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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第4章 高校1年秋
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リベンジ戦③!




「夏実、東奈くんはなんて言ってた?」




「えっと…。」




「なにか龍に変な事に言われた?」




「うぅん。なんにも言われなかった。マウンドに行って雑談でもして来いってさ。」




「はぁ!?3回しかタイム取れないのにその1回をこんな時に使うとか!」




「愛衣ちゃん落ち着いて!独り言だと思うけど、絶対失点するって言ってたよ。」




「それってどういう意味なんだろ?私の投げる球がイマイチってこと?」




「海崎さんのボールが悪いとは思えないですけどね。龍がそういうなら私達になにか足りてないんじゃない?柳生のリードはどうなの?」




「私のリード?どうって言われてもね。」




「柳生のリードは悪くは無いと思うけど。強いて言うなら慎重すぎるかな。」




「かのんが思ったのはねー。この試合フライばっかり打たせるっぽいからー、犠牲フライ打たれるって言いたいんじゃないのー?」




「とりあえずワンアウト満塁だから、ゲッツー狙っていこう。」




「プリちゃんはなにか意見ないのー?」




「ぼ、ぼく?うぅーん…。変化球が多いような気がするかな。もっとストレートで押してもいいんじゃないのかな?」




「うーん…。」




「愛衣ちゃんが決めたらいいんじゃないの?もし、リードに問題があれば東奈くんが言ってくると思う。」




「とりあえず、東奈くんがなにも言ってこないってことは、任せるってことでしょ?柳生が言ってるようにゲッツーとろう。」




「「はいっ!」」




マウンドでなにやら話しているが、俺は何を話しているか分からない。


柳生がポジションに戻っている時に、俺の方をみて軽く睨んできていた。



桔梗やかのんや月成はあんまり気にする様子もなく、ポジションに戻って、前進守備を敷いている。




大湊先輩は外野にも指示を出していて、このピンチにもかなり落ち着いてるように見える。




「みんな東奈くんに対してちょっと怒ってたよ。何も伝えなかったけど大丈夫だったのー?」




「別に大丈夫だよー。ある程度の指示は監督出すし、ちょっと流れが悪そうだったから少し間を取ろうと思って。」




「それだったら、なにか応援の一言くらい…。」




「この場面は夏実はどうしたらいいと思う?」




「え?ゲッツーがいいよね?」




「そりゃ、ゲッツーが最高だけど、ここは三振を狙いに行くのが1番現実的だと思うけどね。一気に終わらせるのを狙いつつ、ツーアウトをとってしまえば、点が入る状況が減るからね。」




バッテリーはゴロを打たせようとして、低め低めに変化球中心に攻めている。



ファール、ボール、ファールの繰り返しで、カウントは2-2。



相手のバッターのファールが変わっていることに気がついてるだろうか?



最初はゴロのファール、次が3塁線へのライナー性のファール、今のが真後ろへのタイミングバッチリのファール。




タイミングが合っているとかではなく、打球が少しずつ上に上がってきている。



海崎先輩の変化球は確かにゴロを打たせやすいが、ここで犠牲フライが1番打ちやすい高めのストレートは効果的だ。




低め低めに集めるのもいいが、ど真ん中から下のストライクゾーンしか使えてないのは危険だ。



高めのボールは基本的にあまり使いたくないが、効果的に使えば高めのボールも武器になり得る。



変化球を高めに投げるのだけはよくないけど、ストレートを高めに投げるのは1番威力も出やすいし、かなり効果的だと思う。



ほかの指導者がなんというかは分からないが、高めが危険と言われるのは、日本の野球の幻想だと俺は思っている。



ただ、それは条件によると思う。



コントロールがいい投手か、空振り取れるストレートを投げられる投手じゃないと効果が薄いと思う。





パキィン!





「氷!!」




俺ならストレートを高めに要求したであろう場面で、バッテリーが勝負球に選んできたのは低めにストレートだった。




レフトよりの左中間への打球だが、氷の方が打球に近いはずなのに、センターの瀧上先輩の方が反応も早い。




氷は一生懸命に打球を追うが、これは追いつけるか微妙なラインだ。




「だぁーー!」




氷は頭から打球に飛び込むが、ボールまで50cmくらい届かなかった。



左中間真っ二つになるかという打球に、センターの瀧上先輩がスライディングをしてナイスキャッチ。




捕ってすぐに中継の大湊先輩に送球した。



一塁ランナーがホームを狙おうとしていたが、瀧上先輩のナイスカバーのお陰で、走者一掃だけは免れた。




だが、ツーアウト2.3塁のピンチは変わらないままだ。



2点追加されて、2-3と逆転されてしまった。




「氷はもうちょっと守備上手くならんとな。」




今のも、遠山先輩がレフトを守っていればギリギリに間に合っていただろう。



その代わりに今日はきっちりと打撃で活躍してるので、文句を言うつもりはない。




これでゲッツーをとれる場面ではなくなった。


今日は投手戦になるかと思ったが、シーソーゲームになるかもしれない。




試合には流れがある。

お互いに点が入らない時には、ランナーが出ても残塁することが多い。



お互いに、ヒットを10本打って1点の時もあれば、今日みたいにヒット5本くらいで2.3点入ることも多い。




今日は追いついて、追いつかれての流れが来ている。



これが続くかどうかは分からないが、今出てる2人のランナーを返されるとなるとちょっと厳しくなる。




カキィン!




3球目のカーブをレフト前に弾き返され、3塁ランナーは歩いてホームイン。


2塁ランナーは無理せず、3塁でストップした。



ワンアウト1.3塁で点差は2-4になった。




これで四球を挟んで3連打をくらった。



海崎先輩の球は悪くないということは、柳生のリードが読まれているのか、それとも俺が思ってるよりも竹葉の打撃がいいのか?




ここで2回タイムリーツーベースを打った右田さんが打席に入る。



さらに慎重になっているのか、ストレートとかカーブが低めに外れてツーボール。




「詩音!どんどん強気で勝負していけ!」




大湊先輩の檄がベンチまで聞こえてくる。

海崎先輩と柳生から少し動揺を感じ取れる。




「梨花、ちょっと早いけど準備してきて。」



「あいよー。」




ベンチで足を組んで堂々と座っている梨花に、投げる用意をさせにいった。


近くにいた七瀬と一緒に、外野のファールゾーンにあるブルペンに肩を作りに出た。





俺は海崎先輩にはもう少し投げてもらいたかった。


梨花に肩を作りに行かせたのは、ここから大崩れした時に交代させるためと、海崎先輩を奮い立たせるためだ。




マウンド上の海崎先輩は梨花がブルペンに出ていくのを睨んで見ていた。



このピンチの場面をもう1人の投手に丸投げするのは、海崎先輩的にも許せないだろうし、ここで奮い立って抑えてもらえないと話にならない。




「ストライク!」




この試合初めて柳生のサインに首を振ってインコースへストレート。



それを右田さんは派手に空振り。



続く4球目もアウトコースにズバッと決まるストレートで、2-2の平行カウントまで持っていった。




5球目は左バッターが1番打ちづらい背中からくるスライダーに、どうにかバットを当てようとするが、アウトコースに逃げていく球にバットが空を切った。




「ストライク!バッターアウト!」




球の質が変わったとは思えないが、なにか吹っ切れて強気の投球に変わった。



真っ向勝負と言うよりも、躱していくピッチングを海崎先輩自身が柳生に付き合うのをやめた。




バシッ!!




「ストライク!ストライクツー!」




ストレートを見逃させてワンストライクをとって、しかもコースはど真ん中に平然と投げてきて、空振りをとった。





「ふっ!!」





「ストライクッ!バッターアウト!チェンジ!!」




最後は下から浮き上がるようなストレートを高めに投げて空振り三振。



今のボールは相当力を入れて投げたみたいだ。


構えは低めだったが力んだのか、ボールが高めに浮いてしまっても、力のあるストレートでねじ伏せた。




「ふぅ…。どうにか最小失点で抑えられた。」




帽子を脱いで暑そうにしながら、タオルを受け取って俺の隣に座った。




「海崎先輩いいピッチングでしたよ。気合い入りました?」




「気合い?あー。西をプルペンに行かせたのってそういうことね。いいやり方だと思うよ?」




俺の事をやや上目で睨みつけてきていた。


可愛いといえば可愛いのだが、遠回しに嫌味を言われているのが残念だ。




「言いづらいんですけど、もし海崎先輩のところにチャンス回ってきたら交代になると思います。」




俺はさっき監督から海崎先輩のところに代打を出すと言われていた。


ゴネられると思ったので、先に説得するためにベンチに戻ってきた海崎先輩と話をすることにした。




「ふーん。そうだろうと思ってた。今日の調子なら仕方ないけど、チャンスじゃなかったらもう1イニング?」




「多分そうなると思います。チャンスで回ってこなかったら、1イニングといわず2イニング位はいって欲しいんですけど。」




「チャンスで回ってきて欲しくないって思う気持ちもあるけど、試合には勝たないとダメだし。」




案外あっさりと折れてくれて助かった。


野球人として負けず嫌いはかなり重要だが、1番大切なのは試合に勝つためにどれだけ自分の気持ちを割り切られるか。




ブンッ!!




グランドから豪快に空振りする音が聞こえる。


剣崎先輩からの攻撃で、初球を豪快に空振りしたようだ。


パワーは桔梗よりもあるし、体の強さでいうと最上さん以上のレベルはあるんだけど、海崎先輩がいつも言うゴリラっていうのも分からなくもない。




身長の高さ、体格はもうプロ野球選手レベルだし、これに野球の技術がそこそこのレベルつけば、もしかしたらプロになれる可能性はあると思う。



それくらいの素材はあるが、あんまり野球のセンスと野球脳が足りていないような気がする。



練習はちゃんとやっているが、本人は周りよりも野球が上手いと思っているので、がむしゃらに上手くなろうという姿勢もない。




それでも身体能力の高さでスタメンを勝ち取ってるし、それくらい野球の能力とは別のところで評価されるタイプもいる。



だからか、体が小さく必死に練習して会得したアンダースローの海崎先輩は、タイプの違う剣崎先輩が気に食わないんだろう。





ガギィィン!!




やや鈍い音と共にレフト方向へいい打球が飛んでいる。



角度、打球スピード共に完全に長打コースだ。


予め後ろに守っていたレフトが更にバックして打球を追いかける。





「やったーー!!!」




3塁側の誰かの一声を皮切りに、一気にベンチのメンバーが大盛り上がり。



剣崎先輩は右田さんの高めに浮いてきたストレートをフルスイング。



打球はギリギリフェンスを越えて、剣崎先輩にとっては嬉しい公式戦初ホームランになった。




「詩音、点取ってきてやったで。ちゃんと英雄を泣きながらお迎えせんかい!」




隣にいた海崎先輩は、目の前に立ち塞がる剣崎先輩の尻を蹴り飛ばした。



声はかけなかったが、普段仲良くない海崎先輩の精一杯の照れ隠しなんだろう。





「東奈、このチームの本当の4番は私じゃないんか?橘はまだまだやぞ?」




「そうですねー。次の打席もホームラン打ったら4番に推薦しますよ。」




「おっしゃ!このチームは私が引っ張ってるってのを、わからせたるわ!がはは!」




ホームランを打って上機嫌な剣崎先輩はベンチの2年生たちに絡んでいた。



ホームランを打って盛り上がっていたので、ウザ絡みしていてもみんな優しく接してあげていた。




さっきは4番を考えると言ったが、このチームで4番を打てる人は桔梗以外考えられない。



打率も残せるし、ホームランも打てる、安定感があって、威圧感がある選手は白星には桔梗一人しかいない。




ベンチが盛り上がっている中、6番の月成はいつの間にか四球を選んでファーストに走っていた。




ワンストライク取ってから、カーブ、スライダーでストライクを取れず、カットボールも際どいコースをことごとくボールと判断された。




瀧上先輩の打席だが、最近全然ヒットが出ておらず、打席に入ってもベンチの方をチラチラとずっとみている感じがする。



これは多分打つ自信があまりないんだろう。



ホームランで1点差になって、ここは送りバントのサインが出るんじゃないかと思って、こっちの方をチラチラとみている。




監督はノーサインだ。


この後の打者は柳生と海崎先輩であんまりヒットを期待できないので、バントよりもヒットでチャンスを広げる方を選んだのだろう。




ガキィン!





瀧上先輩は自信が無いまま、アウトコースのカットボールを初球からスイングしていった。




ファースト真正面のゴロになって、ファーストはボールを捕球すると、ゲッツーを狙って2塁へ送球した。



余裕のゲッツー。




かと思われたが、まさかの、ファーストの送球が大きく横に逸れた。


それをどうにかショートが飛びついて捕球できた。




セカンドはセーフで、ファーストにも送球出来ず、相手のエラーに救われてノーアウト1.2塁のチャンスとなった。



一塁上の瀧上先輩はホッした表情だ。

俺もベンチも全員がゲッツーだと思っていた。




8番の柳生は即バントの構えだ。


ノーアウト1.2塁のチャンスでゲッツーは相当勿体ない。



ここでワンアウト2.3塁には出来れば、

得点パターンも増えるから、ここはきっちりと送ってもらいたい。




キィン!




「ファール!!」




1球目高めのストレートをバントにしにいったが、3塁方向にややフライになってファールゾーンに落ちた。




フライにはなったが、打球の殺し方もバントの方向も悪くない。



1球ボール球のカーブを見逃して、3球目、高めのストレートを今度は上手くサード側にバント。




右田さんはダッシュしてボールをキャッチして、3塁へ投げようとしている。




「無理!ファースト!!」




投げても微妙なタイミングだったので、無理せずワンアウトを取りに行った。



次の打者は海崎先輩で、打撃が良くないことを多分見抜かれている。




「審判!代打、遠山で。」




「苺!私の代わりに出るんだから打ってきてよ。」




「うん。」




ベンチから大きな声で海崎先輩が声をかけるが、遠山先輩は軽く頷くだけで、右打席に入っていった。




遠山先輩は本当に目立たないし、どこかのグループに入ってる訳でもない。


けど、チームメイトの誰にも嫌われてもいないし、2年生達はみんな遠山先輩のことが好きなようだ。




「ファール!!」




初球のストレートと2球目のカットボールを連続でスイングしていくが、ファールになる。



タイミングは少しあっていないが、ボール自体はしっかりと見えている。



ここは1番は長打が欲しいけど、ボテボテの内野ゴロだと、月成の足の速さだとかなり微妙のタイミングになりそうだ。



外野の定位置辺りに外野フライを打てれば、月成ならホームに戻ってこれるだろうが…。




続く3球目は遠山先輩が仰け反って避けるようなインコースのストレート。



1度打席を外して軽くスイングして、気持ちを切り替えて打席に入る。




二ノ宮さんはアウトコースに構えている。


さっきのインコースのストレートをフラッシュボールにして、アウトコースの球に踏み込みづらい配球をしてきた。




遠山先輩の強みは、何を考えているか分からないところにある。



普通の選手ならかなり厳しいインコースの、次のアウトコースのボールには踏み込むのは難しい。




それをお構いなく、アウトコースのボールに踏み込んでスイングしていった。



打球はセンター方向へいい当たりが飛ぶ。



センターがバックした瞬間、俺はタッチアップで1点入ったと確信した。




遠山先輩は打球を見ながらも次の塁を狙って走っている。


センターは結構深くまでバックして、落下地点に入る。



捕った瞬間に3塁ランナーの月成がスタートを切った。


センターは間に合わないと思い、急いで中継にボールを返すのでやっとだった。




2塁ランナーの瀧上先輩も足は速い方なので、しっかりとタッチアップして3塁へ到達した。





「遠山先輩ナイス犠牲フライです!」


「最高の仕事ナイスです!」




やはりこの試合はシーソーゲームなんだろう。


4-2から4-4へとあっさりと追いついた。



まだツーアウト3塁で、この試合2打数2安打の1番のかのんに打席が回ってきた。




「きたーーー!!!」




カキィィーン!




アウトコースのカットボールをフルスイングしながら、レフト方向へ流し打ち。



かなり鋭い当たりがラインドライブしながら、レフトのファールゾーンの方へ曲がっていく。




レフトはいい反応見せて、自分から曲がりながら遠ざかっていくボールに、最短とはいえないがいい追い方をしている。




レフトは精一杯手を伸ばして打球を捕り行く。





「お、よく捕ったな。」




レフトはグラブの先でどうにかボールを引っ掛けた。



捕った瞬間、体勢を崩してその場に激しく転んだ。




「おーー!ナイスキャッチー!美咲ー。グラブ持ってきてー。」



一塁を回って、そのままセカンドの守備位置にいち早く移動していたかのんが、レフトに対して拍手してプレーを褒め称えていた。



これには竹葉の選手たちも少しだけ驚いていた。


驚いてるというよりも、どちらかというと困惑してるような気がする。




「美咲、かのんにグラブと帽子持ってあげていってあげて。」




「はいはーい。」




美咲はセカンドの守備位置で待っているかのんの元に走って行った。



いまさっきのかのんの打球が抜けていれば、1点勝ち越して更にかのんは3塁まで行ってた可能性が高い。



白星は同点に追いついたとはいえ、今のプレーはかなり痛いプレーになった。





「西、悪いけど後はよろしく。」




「はい。分かりました。」




海崎先輩は次にマウンドに上がる梨花に一応声をかけた。


梨花は先輩にはしっかりと敬語を使うが、先輩にも素っ気ない態度で返事をして、ゆっくりとマウンドに走っていった。




梨花は謹慎空けてから、練習試合ではほとんど失点せずに調子がいいまま、秋季大会に臨んできた。





「選手交代のお知らせをします。遠山苺さんに代わりまして、9番ピッチャー西梨花さん、背番号19。」




「梨花さーん!!謹慎組として頑張るッスー!!」


「西さん!頑張っていこう!!」




スタンドから雪山があんまり言わない方がいいことを大声で叫んでいた。


この声の大きさなら多分梨花にも聞こえるだろう。





「はぁ……。アイツ後で殴っておくか。」




雪山は後で殴られることを知らず、梨花のことを一生懸命応援していた。



梨花は相変わらず公式戦でも後ろに帽子を被って、綺麗な茶色の長い襟足を1本に結んで、野球選手というよりもオシャレなモデルが始球式に来たようにも見える。




だが、1年生とは思えないくらいの速いストレートとキレのいいスプリットを投げられる。





「ストライク!バッターアウト!!」




4回裏。



9.1.2の攻撃だったが、梨花のストレート押しの投球に全然ついて来れなかった。



アンダースローの海崎先輩が放つ下からの軌道のストレートと、梨花の投げるストレートとでは平均で20km/h違うので、竹葉はそのスピード差に苦戦していた。




内野ゴロ2つと空振り三振を奪って、白星はこの試合初めての三者凡退で4回を終わらせた。




「ふー。」




大きく息を吐きながら梨花がベンチに戻ってきた。




「ナイスピッチ。」




「あんがと。にしても、やっぱり海崎先輩の後に投げんのは楽じゃわ。タイプが違いすぎて、相手が慣れるまでにさっさと抑えていいだけじゃし。」




「たしかにね。けど、梨花が先発した時にも海崎先輩が次に投げる時は有利に働くと思うけどね。」




「そうかもな。他になにか気をつけるとことかあるか?」




「わかってると思うけど、次の5回を乗り越えれば大分楽になると思う。次の回は本気で投げて、きっちりと抑えてきて。」




「オッケー。時任もキャプテンも初球打ちであっさりツーアウトだし、さっさと用意してくるわ。」




氷と大湊先輩は2球でツーアウトを取られた。



それを見て、腰をかけてからほとんど時間が経っていないが、すぐに立ち上がって次の回の用意を始めた。



氷はピッチャーゴロ、大湊先輩はファーストゴロに倒れた。


今日、右田さんのボールを引っ掛けて捉えてはいるが、ヒットが出ていない桔梗に打席に回ってきた。





「桔梗、ここは1発狙っていけー!」




「……こく。」




俺は打席に入る桔梗に声をかけると、一瞬こちらを見て帽子のつばを触り、了解の合図を送ってきた。



桔梗がホームランを狙うなら間違いなくストレート。



まずアウトコース中心に勝負してくるだろうけど、勝負に来たインコースや高めのボールを狙えばホームランは打てる可能性はある。





初球。



ややアウトコース気味の低めのストレートを強振していった。



まさか桔梗までが初球から打ちに行くとは思わなかった。



これでアウトになれば、うちの攻撃は3分くらいで終了する。



打球は無理矢理引っ張ったせいなのか、やや伸びが足りない感じがするが…?





「入っちゃえー!!」


「いけいけー!!」




届くか届かないかの打球を、3塁側の全員が祈りながらボールの行方だけを見ていた。





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