手たちは審判のセーフのコールに安堵のため息をついた。



凛はスクイズしにド派手に飛び込んでいたので、ユニホームが土とラインを引いている石灰でかなり汚れていた。



ユニホームの中に入った土や汚れをタイムをとって落としていた。




「夏美!ちょっと来て!」




「は、はいっ!」




俺は夏美に簡潔にあることを説明することにした。


それが自分の仕事だと分かっているのか、俺の言葉を一言一句聞き逃さないようにしている。




「…これを伝えてくれる?」




「う、うん…。いいけど…。このまま伝えないとだめ?」




「お願い。俺からそのまま伝えろって言われたって言っていいからね。」




俺は夏実に伝言を伝えると、監督にお願いしに行った。




「監督、タイムをかけて伝令として夏実を凛の所へ行かせてあげてくれませんか?」




「うん。わかった。」




監督はあっさりと快諾するとタイムをかけて、夏実を凛の元へ伝令に送ってくれた。





ー凛視点ー




ツーストライクに追い込まれてしまった。


はっきり言って緊張しすぎているのが自分でもよく分かる。



心臓の高鳴りが周りに聞こえるんじゃないかってくらいに緊張してる。



ツーストライクまでインコースの厳しい球と、ウエストボールで球筋も全然掴めていない。


今こうやってユニホームを綺麗にしている間に少しでも落ち着かないと。





「タイム!」




ユニホームを綺麗にし終わって、監督のサインを見ようとした時にもう一度タイムがかけられた。



夏実が審判に一礼して、私の元へ駆け足で寄ってきていた。




「夏実?どうしたと?」




「伝令だよ。」




一瞬、この場面で交代を告げられるかと思ったが流石にそんなことはなかった。




「それで?監督はなんて?」




「監督じゃなくて、東奈くんからの伝言を伝えに来たんだけど…。」





東奈くんが?という感想が一番最初に思い浮かんできた。


試合中は選手たちにあまり指示することもないし、積極的に絡んでくることがなかった。



この場面で伝令を使ってくるんだというのが素直な思いだった。




「東奈くんにそのまま伝えろって言われたから伝えるけど、次のバッターは桔梗だからそんなに緊張でガチガチで何も出来ないなら、豪快に三振して桔梗にあとをたくしたらどうだ?って…。」




「は?そんなこと言いに来たと?」




反射的に夏実にややギレ気味の口調で言い返してしまった。


本人からじゃなく、これを他人の口から言われたことで夏実に対しての恥ずかしさと、東奈くんへの怒りの感情が芽生えた。




「どうしても伝えろって言われて…。」




「はぁ…。ベンチに戻ったら東奈くんに見てろって言っとって!」




「わ、わかった。最後にだけど、次の1球見逃して、その次にくる変化球を狙って三振したら格好はつくと思うよって…。」





「はいはい!夏実も早くベンチにもどって!!」




三振の仕方までアドバイスしてきて、流石に頭にきたので夏実をベンチに追い返した。



夏実はかなりしょんぼりとした顔でベンチに戻っていった。


その顔を見て少しは冷静になった。


こんな指示を出したのは東奈くんで、夏実は東奈くんのいうことを断れないから上手く使われたんだと。



この試合が終わったら夏実には謝って、東奈くんは無視するか怒りをぶつけることにしよう。




打席に戻って監督のサインを確認した。


長々とサインは出ていたが、ここはノーサイン。


ヘルメットの鍔に触れ、了解のサインを送って打席に入る。



ベンチから目線を外そうとしたとき、東奈くんのニヤッとした顔が目の端に映った気がした。





『桔梗なら打ってくれるはず。やけど、東奈くんに舐められたままじゃ納得できん!』




打席に入っていつものように軽くバットを2回転させて、バットを構えた。



でも、ここまでストレートしか打席で見れていない。


なら次は何を狙う?

3球勝負なんてしてくる?



頭の中で色々と考えている内に、サイン交換が終わってピッチャーの足が上がっていた。




『1球見逃して、次の変化球で三振しろ。』





バシッ!




「ボール!ワンボールツーストライク!」




バッテリーは高めの手の出しやすい釣り球を投げてきた。


ストレート狙いならこのボールを無様に空振りしていただろう。




スリーバントで今の球をスクイズしろと言われても、きっちりと転がす自信はない。


それにしても、1球外してくることを東奈くんは投げる前から分かってたってこと?




監督はもちろん次もノーサイン。




東奈くんの怒りも、さっきまでのやばいほどの緊張も落ち着いてきた。


東奈くんはこのカウントからの変化球を三振しろって言ってきた。



それはボール球になる変化球を三振するってこと?

それともまだ1度も見ていない変化球を打てないって意味?




変化球って言っても、このピッチャーのカーブかスライダーどっちが来るかくらい教えてもらいたかった。



変化球が来ることは分かってるけど、どちらが来るかは分からないってことなんだろうか。




それくらい絞れないなんて東奈くんもまだまだだと毒づいた。



こうやって迷って、どちらかの変化球で三振する未来が見えてたのかもしれない。




『東奈くんが前言ってた、決め球は速い球であればあるほどいいって言ってたからスライダー一点狙いで打つ。』




もし、カーブか他のチェンジアップが来たら、東奈くんの言う通りに三振してやると高を括ることにした。





ー龍視点ー



凛は俺の方を見ない。


あんなことを他人から言われたら、恥ずかしさと怒りで少しはあの緊張感が解けると思っていた。




カウント1-2からの4球目。


打てるかどうかでいえば、あまり打てないような気がする。


相手の投手のことを見るというよりも、自分のことで精一杯な打者にアドバイスしたとはいえ、そう簡単に打てるものでもない。



それでもあの引くほどの負けず嫌いの凛ならと思って、夏実に嫌な役をやってもらって伝令に行ってもらった。




ここでピッチャーが投げてくるボールはカーブだと思っていた。


バッテリーの癖というよりも、この投手はコントロールに自信があってストレートで押すピッチングではなく、緩急を使いたいタイプだ。



凛が何を待っているかは分からないけど、ストレートが来たらその時は素直に謝って、変化球を打てなかったらこのことをネタして尻を叩くことにしよう。




4球目。



やや真ん中高めへのスピードを殺したボールが投げられた。



ここから大きな変化で落ちていく。

俺が思った通りカーブを投げてきた。




凛のタイミングの取り方が早い。

変化球を狙えって言ったが、スライダーに一点狙いにしたんだろう。



それでも変化球が来ることを分かっている凛は、そこからカーブを打つ為に踏み込んだ右足を開かずに体勢を残している。



見逃せばギリギリボールになりそうなカーブを、体の前で打ったというよりも払うように引っ張っていった。




ガキィン!




やや鈍い音をさせながら、少し力ない打球はライト線へ。



ライトの定位置まで飛べば、かのんがタッチアップ出来るかもしれないが、この打球だと流石に前過ぎた。




それをわかっていて、3塁ランナーコーチもかのもハーフウェイで打球の行方を確認していた。




「かのんっ!!タッチアップだっ!!」





俺は三塁のかのんへ大声で指示を飛ばした。


ベンチもランナーのかのんも驚いていたが、かのんは急いで三塁ベースへ戻ってタッチアップの構えをとった。




その間にも凛の打球はフラフラとライト線へ飛んでいた。


ライトは打球へ一直線に走っていた。




「タッチアップしてくるよ!」




俺はこの球場の誰にでも聞こえるくらいの大声でかのんに指示をした。


その声はもちろん相手の選手たちにも聞こえるし、かのんの様子を見ることの出来ないライトにセカンドやセンターが指示を出していた。




ライトはかのんが走ってくると分かれば、滑り込んで捕るのは避けてくるだろう。



ヘッドスライディングしても、足から滑り込んで捕ってもそこからから投げるのは至難の業だ。



ライトはグラブを下に向けて打球を捕球しに行く。


それと同時にいいスタートを切ろうとかのんが構える。





「かのん!走れぇ!!」




かのんはライトが捕球するタイミングと同時に、ホームへ一切よそ見をせずに一直線に走ってきた。



そのまま一直線に走ってきたかのんはホームへ滑り込んでいた。



かのんはいつまでも返球されてこないボールを探して、ライト方向を見ていた。




「やったあぁぁ!!!」




かのんの目に映っていたのはファーストベースを回って、両手で大喜びしていた凛の姿だった。



ライトは送球することを意識しすぎたのか、スライディングキャッチしに行かないといけない場面で滑り込まなかった。




俺がそこまで読み切って、大声を上げたと言われたらそんなことはない。



ただライトがスライディングキャッチしたら、かのんならホームに帰ってこれるという自信があった。




それがたまたまライトが滑り込まないという判断になっただけだ。



ベンチのみんなはそんなこと知る由もなくベンチを飛び出して、凛に大声で何か声をかけていた。



高校野球は礼に始まり、礼に終わる。


凛はチームメイトから手荒い祝福も少しだけ受けると、とても満足気な顔をしてホームへ整列していた。



嬉しさからなのか、みんなソワソワしているのがこちらにもよく伝わってきた。




「5-4で白星高校の勝利。礼!」



「「ありがとうございました!!」」



礼が終わり、こちらのベンチに戻って来る間に凛はさっきの手荒い祝福をまた受けていた。




「よくやったな。凛。」




こうして俺たち白星高校は凛のサヨナラヒットにより、3回戦を突破して九州大会への進出を決めた。





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