おうち時間
「エーフィー、今日は何も用事はないのかい? 無いなら無いでいいさ、久しぶりにのんびりゆっくりしようじゃないか。足の怪我の為にもね!」
ゆっくりしようとしてたのにペチペチしてきたのは君の方じゃないか。結果的にぐっすり眠れはしたけど、もしそのまま起きていたら機嫌が悪い所の話じゃ無いのである。まぁコーヒーは美味しいし、雨音は綺麗だし、許してやるか。
「うーん、そうね。でも何をしましょうか。お部屋の掃除? でも動きたくないなぁ」
手持ちぶさたになるのも久しぶりな感じがする。
本当はせかせかと働いてお金を稼がなきゃいけない身だが、こんな日にせかせか動いても良い結果は生まれないのだ。エーデル院長の元に行って大叔母様の日記の話もしたいけれど、雨が降ってる。大人しく勉強かな。
「フィンさんに頼んでるアイテムも明日だもんね。ならもう一眠りするかなぁ」
起きたばかりだけどまた眠る。怠惰の極みだけど仕方がないのだ。
「ねぇねぇエーフィー、最近あまり学校に行ってないけど、大丈夫なのかい? 魔法がダメでも勉強さえできれば卒業できるんだよね?」
しれっと人の魔法をダメ呼ばわりする星。
何も言い返せないのが悔しいが、それでも言葉は選んで欲しいのである。
「ホッシー、もしかして私のことバカだと思ってない?」
「そんなことないさ! ほんの少しだけ思ってたけど!」
どっちだよ、はっきり言いたまえよ君。どうせ魔法もダメダメだから頭の中もダメダメだと思っているのだろう? 失礼な星だ。これではご主人としての沽券に関わる問題だ。しっかりと力は提示しておかなければなるまいて。
「ふんだっ、私はこれでも学年の上位十名の中には入っているんだぞー! 実は結構頭がいいんだもん。まぁ評価されるのは魔法の腕が優先なんだけどね」
「へぇ、意外や意外だよ。たまに頓珍漢な行動に出るからなーエーフィーは」
先ほどから失礼な星だ。
またペコチーンってやられたいと見える。
「何よ、文句ある?」
「全然ないよ! それもまた可愛らしくて素敵じゃないか!」
雨音は鳴り止む気配を見せず、ひたすらに屋根を叩く。
こんなおうち時間のお供と言えば、コーヒーと本、それと……。
「ねぇエーフィー、君の話が聞きたいな。子供の頃はどんな子だったんだい? シーナとは幼馴染って聞いてたけど」
「どうしたの急に? シーナとは物心ついた時からの友達よ」
「いやだってさ、私はなんだかんだ言ってエーフィーの育ち方とか知らないし、もっと知りたいなぁって思って」
そうか、昔話にご興味があるようで。
まだ振り返るほどの生き方はしてないけど、久しぶりにいいかも。
過去の記憶を掘り起こす行為は、自分がどこの誰で、明確な居場所を記すのに丁度いいのだ。
「じゃあさ、どんな事が知りたいの?」
星が考える素振りを見るのはなんだか面白い。星ってなんだかんだ人型ではあるから、その一挙一動がどうも本物の人に見えて仕方ないのだ。
「うーん、そうだね。シーナ以外に友達はいなかったのかい?」
「小さい頃から……て考えたらそうだね。やっぱりマグ家って特別でさ。あんまり人は近寄って来なかったのよね。大叔母様もやたらと人と関わる性格じゃなかったし、両親は病気で亡くなってるから、そもそも知り合いが少なかったってのもある」
「でもそこまで大きな家だったらさ、割と位の高い人達とか接して来そうなもんなのにね。それこそコリーさんみたいな人が来そうだよ!」
それまでのマグ家だったらね。
この家は、大叔母様の威厳で守られている部分が多かったのだ。親族は魔法は使えても、そこまで巨大な力を保持している訳でも無し。
両親に至っては、魔法なんててんで使えなかったそうだ。そしてこの私、両親に比べて魔法にほんの少し精通しているくらいで、世間一般的な魔法使いに比べたら小豆なのである。コーヒー豆なのである。香ばしいのだ。
「大叔母様も言ってたの、私がいなくなったら大変だろうねぇってさ。マグ家は陥落の一歩手前でギリギリ踏ん張ってるって訳さ。分かるかい? 私の背中に背負ってる重圧が」
「前の方が重そうだよ!」
真面目に聞いてるのか茶化しているのか、まぁ君もこの権威社会の混沌に巻き込まれていると自覚した方がいいぞ。私は絶対に逃さないんだから!
「で、質問はそれだけなの?」
「お次はね〜……昔に好きだった物は?」
大雑把な質問だが、逆にこれくらいの方が答えやすい。
「温泉だね。それと、廃墟巡りかな」
「廃墟巡り!? なんて陰湿な趣味なんだい」
おっと、これは喧嘩を売っているなこの星。意外とこの趣味って人口が多いのを知らないのだな? 温泉と廃墟はセットなのだよホッシーちゃん。怖ーい所に行って身も心も凍えて来たところに、人の温もりなど比べ物にならない程の暖かさで全身を包む。この快感が君に分かるのかね! あ、そういえばこの星幽霊苦手だったな。クフフ、今度連れまわそ。
「悪い顔しているねエーフィー」
「あら? そうかしらうふふ、今度ホッシーも連れてってあげるね!」




