軽い気持ちで、奥底に入ってはいけないんだね。
「な、何を?」
ガイストが私の周りを真っ黒な布で包み始めたが、その隙間から。とてつもない光量が漏れ出した。その感覚、聖なる力だ。
「エーフィー!! 目をつむれ!!」
ジャスティーがそう叫ぶと、ガイストの体はまるで炭になった紙のように散りじりに溶け出して行く。影の魔物の天敵とも言える勇者の力、それを遺憾なく発揮しているのだ。
ガイストの布が無くなると、ジャスティーとシーナ、エラにアンゲルさんが立ち上がり戦闘の構えを取っていた。よかった、みんな無事だ。
「くそ!! 流石はガイストか」
ジャスティーが再び力を込めると、ガイストはおかしな呻き声を出しながら壁に向かって突進し、大きな穴を開けながら海上まで上昇していくのであった。
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「ふぅ、大変だったね」
みんなして玉座の前にある段差に腰掛け、ゆっくりと息を吐いた。まさかここまで大きな戦闘を行うとは知らず、あまり準備もしていなかったので回復手段がない。治癒魔法を使えるの者は1人もいないのだ。
「ごめんね、私何も出来なくて、足を引っ張っちゃって」
「何を言ってるのよ、ガイストがエーフィーに寄り添わなかったら隙も生まれなかったのよ。結果的に生き残れたんだからよかったじゃない」
シーナの言う通りだ。結果が良ければそれで十分。自分自身が納得出来ない事なんていつもの事だ。
「あ……そういえば、ガイストに話しかけられたんだよね。行きましょうだって、どう言う意味かな」
そう言うと、ホッシーが再びバッグから体を出し、ふわふわと宙に浮遊する。
「リンドでもずっと呼ばれてたよね。ガイストって喋る魔物なの?」
「いいえ、そのような情報どこにもありませんわ。少なくともモイツ家が管理している情報の中ではですけど。シーナの所はどうなの?」
「私も知らないし、今それ初めて聞いたよエーフィー。もっと早く相談してよ、気になるよ」
「ごめんね、薄気味悪いと思ってさ」
シーナが腕が私の体に絡まると、小声で頼ってよと言い出した。
ごめんね、今度からはきちんと相談するから。
「はい、じゃあ目的の宝箱とやらを探しますか。アンゲル、動けそう?」
「私はここで待機します。ガイストがいざ戻って来た時は対処できますし」
アンゲルさんは体を地面に伏せながら、天井を見上げる。急な戦闘で体力を消耗したのかもしれない。
「じゃあエーフィー、私もここでアンゲルと待ちますわ。そちらは三人でいってらっしゃい。シーナ、ジャスティー、エーフィーをしっかり守るのよ」
玉座の真上にある、沈没船に向かって箒で飛ぶ。
見た目はそこまで大きくなく、作りは単純な客船だ。部屋数は20くらい。
「逆さまになってるからいつ落ちるかわかったもんじゃないね。慎重に行こう」
頭の上にある扉を開くと、いくつか大きな荷物みたいなのが落ちてきた。当たったら箒から振り落とされる所だ。
中は海水の影響を受けているのか、そこら中に海藻がひしめきあっており、客室は簡単に開きそうにない。
仕方がないのでジャスティーの勇者の剣で片っ端から海藻を切り落とし、順番に扉を開いていく。
「うわ、また骸骨……あ、でもこの2人、手を繋いでいるね。悲しいな」
逃げ遅れた人々だ。最後に死ぬ間際まで、愛する人と一緒に入れたかもしれないけど、側から見てると心が痛くなる。
「エーフィー! もしかしてこの宝箱?」
さらに上を探索しているシーナがヒョイっと顔を覗かせる。
中身を確認すると、輝いた汚れのない指輪と、一通の小さな紙。
「ええっと、どれどれー……ああ、これかな、手紙が入ってるね。読んでみようか」
宛先に書かれていたのは、シャーリー・エルマーという知ってる名前。差出人はやはりテリー・エルマー。
「もし違ったらあれだからね、ちょこっと拝見するだけさ!」
と、軽い気持ちで読んでしまったのが仇となる。
私はその後涙が止まらなく、家に帰り着くまでずっと塞ぎ込んでいた表情をしていたそうだ。
こんな情けない姿、あまり見られたくは無かったけど、我慢をする事が出来なかった。
だって、人はここまで人に想いを寄せれるのだと知れた反面、もう一生その想いが伝わらないのだと考えると、ひたすらに悲しい気持ちが心を駆け巡ったのだから。




