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ひととき

 何やらビクビクと私を恐ろし気に見るアンゲルさんをよそに、激しく美味しく出来上がったサンドイッチを頬張るホッシーと私。

 美味い! 美味すぎる! 濃厚な辛めのタレをこれでもかと野菜が絡めとり、歯応えを感じさせるこんがりサクサクになった豚肉は口に入れてもさらに食用を増進させる。


 天才だ、天才は本当にいたんだ。


「うおおお、エーフィー、これなら私も毎日食べれるよ! これなら文句はゼロだよもぐもぐも〜ぐ!!」


「何よ、やっぱり今までも文句たらたらだったんじゃない! それなら自分で作ればいいでもぐもぐも〜ぐ!!」


 さっきから口が止まらないのである。無限に食べれそうな気がしてならないのだ。恐るべきアンゲルさん。


____

________


 お食事も終わり、のんびりとみんなでコーヒーを飲みながら談笑する。和気藹々とした甲高い声、溢れる笑顔。

 その時、ふと急に頭の中に変な感情と問いが走り去っていった。


 私は、もしみんながいなくなったらどうするのだろうと。


 今の光景は当たり前の光景なのか。私には昔からシーナがいて、エラッソがいて。もしそれが急に失われたとしたら? きっと私は耐えられない、ずっと孤独だ。


 そんな大切な人がいなくなるって、一体どんな気持ちなのだろう。

 本当に、世界中でただ1人って、どんな気分なのだろう。

 大人にはお酒に逃げるって選択肢があるけど、若い時みたいに気軽に友達は作れないだろうし、逆に考えればそれしか逃げ道がないって事じゃないかな。


 シャーリーさんの背中が目の前に出てくる。

 少し丸くなっていて、でも凛々しい佇まい。必死に自分の中につっかえ棒を立てているみたいに、一生懸命に立とうとしている。

 私も大叔母様を失くして、悲しい気持ちに打ちひしがれていた時期はあったけど、そんな時はシーナやエラッソ、昔からの知り合いに慰めてもらったんだ。


「ねぇエラ、もし私がいなくなったらさ、悲しい?」


 目をまん丸に開け、驚いた顔を見せるエラッソ。


「……何かありましたね? もしかしてあの便利屋の店主の事ですか?」


 お調べ済みという訳ですか。流石だよエラッソ。


「知ってたの?」


「ええ、昔、モイツ家もシャーリーさんにはお世話になった時がありますからね。その時身辺調査は済んでいます。婚約者がいらっしゃいましたよね? 亡くなっていますが」


「へぇ、そうなんだ。……うん、今悩んでるのはその事なの。とある人からね、シャーリーさんが大切にしている物の在処を教えてらったんだ。で、それを見つけて渡すという流れになったんだけど……」


「自分のしていることは本当に正しいのか。ですか?」


 心を読まれたみたいだ。というよりも、私がわかりやすいのかな。


「エーフィー、その頼んだ人が誰かは分かりませんが、やらないで後悔よりはやって後悔。これは人生の鉄則ですわよ」


「鉄則って……エラは大人だなぁ」


「失敗を怖がってはいけません。それに、エーフィーは自分が思っているよりも、自分の事を信じて上げた方が良いと思いますの。あなたは時々自身が無くなる、悪い癖ですよ」


 それに関しては否定できない。うだうだと悩むのは昔からだ。


「あなたの好意をお節介と感じる人間など、この世にいません」


「凄い断言の仕方をするね! でも、そうかぁ……やって後悔?」


「例え相手が悲しもうとも、送り主の心が真心でしたらあなたに落ち度はありません。でも気になりますね……」


「だめよエラ、全部が終わったら話してあげる」


 自分から振っといてあれだけど、何となくエラの意見を聞けてよかった。

 後悔はしたくない。私は私の全力を出しきる。

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