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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

子牛のワルツ

作者: 伊藤@

 八歳の時、この世界へ迷いこんだ、僕を助けてくれたのはミノタウロスの女の子。







「ねぇ?どうしたの?泣いてるの?」


 肩に置かれた小さな手から、ふんわりと暖かい何かが体を包む。

 ここがどこなのかもわからず、心細くて泣いてた僕は顔を上げる。


 傍にしゃがむ茶色の子牛。


「え!」

「ん?」


 子牛?

 なんで牛がしゃべるの?

 これは夢なの?頭の中を色々な言葉が駆け巡る。

 でも、つぶらな瞳で心配そうに僕をみてくれた、今まで誰にもこんなに優しい瞳で見てもらったことはない。

 あれ?前ってどんなだったっけ、頭の中がふんわりする。

 

「迷子になったみたい」

「え!お父さんとお母さんはどこ?」

「分かんない・・・・」

「なら!お父さんとお母さんが見つかるまでお家おいでよ」

「いいの?」

「勿論だよ!おいで!あたしはミノ」

「僕はひろ、ありがとうミノちゃん」


 にこっと笑いかけると、子牛のミノちゃんは茶色の毛皮で顔色もわからなそうなのにみるみる真っ赤になる。

 二足歩行の子牛は、可愛いワンピースを着ている。

 よくよくみれば上半身は子供の体で、頭部と下半身は子牛だった。ミノちゃんの体を覆う滑らかで柔らかい茶色の毛はまるでベルベットのよう。

 ミノちゃんが僕の手を握ってくれた、手の甲には毛が生えていたけど、手のひらには毛が生えていなかった。

 不思議だなぁって呑気に思う。

 歩いていたらミノちゃんが聞いてきた。


「ひろご飯食べてる?なんか手とか指とか細いよ?」

「食べてると思う」

「本当?」

「…あんまり覚えてない」


 ミノちゃんが立ち止まり僕を見る。

 前の事はボンヤリとしか思い出せない。

 それでも、住んでいたのは日本だったとか、車が沢山あったとか、テレビからは映像や音が流れるなんて断片的な事は色々覚えているのに、誰といたとかは辛くて苦しくて怖くて悲しいって気持ちしか思い出せない。


「そっか、ならミノの母さんにご飯作って貰うから一緒に食べよう」

「いいの?」

「勿論だよ!」


 さっきよりも、ぎゅって握ってきたミノちゃん。

 

 あの日、僕はミノちゃんに助けられた。



 □□□□



 あれから10年経ち18になった。

 ここの世界は15歳で成人になる、なので3年前に師匠から譲りうけた庵で独り暮らしをしている。


「ひろー」


 ミノちゃんが笑顔で駆けてくる、今日も可愛い。


「おはよう、ミノちゃん」


 笑顔で返事をすると、ミノちゃんはいつものように赤くなる。

 なんて可愛いんだろう。


「お、おはよう、朝ご飯出来てるって母さんが」

「ありがとう、すぐ行く」


 先に戻ってるねと、ミノちゃんは来た小道を戻ってゆく。

 何枚かある依頼書の内容を確認をして今日の仕事の段取りをある程度つける、荷袋の中身をチェックしてからミノちゃんの家に跳ぶ。


 文字通り『跳ぶ』これは、渡り人である自分の能力。


 この世界には色々な種族が迷い渡ってくる、その度にどこの世界のなんとか生き物と呼ぶのは面倒なので、総じて『渡り人』とか『渡りもの』と呼ばれる。


 この世界には魔法とスキルがある、魔法が車の運転のように生まれた後から覚えて使う事が出来るもの。

 スキルは、この世界の人は殆ど持ってない、持ってる人もいるけどかなり少ない、一番の違いは後から覚える事も出来ない生まれ持った固有のものということ。


 渡り人には固定スキルが必ず付与されるので、この世界で渡り人は歓迎されている。

 自分の『跳ぶ』かなり応用が効くから気に入っている。


 僕は配達人だ、色々な物を運んでいる。


 今日も仕事を終えてギルドに報告を済ませていると、横に知らない少女が立っていた。


「あの、ひろくん!良かったらご飯食べにいきませんか!」

「…誰?」


 その子は目をぱちぱちさせて、私の事を知らないの?って間抜け顔してる。

 知るわけないじゃん、気持ち悪い奴。


「えっとぉー私ノリコ!ひろくんと同じ渡り人なの!」

「ふーん、で?」

「え?!あ、あの同じ落ち人だもん仲良くしようよ!」

「あぁそうゆうの?俺、向こうの世界に未練も興味もないから」


 なんだこれ…面倒臭いのに絡まれたな。

 早くミノちゃんに会いたくてイライラしてきた。

 僕の負の気配を察した、顔見知りの冒険者が声をかけてきた。


「ノリコちゃんだっけ?」

「はい!」

「こいつに粉かけても無駄だぜ?」

「え?そんな!粉とかかけてるわけじゃないですぅ!」

「こいつは惚れてる女がいるので有名なんだぜ」

「え?」

「だから、こんな奴やめて俺らとメシ食べようぜ~」

「え?!ちょっ」

「はい、はい、こっち~!」


 無理矢理少女の肩を抱いて離れてゆく、顔見知りの冒険者が振り返ったので小声で助かったと言うと、貸しだかんなーと明るくいいながら奥へ消えていった。


 周りの奴等がふぅーと息を吐く。

 命知らずとか、危険行為しやがってなんて囁かれてるけど、ミノちゃんで頭がいっぱいの僕には聞こえない。

 

 あぁ、世界がミノちゃんだけならいいのになぁ。


 って前ミノちゃんに言ったら怒られた。

 私のお父さんもお母さんもおじさんもおばさんも姪っこも近所の仲良しのりーちゃんも他にもいっぱいいっぱい大切な世界を壊すようなことしないでって。

 うん、ミノちゃんが悲しむ事はしない。


 さ、報告もしたし、明日の依頼も受け取ったから帰るか。




 □□□□




「ねぇってば!」

「わたし?」

「さっきから呼んでるじゃん、聞こえないの?牛女!」

「えーと、どなた?」

「あたしぃ?ひろくんの彼女でノリコ」

「…はぁ」


 買い物に来た店の前、道の往来でいきなり呼び止められてしまった。

 目がいっちゃってて、思い込み激しそうな人。


「えーと、ひろくんの彼女が何のようです?」

「あのさあ、ひろくんにつきまとうの止めてくれない?」

「…つきまとう、ですか?」


 小柄で黒髪が腰まである少女は唾を飛ばして喚きだす。

 ひろくんはわたしを愛してるんだとか、運命で結ばれる二人なんだとか。


 怖いわあ。


 じぃと彼女を見つめてから、肩に手を置いて耳元で優しく話しかける。


「そんなしょぼい魅了スキル使って大丈夫?」

「はあ?!」

「すぐに解けちゃうとひろくんに殺されちゃうよ?」

「え?殺される?何言ってんの?」


 あ、もう解けちゃったか。

 ひろが怒ってこっちに飛んできた。


「くそ女、ミノちゃんから離れろ」


 目の前でパァンとノリコが弾かれた。

 あー、めちゃくちゃ怒ってる。


「ミノちゃん、先に帰ってて?」

「買い物が…あ、うんわかった、先に帰ってるね」

「うん、ちょっと遅くなるけど、ミノちゃんのお母さんに夕飯は食べるって伝えておいて」

「ん、わかった」


 さっと反対を向くと家に向かって歩き始める。


 この世界には、本当に少ないけどスキル持ちがいる、私もその内のひとり。


 私のスキルは書き換え。


 何を書き換えるって、人の精神や記憶さらにはその人の肩書きに顔の造作から世の理までなんだって書き換える事が出来る。

 正直、めちゃくちゃおっかないスキルなのだ。


 ひろと会うまでは面白がって使って自分に都合のいい世界にしてた。


 あの日、ひろと出会って、あり得ない事に一目惚れしちゃった、そしてひろの記憶を少し書き換えた。

 というより蓋をした、だって、あんまりにも可哀想な記憶だったから。

 ひろと出会ったから、この世界に産まれた事に感謝したし、心の痛みも理解した。

 産まれることにも死ぬことにも意味があって、自分の思い通りにいかないのが当たり前で、自分でやったことには責任がついてくるものなんだって理解した。



 だからね、ノリコだっけ?ゴメンね、ひろは渡せないんだ。


 ノリコの記憶を視たら、ノリコがヒロインで攻略対象というのがいる世界なんだって。


 ひろも攻略対象だった。

 

 ノリコをモブというものに書き換えてみたら、あっさりひろの魅了は溶けちゃって、今ごろ何処かの海にでも飛ばされてるかもしれないなぁ。

 

 今日の夕飯なんだろ。

 早く帰って来てくれるといいな。

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