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元天才選手の俺が女子高校野球部のコーチに!  作者: 柚沙
第3章 高校1年夏
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いざ長崎へ!



「「5日間よろしくお願いしまーす!!」」




「よくいらっしゃいました。私が友愛の監督の高波真穂(たかなみまほ)と言います。こちらこそよろしくお願い致しますね。うちの子たちと仲良くやってくれるととても嬉しいです。」




高波真穂監督。


天見監督の2個上ということは26歳ということだが、お淑やかでとても綺麗な長い黒髪で大人の女性という感じの人だ。



この人が元投手で超打撃型の変わったチームを作ってるとは中々思えないが、人は外見によらないのだろう。




「先輩お久しぶりです。うちの子達もまだ結果は出てないですが、きっと近いうちにいい結果を出せると信じてるので全力でよろしくお願いしますね?」




「香織ちゃん去年ぶりね。夏は残念だったみたいだけど、プレーは見てないけど結構良さそうな子もいるし期待してるわよ?」




2人は仲良さそうに見えたが、やはり監督同士で目から火花が見えるくらいには負けたくないという気持ちがありそうだ。




「おいーす!俺がこのチームのキャプテンの最上千鶴(もがみちづる)さね。よろしくな。」




「白星高校キャプテンの大湊聖です。こちらこそ5日間よろしくお願います!」




そう言い合うとお互いがっちりと握手をした。


大湊先輩も身長160ちょっとあるが、相手のキャプテンは175くらいはありそうで、うちの剣崎先輩と同じ臭いのする熱血そうで鍛えられた身体の持ち主だ。




「敬語とか使わんでいいばい。大湊さんは2年やろ?俺は1年でキャプテンしよーし、敬語使うのも使われるのもむず痒くなるけん、そこんとこよろしく頼むばい。」




年上とわかってて最初からタメ口で、これにはいつもしっかりとしている大湊先輩も少し面食らった様子だ。




「そうそう。後、俺は両性愛者なんさね。惚れられたくないなら馴れ馴れしくせん方がいいばい?がははは!!」




なんとも普通は隠したいことも恥ずかしがる様子もなく簡単に言ってのけている。

流石のこの豪快さには剣崎先輩に慣れている2年生でも頭の処理が追いついてないみたいだ。




「長崎の剛健児の最上さん。俺は白星のコーチしてる東奈龍。俺は君のことを中学の映像で見て凄い興味があってね。いい合宿になるといいね。」




「ほー。お前がコーチの東奈か。同じ歳の女子野球部のコーチする男なんてやわな奴と思ってたんやが、よか男で安心さね。まぁ、俺とばかり話しても仕方ないけ、皆の待ってる食堂についてこんね。」




男らしいという意味で使われる剛健という言葉がピッタリな女性だ。


何事にも物怖じしないであろう強さを感じられるし、相手を見下したりしない器の広ささえ感じられる。




「「よろしくお願いしまーす!!」」




食堂に入ると気合いの入った声で30人くらいの部員が俺たちを迎えてくれた。


パッと見てすぐに思ったのが、みんな思ったよりも身体を鍛えまくっている訳では無さそうだ。


バットスイングには腕の力があればスイングが早いという訳では無いし、多分ユニホームの下は鍛えられてる体幹とかボールを遠くに飛ばす能力を持っているのだろう。




「副キャプテンの青柳(あおやなぎ)美知(みち)です。うちのキャプテンが失礼してないですか?あの子が俺がキャプテンじゃないとこのチームはダメだって言い張って1年生でキャプテンになったんですよ。」




俺たちの前に現れたのはやや肉付きのいい感じの165cmくらいの2年生が少しだけ気まずそうに挨拶してくれた。


元々キャプテンをやる予定なのだったかは分からないが、少しだけ気が弱そうな感じがするから1年生でも最上さんかキャプテンでよかったかもしれない。




交友の為に時間を取ってくれているみたいだ。

最初はみんな気まずそうにしていたが、ここでもそういう雰囲気を壊したのは彼女だった。



「よぉ。九州の天才スラッガーの橘やろ?監督から白星には凄いバッターがいるっち言ってたさね。後ろの方で大人しくしてたからって気づかんって思った?」




「剛健の最上さん。龍から中学校の時に映像見せてもらったから知ってる。中学生であのホームランは凄かった。」




「俺は映像とかは見んから今日からの練習で九州最強のバッターの力見て貰うばい。直接見んと本物かどうかわからんやろ?」




彼女は同じスラッガーの桔梗に興味津々なようだ。


どちらかと言えば端っこにいる桔梗に周りの目も気にせず、ずかずかと話に行ったの見て社交性のある他メンバー達は話しかけに行ったりしていた。




俺も友愛のメンバーで俺の方をちらちら見ている人達にちょっとずつ挨拶をした。


向こうのメンバーは思ったよりは引っ込み思案というか、あの試合内容とプレーとは少しギャップを感じたが、彼女たちは女の子でそれが普通だと思えるようになるのは少し経ってからだった。




「はろはろー。君が東奈選手の弟さん?似てるって聞いてたけど似てるね!あ!うちの名前は一ノ瀬彩(いちのせあや)。1年エースとでも言っておこう!」




そう言いながら気さくに話しかけてきたのは自称1年エースの一ノ瀬さんだ。


彼女の事はほとんど知らなかったが、2回戦と3回戦で最終回に点差がある場面で投げていた。



これといってあんまり特徴という特徴があった記憶はないが、どちらも四死球もなくヒットも打たれていなかったと思う。




「よろしくね。一ノ瀬さんは自称エース?それとも本当にエース?」




「たぁー!自称ってバレちゃったかー。けど、試合では投げると思うから中継ぎのエース、抑えのエースって可能性もあるよね…?ならうちはエースで間違いない!」




ポジティブなのか少しだけお馬鹿さんなのか分からないが、俺から見て裏表が一切見えなかったので彼女は悪い人では無さそうだ。




「もう少しだけ自己紹介していいかなぁ?」




「一ノ瀬さんはよく喋るんやね。凛達も挨拶してないのにせっかちすぎると思うんやけど?」




「あー!ごめん!誰の話も聞いてないのにベラベラ喋っちゃった!うちはね…。」



こちらの自己紹介を聞くと思いきや、全く話を理解していないのか自分の自己紹介の続きを聞く羽目になった。



お互いのことを知ろうと話に割って入ってきた凛の意見も虚しく、こちら側の1年生は大人しくしていた。




「初見殺しの彩ちゃんって異名があるだよー?初打席なら絶対打たれない自信あるもんねー。え?どんな球かしりたいって?それは対戦した時のお・た・の・し・み♡」




俺たちは更に五分くらい話を聞いた後に自己紹介をしたが、彼女は元気よくよろしくと言っていたけど、多分俺以外の子達はまた後で自己紹介をしないといけなくなりそうだ。




「それじゃ交友も済んだみたいだし、早速軽く練習開始してみましょうか。」




高浪監督がみんなに一言かけると選手たちはすぐに席を立ってグランドへ向かった。


野球場はグランドというよりは多目的グランドみたいな感じで、かなり広く2面使って丁度いい感じの大きさだ。




今日はこちらが長崎に来たということで、初日は向こうが練習内容を決めているみたいで今日のところは向こうの練習に合わせるしかなさそうだ。




「今から2面を使って練習を開始します。こちらではバンド練習を行います。みっちり2時間以上はバント練習をやってもらいます。片方の練習場ではシートノックをやってもらいます。ノッカーは東奈コーチにやってもらうので厳しくノック打ってあげてくださいね。」




「はい。しっかりと練習になるノックを打ちます。」




それにしてもバント練習なのか。

打撃練習かと思ったが、バント練習というのも別に変な練習でもないし、一切試合でバントしないチームがバント練習を長くやるというのに少し驚いただけだ。




「バント練習は基本中の基本中だから疎かにしたらダメですよ。いつでもどの場面でもバント出来るからこそ強打出来るんです。いざとなれば100%バント成功すると思えば気持ちも楽になりますし、そもそもバントが成功しないようであればヒットを打つのも難しいと思いますけどね。」




高浪監督の言ってることも一理ある。


止めたバットに自分の好きな目線でバントできるのに練習で平気で失敗してたら、目線が高くなって更に飛ばす為にスイングをする。



バントが出来なくてボールを打つ能力のある人は苦手という意識があるか、ただ単にバントのことを理解せずにバットに当てて転がせばいいと思っているかのどちらかだろう。


俺も中学の時7割以上打っていて、試合でバントしたこともないけどバントはかなり得意だ。


家で打撃練習する前にボールをしっかりと見て、球が出た瞬間にそのボールの軌道を頭の中でイメージして、ボールが通過するであろう位置にバットを置くという感じだ。




バントはボールの勢いを殺す為に芯から外してバントする。

あまりに殺しすぎるとキャッチャー前に転がってゲッツーの可能性も出てくるし、強すぎれば内野手か投手がチャージしてきて2塁で殺される可能性もある。




だからこそ、丁度いいところに丁度いい強さで転がさないといけないのがバントだ。

それが当たり前のように出来るのであれば、打つ方もある程度は期待できるという理論は間違えではない。




「とりあえず1年生は東奈コーチについて行って、練習指示を貰ってちゃんと練習してくださいね。特にうちの子達は言うことちゃんと聞かないと厳しい指導しますからね。」




そう優しくみんなを諭すように言うと友愛の1年生の緊張感が張りつめた。1人を除いて。

多分この学校伝統のしごきに近い厳しい練習が待っているのだろう。




「分かっちょる。監督そんなに心配せんでも手抜いてやったらどげんなるか俺が教えるさね。」




その言葉を最上さんから聞いて安心したような表情で俺たちを対角線のグランドの方に送り出した。



俺はこういうことをやると聞いていなかったので、練習メニューとか考えていなかったし、向こうが徹底的にバント練習しているのに、こちらは守備練習と言われたが、そもそも守備練習と言ってもどれくらいやればいいのだろうか。


シートノックは分かるが、友愛の1年のレベルを知るための練習なのか実践的な練習をした方がいいのか。





「とりあえずこちらのグランドに来たのはいいけど、こっちの監督もそっちの監督もいないし、どうしようかね?」




「おいおい。コーチならしっかりせんね。」




「よし、ならうちの白星と友愛で2人2人で4人チーム作って。とりあえずボール回ししてタイムとか精度とかみたいから。外野手は外野手でチーム組んでね。」




みんな少しだけギクシャクはしていたが、何とか4人チームができたみたいだ。


ボール回しという内野の軽いキャッチボールと思ってみんな少し気を抜いてるみたいだが、何人がこれから俺の言うことが出来るだろうか。




「このボール回しだけど、満塁の想定でボール回しをしてもらうからね。俺が回す方向を指示するからそれの通りにボール回しをしてタッチプレーならタッチをしっかりとして次の塁に投げてね。フォースプレーならしっかりとベースを踏んで、ランナーがいると仮定してしっかりと左右どちらかに避けてね。」




俺がそう言うとみんな少しだけ困惑した様子で各ベースに散らばっていった。


俺はホームに残った子達にボールを渡して順番がきたら、ホームベースの所にいけば同じチームの子達が各ベースにつくという感じだ。




「はーい。最初は4-3-2-1」




1は一塁、2は二塁、3は三塁、4はホームで基本的に投げる番号をいえばみんな大体は分かるから大丈夫だろうが…。




柳生からスタートして三塁には最上さん、二塁には友愛の選手で一塁には桔梗のいわゆるレギュラー組っぽいところからスタートさせた。




「サード、セカンドね!」




柳生はさっき言われた通りに、自分が起点でもホームからサードに投げる時にランナーが来てると仮定して少しだけ内側に入って三塁へ送球。





「うしっ!セカンド!」




最上さんは柳生からのストライク送球を体には似合わない華麗な動きと、地肩の強さがわかる早い送球を二塁へ送った。




「はいっ!ファースト!」




二塁の友愛の1年生も身体は少し小さいが、捕ってから投げるまでが素早くランナーが来てるイメージもしっかりしてそうで流れるように桔梗へ送球。




桔梗はファーストベースを踏みながらいつものようにキャッチして、すかさずホームへ送球しようとする少し前に俺は次の指示を出した。




「はい!逆ー!」




この場合4-1-2-3。




桔梗はホームへ送球して、柳生はホームを踏みつつキャッチして桔梗へ投げ返した。

桔梗はファーストはタッチプレーになることはないのて同じくファーストベースを踏みながら捕って、セカンドへ少し位置を変えて送球。




セカンドは次はフォースプレーではなく、タッチプレーに変わっているのでここはタッチしないといけない。




ここもなんなくタッチしてサードへ送球。

セカンドの選手が送球する少し前に次の指示を出した。

ここで落ち着かないといけないのは、指示を出してもタッチプレーが無くなることはない。



「1-4-2-3!」




最上さんはしっかりとタッチプレーを忘れずにした後すぐにファーストへ強い送球をしたが、その送球がややショートバウンド気味に。




「やばっ!」




ちょっとやっちまったという感じの最上さんのことを気にもせずにショートバウンドを上手いハンドリングでキャッチして、ベースを踏んでホームへ送球。



ホームはタッチプレーで、タッチしてから二塁へ送球。

そこからまた難なくサードまで来た時に次の指示。




「はい!逆!」




1-2-3-4から4-3-2-1の逆はあるが、1-4-2-3の逆にしっかりと対応できるだろうか。



「タッチしてから…。ベース踏んでセカンドか!」




タッチした後に、初めからというのに気がついてすぐベースを踏んでセカンドへ送球。

セカンドはいないランナーへタッチをしてホームへ送球した。





「はい!終わり!セカンドはまだサードベース踏んだだけだからフォースプレーだから、セカンドベース踏んでホームへ送球だったね。」




「あっ!そうやった!ごめんなさい…。」




「いや、1番最初で4週目まではよくやってるから大丈夫。それじゃ次!」



1番最初は緊張もするし、お手本になるから簡単なボール回しからやったが次からは難し目のボール回しをやってもらうことにした。






「はい!終了!プレー中に考えてプレーを一旦止めるとかは1番良くないよ!」



なんだかんだ1番最初にやった桔梗たちが1番スムーズにボール回しをしていた。

さすがに初心者達がいるところは一周で終了したところもあったり、外野手は外野手で慣れてないというのがよくわかった。




「んー。こんなもんと言われればこんなもんかな?」




みんなを集めての第一声は少しだけ煽ってるように聞こえる言葉を選んだ。

みんなはそれを聞いてムッとするかと思ったが、ボール回しで頭の中でしっかりとランナーを入れてプレーする難しさがわかったようだ。




「すまん!実際ランナーがいればタッチとかフォースプレーとかわかるとやけど、いないと案外分からん。」




「最上さんの言いたいこともよく分かる。けどね、練習でこれくらい出来るようにならないと、試合となると相手が変わった作戦で色んな走塁をしてくることがある。頭の中でランナーの動きをいつも想像出来れば、現実に変なことが起こっても対応できるから。」





みんな俺の話をかなり注目して聞いている。

いつもの子達だけなら慣れたものだが、さらに人数が倍になると照れや恥ずかしさも少しは出てくる。




「まぁ、例えばだけど投球練習の後のボール回し俺が入るからちょっとマウンドから投げてもらえる?」



そう言うとすぐにうちのメンバーがポジションについてくれた。

梨花が軽く俺にボールを放ると俺はホームベースからセカンドに矢のような送球で行った。



セカンドについていたかのんはそのボールを捕るといつものようにランナーにタッチして、サードにボールを投げて、サードはショートに投げて次はセカンド、ファーストから最後に投手という感じでボール回しをした。




そのボール回しに何かおかしいところがあったかといえばない。



「もう1回やるから俺に投げて。」




梨花はさっきと同じようにボールを俺に投げて俺は次はあえてかのんが取れるくらいの悪送球を投げてみた。


かのんはしっかりと捕ってセカンドベースに少し戻ってタッチしてサードに投げて、さっきと同じようにボール回しをした。




「今のだけど、何が違うかっていえば俺がいい送球を投げたか投げてないかだと思う。他になにか気づいたことない?」




「わかんない!」




そう言ったのは天然であろう自称エースの一ノ瀬さんと白星のお馬鹿担当の雪山だった。



「かのん様が教えてあげよう!そもそもあんなに悪送球したのにタッチしに行く必要ないんじゃないかな?もしサードランナーいたらまずそっちを警戒しないと行けないんじゃないかなー?」




「かのんが言ってることが正解だけど、一回目の送球は俺が投げられる送球で最高の球だった。それをあっさりタッチしてたけど、みんなはどんなランナーイメージしてるかは分からないけど、あれはランナーを待ってタッチするくらいのタイミングだったと思う。」




あんまりピンと来ていない子もいればすぐにピンと来ている子もいる。



こればかりは考えた方の違いとか色々とあるからなんとも言えないところではあるし、今の問題に関しては別にわからなくても問題ない。



「まぁちょっと難しかったかもしれないけど、言いたいことはランナータイミング的に滑り込んで来ずに戻る可能性も考慮して欲しかったってだけだよ。盗塁って言ってもランナーが帰塁することだって考えられるよね?」



そこまでいうと分からない顔をしていた選手たちもハッとした表情で頷いている。



気づくのが遅かった選手は鈍感で意識が低いからダメかと言えばそういう話でもない。


気づいたのが練習で逆によかった。

元々練習はそのためにあるもので、選手たちの価値を決めるものでは無い。



気づいてこれから更に上手くなっていけば今日気づけなかったことがいずれ生きたという証にもなるだろう。



みんな頑張ってるからこそ等しく大切なことを教える。

そこからどのようにして練習していくのかとか、どんなプレイヤーになりたいとかはその選手次第なのだ。




「まぁ毎回毎回それを意識し続けてどんな時も練習しろとは流石に言えないよ?俺だってそんなことを思って練習してたのは気合いの乗ってる日とか、調子のいい日とかはそこまで意識してやると1回の練習で大きく伸びることだってあるからね。」





「「はいっ!!」」




俺はこの後イメージがつきやすいようにボール回し以外の選手はランナーとして走ってもらうことにした。


ヘルメットをしないといけないのだが、1番はイメージの為ということでランナーもスライディングはするが手前で止まるくらいでスライディングしてもらい、ボール回ししてる選手もしっかりとランナーを避けて次の塁へ投げるというのを繰り返した。




ボール回しもランナー付きでやるとランナー側も上手くタッチをかわそうとしたりしている。




「ボール回しがメインなんやから、ランナーが工夫せんでもいいんやないんか?」




「うっさいわ!いつも偉そうにしてくる千鶴に野球でやり返しとるだけさ!」




さっきから少し変わったプレーをし始めたのは友愛の方だ。

スライディングしてタッチしてを繰り返してきたが、タッチを拒否するためにスライディングせずに帰塁しようとしたりして仲間を困らせようとしている。




「ならみんな好きに走塁していいからヘルメットはしっかり被ってね?挟殺プレーしてもいいからね。」





「「はーい!」」




ボール回しからランナーを挟んだりするプレーに変わって守備練習がノックという打球処理よりも、連携プレーと走塁練習になったがみんな楽しそうに交友しながら練習を行った。





「午前中の守備、走塁練習は終了!午後は向こうでバント練習らしいからしっかりとバントも練習してきてね。」




「「お疲れ様でしたー!!」」





午後からの練習は2年生達を指導しようとノックを打とうと思っていたが、1年生達がやってたやつがいいと2年生に強く推されたので、同じことをやらせて同じように話をしたがメンバーが変わっただけでほとんど同じような反応と練習になってしまった。



とりあえず一日目は何事もなく、バント練習をしていた天見監督たちに一応こちらが楽しそうにキャーキャー言いながら練習してたので事情聴取されたが、しっかりと説明したら逆に感心されたのでよかったのだろう。




選手たちは合宿所に相当な広さの大部屋があるみたいで、全員がそこで寝るという合宿ならではの楽しみがあるみたいだ。


もちろん俺は小さな一人部屋みたいなところで寝泊まりする訳だが、選手のときは遠征に行くと相部屋だったからこうやって1人でゴロゴロしてるのが新鮮だった。




「中学のチームメイトはどの高校に行ったんだろうか…。」




俺たちは最強のチームと呼ばれるくらい強くて2年時はほぼ負けなしで圧倒してきた。


俺が抜けてからキャッチャーは控えのあいつがしてるだろうが、俺が抜けても変わらず最強のチームだったんだろうかと今になって思うようになった。



やめてからチームのことを調べたこともなかったし、やめた後のことを知るのも少し怖かったのだ。


同じ中学にチームメイトもいたが、俺が辞めてから俺の事を完全に無視するようになったので話したくても話せる状況でもなかった。



もしかしたら、俺のプレーを見るために通っていた月成なら何か知ってるかもしれないが、やめた後に何回か見に来て居なくなったと知ってから、球場にも行ってないだろうから詳しいことは分からないかもしれない。




「今更知ってどうすることも出来ないのに何考えてんだろ。」




あの後大変なことになっていたと知って俺に今何が出来るというのか。


過去には戻れないし、戻ってもそれを助けに行くくらいなら俺はきっと野球を辞めたりしていない。




「疲れてるのだろうか。もう寝よう…。」



そこそこ独り言の多い俺でも今日は多すぎると自分でも気がついたし、ネガティブなイメージとかが払拭出来なかった。



今更になってなぜそんなことを思い出したのか分からないままいつもよりだいぶ早く寝てしまうのであった。






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