君は何者なのだろうね
「ん……んぁあ……寝て……たのね。ぅう、頭痛い」
ソファーから体を起き上がらせると、台所から食器の重なる音と水の出る音、沸騰する音が聞こえてきた。誰かがそこで料理でも作っているのか、スープの香りが部屋に充満している。不思議と安心する音である。
「あらあら起きたの。もっと寝てないと駄目よ」
後ろを振り返ると、そこにはなんとシャーリーさんの姿があった。
どうしてここにいて、しかも料理なんて作っているのだろうか。
「あ……シャーリーさん、こんにちは」
有無を言わさず彼女は私をソファーへと仰向けに寝かせた後、おでこにひんやりとしたタオルを乗せてきた。とても気持ちいのである。
「急に私が現れて挨拶で済ますなんてよっぽど重症ね。全くもう、1人だと危険なのよ? 風邪を甘く見たら駄目よ」
「ありがとうございます。その……どうして、ここに?」
それはね、このお星様のおかげ。とシャーリーさんの口から言葉が出ると、後ろからホッシーが急にこちらに目掛けて飛び出して来た。小さいのに上手く支え得ることが出来ず、勢いに負けて再びソファーに仰向けに寝かせられるのだ。
「エーフィー……心配するじゃないか。戻ったら苦しんだ君がソファーで眠ってるんだもん。シーナの家もエラッソの家も場所が分からないしさ、シャーリーさんしか頼れる人がいなかったんだ」
「本当にびっくりしたのよね。いきなり喋る星がエーフィーの危機だ〜! 助けてくれ! って懇願して来るのだもの。半信半疑で付いてったらこの有様だったから急いで準備したのよっと。はいこれ、おかゆ」
目の雨に差し出されたのは卵が混ぜ合わされた柔らかなお米のスープ。喉も乾いてたので水を流し込んだ後、そっとお椀を両手で持ち、スプーンで口の中に運ぶ。
「……美味しいです。沁みます」
何も食べてなかったから余計に美味く感じた。ずっと寝ていて汗も掻きっぱなしだから塩分が多めだ。ありがたい。しょっぱくてスプーンが進む。
「あ、後お薬も貰ってきたよ。これ飲んでしっかり寝て、回復するんだね。ま、明後日までには治るでしょ。その間面倒見てあげるわよ」
先日のお礼にね、と一言添えられる。
すると、洗い物の続きをする為に再び台所に戻り、作業に入り始めた。
「ありがとうございます……すみません、もう横になりますね」
起き上がってると体が重くなっていけない。
薬も飲んだし、今は大人しく眠っておくに限る。
「ホッシーもありがとね。シャーリーさんを呼んでくれて助かったよ」
「ううん、当たり前じゃないか! エーフィーが苦しんでるんだ、これくらいの事なんて訳がないのさ!」
そう言ってホッシーは、シャーリーさんの洗い物の手伝いをしに台所へと向かって行った。
私はきちんとした体制で寝る為、一旦自室のベッドに戻ろうとするが、シャーリーさんから呼び止められてしまった。ふらふらな足取りで階段はとても危険だそうだ。
私は彼女の背中におんぶされ、ベッドに戻った。掛け布団が体に掛けられる。彼女の笑顔をとても優しくて柔らかだった。
まるで、慈愛だ。
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深夜突如として目が覚める。
朝からずっと寝たきりだった為、目が冴えて仕方がないのだ。
「……トイレ行こ」
ゆっくり静かに扉を開け廊下に出ると、2人の楽しそうな話し声が聞こえてきた。正確には1人と1個だが。
「へぇ〜ホッシーって空飛べるんだね。まさに印象通りって感じ」
「ふっふっふ、それに魔法も使えるのだよ! 割となんでも出来る凄い星だね!」
「まさかエーフィーにこんな秘密があったなんてね。喋るお星様、しかもあのマーフィー・マグの形見と来たか。いいじゃない、あの子1人じゃ不安だしさ。相棒がいた方が色々良い経験になるさ」
むむむ、私がいない時はどんな会話をしているか気になる。でも盗み聞きは良くないなぁ。どうしようか。
「……あのさ、じゃあテリーの件もあなたの力が関わってるの?」
「ううん、あれは彼女が自分で考えて選んだ選択さ。悩んでいたよ、自分のしている事は本当に正しいのかってね」
「そうなんだ……ふふ、可愛らしい子ね。流石はマーフィーの血族。例え力は受け継がなくとも、その崇高な魂は受け継いでるって訳か。特にあの子はそれが顕著よね」
「私はマーフィー・マグには出会った事はないけれど、みんな口を揃えて喋るね。偉大な魔法使い、英雄だって」
私が大叔母様の魂を受け継いでいる?
そんな……過剰評価すぎるよ。私はまだちっぽけなんだ。
「もちろんよ。このエーレで彼女の名前を知らない者はいないし、世界で魔法使いの存在が薄い地域でも彼女の名前は轟いている。私も直接見た訳じゃないけど、あの魔王とも互角に渡り合える人物なのよ。勇者以外の人で、そんな存在は今まで人類に現れた事が無いの」
「ほぇ〜! マーフィーって凄いんだね! ふふん、でもエーフィーの方がもっと凄くなるさ! なんたってこの一番星である私が付いているんだからね!」
中々に自身家じゃないか。
でも、頼もしい。
私には皆がいる。
決して家族じゃないけど、互いが互いを助け合おうという気持ちを持った、心を預けれる仲間達。
ホッシーが私の元に現れたから、色々な事が変わり始めている。
君は本当に、何者なのだろうね。
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いつでもお待ちしております!
次回はあの騎士のお話しです! お楽しみに☆




