なんだそれ、私が馬鹿みたいじゃん!
ホッシーとお喋りをしていると、急に呼び鈴が鳴り響いた。
こんな大雨の中一体誰だというのだね、と疑問に思っていると、雷が鳴る中獣の笑い声が混じっって聞こえ始めたのだ。このゴリラみてーな笑い方をするのは世界でただ1人、彼女しかいないのである。
という事で思い足を引き釣りながら、扉の前まで歩く。段々と笑い声が近くになるにつれ、扉を開けるのが憂鬱になってきた。
神様は私にのんびりする時間など、与えてはくれないらしい。
「はーい、どなたー……」
言い終わる前に力強くドアノブを握られ、内側へ押し出された。
そしてこれでもかと桁違いな笑い声を私に向け、鼓膜を破壊してこようとする。
「あらあらあーーら、エーフィーったらそんな所で尻餅ついて、なんてはしたないのかしら!! おほほほほうほほふおふホフほーう」
ゴリラと天使の組み合わせなんて初めてみた。
隣にはいつものセバスチャンの姿はなく、キリッとしたおお目々のアンゲル・シューンさんがいるのだ! ってまだ数日も経ってないのにどうして急に来訪なんてしてきたのか。もうそろそろ理性が殺されそうなのか疑問である。
「痛いなエラ、そんなに痛いことをされたら私は悲しい気持ちになってしまうよ。起き上がらせてくれないか?」
と、少し低い声で問いかけたらあら不思議、ゴリラの湯でタコ風味のリンゴほっぺの出来上がりなのである。だからチョレーってマジで。
「エーフィー様、ささ、どうぞお手を」
赤らめているエラをよそに、アンゲルさんがさらに男前な感じで手を差し伸べてきた。以前ならきりりっとした見た目で心を弾ませている所なのだが、あんな姿を見た後ではなんかだか笑いが込み上げて来そうである。
「ありがとうございます。で、エラは何しに来たの?」
もじもじと手を前にして俯くエラッソ・モイツ。
「あ、あ、あ、あ、遊びに来ましたの……」
可愛すぎかお前? 食うぞ? 食っちまうぞ?
「エーフィー様。エラッソ様はこれといった友達が殆ど居ないのです。なので、ご友人と遊ぶ、といった場面にあまり慣れてなく、只今赤面して硬直という図式になっておられます。その意図をぜひ汲み取って頂きたいのと、こんなエラッソ様を是非とも受け入れて頂きたい。私からもどうかお願いします。ぺこり!」
お前本当に人間か?
これで恥ずかしい部分を隠せなくなったエラッソの気持ちを作文用紙一枚で答えよって問題やらせた方がいいんじゃないか? でも最後のぺこりが可愛かったから許す。
「ちょちょちょちょっとアンゲル! 余計な事は言わないでくださいまし!」
あわわあわわと慌てふためくエラッソ。とりあえず居た堪れないから中に入れてやるかぁ。
「コーヒー淹れてあげるから中へお入り、アンゲルさんコーヒー大丈夫ですか?」
まるで遊園地にやってきた子供みたいにソワソワする2人。仲良いな君ら。
あ、そういえばホッシーどうしよう。また変な事にならなければいいけど、あの星金属の事はまだ覚えてる筈だし、どこかへ隠しとこうかな。
「ってホッシーもう隠れる気は無いのね」
マグカップを口に付け、コーヒーを啜る星。
よかった、人見知り治ってくれて。
「エラッソ、アンゲルさん、ご紹介するね。星金属ことホッシーだよ。ほらホッシーご挨拶なさい!」
こんにちは、私はここでお世話になってるホッシーだよ! と簡単に自己紹介を済ませる星。
クックック、エラッソの驚いた顔が見ものだぜ! きっととんでもない反応を見せるんだろうなぁ!!
「え、え、え、え、……エラッソ様!!! 星が、星が喋っています!!!」
驚きすぎて近くのソファーの裏に隠れるアンゲルさん。陰からちらりと顔を半分だし、ホッシーの出方を伺っている。可愛らしい反応である。
「あら、最近の星は喋れるようになったんですのね、ふーん」
「え? 待ってエラちょっと待って、星が喋ってるんだよ? ガチだよ? 作り物とかじゃ無いんだよ!? もっとよく見なよ!?」
「ん? それがどうかしましたの? 星だってたまには喋って人間と触れ合いたい時もあるでしょう。いいですかエーフィー、それくらいで驚いてはモイツ家の当主は務まりませんのよ」
うっそだろお前!? あれか? 私の常識が間違ってるとでも言うのか!? でもそんな認識ならなんで最初の時に病院なんて連れてったんだよ!? 信じろよ私の事!! このタコが!!!!
「エラッソ、エーフィーからよく話しを聞いてるよ」
「あらやだ!! エーフィーったらんもう!!!」
やめろホッシー、彼女のスイッチを押すんじゃない。ただでさえ今私は混乱の術中にハマっているのだ。
「にしても不思議なお星様ですわね。もしかしてマーフィー・マグに関係ある物なのかしら?」
「……そうだよ、大叔母様が私に残していった試練なんだ。この星を解放するって言うのがね。はぁ、本当に動揺しないんだねエラ。なんだか私が馬鹿みたいだよ」
「ふふん、私を見直しましたか? おーっほっほっほ! 良い気分ですわ!」
へぇへぇそりゃようござんした。
とりあえずソファーに座るか。
「エーフィー、コーヒーのおかわりはいるかい?」
「ええよろしく」
「あらお星様、よければ私も頂いて良いかしら? 雨で気温が下がって体が冷えてきた所ですの。本当はエーフィーに温めて貰おうと思ったのですけどね」
どうして君はいつもそうやって肉体的接触を求めてくるのだね。変態親父かね。辞めたまえよ、そんなのコリーさんだけで充分だってって最低だなあの人。




