私の事、知ってるの?
鎧の骸骨戦士が口を大きく開きながら、私達に向かって何かを語りかけてきた。必死さの伝わる身振り手振りの後、胸に手を当てて顔を大きく突き出している。
____あうお……あ、あ。
私にはそう言ってるとしか思えなかった。あくまで言葉の母音なのではあるが、どうやって言語変換をすれば良いのか。
「なんだこの魔物……」
ジャスティーがその言い放った瞬間、剣を両手に持った骸骨が、いきなり彼に目掛けて突進してきたのだ。
大きな剣の一振りを防ぐジャスティー。金属のぶつかる音がいくつか鳴り響いた後、彼の一撃が骸骨をのけぞらせ、後方へと飛ばす。
「ぐ……! 重てぇな!」
エラッソが後ろで強化魔法をジャスティーに放つと、ジャスティーの体全体が青白く輝き始めた。単純な防御魔法だ。1・2発程度であればあの一振りに耐えられる程度の停止。
「加勢します!!」
アンゲルさんが腰から2本の短剣を出し、骸骨に向かって飛びかかっていった。骸骨は彼女に向かって大きな一振りを放つも、空中に小さな物理魔法陣を展開していたのか、自由自在に翻弄的な動きを見せる。
ひらりと剣の一撃を躱した後、下から掬い上げる様に脇腹辺りに短剣をねじ込む。
「骸骨ですから、こんな針見たいな攻撃はなんの意味もありませんね」
後方の私達の所へ大きくジャンプしようとしたアンゲルさんだが、その瞬間、骸骨に片足を掴まれ停止してしまう。
「ッッ!! アンゲル!!!」
「しまっ!!」
叫ぶのも束の間、およそ魔物とは思えない力で振り回され、壁に向かって叩きつけられる様に投げ出されてしまう。が、持ち前の身体能力だろうか、壁に向かう途中体制を立て直し、衝撃を両足で踏ん張りながら吸収したのだ。
「ッッ痛っっ……。久しぶりの戦闘でこの強敵は応えますね。昔を思い出します」
膝に手を当てながら敵を睨みつけるアンゲルさん。
「なるほど、アンゲルでこの様子ですか。それならば作戦を変えなければなりませんね」
エラッソがそう言うと、再び彼女の足元に魔法陣が浮かび上がり始めていた。今度は青と緑色。
「付与魔法は得意ですの。それは味方にも……敵にもですわ!!」
空中に向かって緑と青の光を投げつけると、部屋が一気に明るくなり、骸骨の周りを無数の光の粒が纒わりだす。この魔法は確か状態異常系の魔法だ。しかも対人戦において、禁止とされている危険な技。
「骸骨、この感じですと影の魔物ですわね。ガイストと同じ種族。それならこれが効果的面ではなくて?」
この世には、相手の魔力を吸収できるドレイン魔法なるものがある。普通の使い方ならば自分の魔力が尽きかけている所を、相手の魔力を奪い取る所で回復する。
が、魔法使いの国であるエーレでは別の使い方があるのだ。それは、一時的に自らの魔力を外に置き、致命傷を避けると言うもの。
その致命傷の原因となる魔法、それはマナ系と分類される、魔法使いにとって極めて危険な技。
やはり見習い学生と言えど、Sランクまで到達したエラだからこそ使える秘術。
「うふふ、この魔法はね、魔力使って内側から大爆発を起こさせる魔法なのですよ。習得してから禁止され、一度も使う機会に恵まれませんでしたが、とんだ練習相手ですわね」
光の粒は段々と骸骨の中に吸収されていき、骸骨自身も身動きが取れなくなっていた。
「シーナ!! シールド魔法を展開してくださいまし!!」
「言われなくたって!! みんな! エーフィーの所に集まって!!!」
ジャスティーがアンゲルさんを抱え、こっちに寄り添ってきた瞬間。部屋内は激しい閃光に包まれていった。あまりに膨大な爆発の為、シールド越しでも伝わる暴風。
「うぐぐぐぐ……」
暴風が鳴り止んだので目を開ける。
シールドは壊れていなく、シーナの魔法の練成度を垣間見る。私には出来っこない芸当だ。
「骸骨は?」
辺りを見回しても戦士の姿は見当たらない。きっとあの爆発で霧散してしまったのだろうか。
「む、まだ気配がする……って、あれは」
ジャスティーが指を指した方向に、一つの黒い影が漂っていた。
ボロ切れの黒い布を身に纏った様な見た目に、顔などあるか判別の付かない漆黒。
「あ、あれってガイスト? でも……この前見たのよりも……明らかに違う」
何故魔王軍の手下がこの様な所にいるのだろうか。何故骸骨に憑依していたのか。
「アンゲル!! もう一度シールド魔法を!! シーナも続いて重ねて!! 全然魔力が減ってませんの!!!」
エラッソが必死に指示を出すも、ガイストはとてつもない速さで真っ黒な塊を作り、自分達に向かって放っていた。
反応が遅れてあたふたしているが、その黒い塊はとっくに地面に触れており、そこを起点として大爆発を起こすのであった。
バラバラに飛び散ったみんなをすり抜け、ガイストが一直線で私の所に寄り添い、聞いた事のある言葉で話しかける。
____ア____ト____?
____ま____て___。
何を言ってるかは理解出来ないが、私達と同じ言葉を使っているのだけは分かってしまった。最後の「行きましょう」の一言、この魔物は私の事を知っているらしい。
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と、ホッシーが言ってました。卑しいやつですね。




