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いい天気ね

 赤い人影に囲まれている。

 ここはいつもの家だ。とても大きいお屋敷、もしかしたら自分は王族の人なんじゃないかと錯覚を起こしてしまいそうな程。

 正直、王族とやってる事は変わり無いのじゃないかな。人の困り事を聞いて、考えて、行動して解決していく。

 最初は嬉しかった。人の役に立てて、みんなの嬉しそうな顔が見れて。やりがいと生きがいを感じていたんだ。

 自分のこの特殊な能力のおかげだ。

 これがあれば解けない問題はない、交渉で失敗もしない。

 そうやって沢山の人々を助けたのに……いや、助けすぎちゃったのかな。次第に黒くて赤い色が飛び散り始めたんだ。


 周り全部から声を掛けられても聞けやしないよ、頼むから一人ずつ説明してくれないか。そんなに心の矛先を向けられると、壊れちゃうよ。

 耳を塞いでも無理やりこじ開ける甲高い声達。

 何故、どうして。そんな問いばかりが頭の中をぐるぐると掻き回すんだ。文句を言うくらいなら自分一人でやればいいのにさ、上手くいかなかったら全部他人のせい。しかも罵倒で優越感を得ているから尚更タチが悪い。


 毎日毎日、変な色に振り回されて、悪辣な色をぶつけられる。

 もう限界なんだ。誰か助けてくれないかな、一人くらい手を差し伸べてくれてもいいと思うんだ。誰でもいいから、頑張ったねって、褒めてくれてもさ。

 皆が貧しくなって、食べる物が段々と粗末になって行っても、自分は毎日感謝してるつもりなんだよ? 今日も美味しいスープだ、ありがとうって。

 そんな自分の真心に返答はしてくれるのは嬉しいんだけどさ、内側にある真っ赤な色は少しも変わることがなかったね。貴方達は表面上では慕ってるつもりかもしれないけど、自分には分かってしまうんだ。


 だって見えるんだもの、見たくもない物がさ。


 この人、覚えてるかな。

 ある日、自分のスープに毒を混ぜた日の事。

 動かなくなる前に、無理やりにでも聞いておけばよかった。


 どうして、憎しみを向けるの?


 あのスープ、きちんと飲んだのだからさ、答えてくれてもいいのに。

 その質問をしたら、刃物を持って突っ込んでくるんだもの、恩も何もあったもんじゃないよね。

 人の事を化け物だなんて……。


 自分は君達の為に一生懸命働いて、身を擦り切るような思いをして、何度も死ぬ目にあったって言うのにさ。

 もう……いいかな。

 我慢しなくてもいいよね? だって苦しいんだもの。

 この痛み……分け与えてあげなくちゃ。


 ––––燃やしてあげる。


––––

––––––––


 ペチペチ

 ペチペチ


 う、うーん。なに? まだ寝てるのよ、頭がボーッとするの。ほっといてよ。


 ペチペチ

 ペチペチ


 あーんもう、昨日は色々ぐるぐるで頭が疲れてるの。体も上手く力が入らないし、まぶたも重いんだ。


 ペチペチ

 ペチペチ


 後5分だけ、後5分だけ寝かせてくれないかな。人間にとっては睡眠は至極の極楽なんだよ。それを奪おうだなんて、なんて強欲な子なんだい。いいかい? 朝起きて夜まで一日中活動できるのも、本を読んだり勉強をしたりして賢くなれるのも、誰かと一緒になって笑い会えるのも、全ては睡眠をしっかり取ってるお陰なのだよ? 君との良好な関係も同じさ。睡眠を取れなかったらあら不思議、即刻金属バットで砕いてそのまま鍛冶屋へポイってなっちゃうんだぜ? だからたっぷり寝かせてグオオオオォォクルルスピー、グォォォクルルスピーーーー。


 ペチ……ペチ?

 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチ!!!!!


「だああああああああうるせええええええええんんんんだよ!!! 黙って寝かせろやああああ!!!!!」


 ひいいいいぃぃぃっと泣き叫ぶ星を尻目に再び布団を被る。

 大体叩くなら普通頬だろーが、胸ペチペチするんじゃねーよ、地味に痛いんだから勘弁しろよ。


「ううう……本でも読んでるよ……」


 そーだそーだ、本でも読んで待ってなさい。

 私はさっさと眠りに……って、そう言えば変な夢だったな。いやに現実感もあったし、それになんだか前回も同じ夢を見たような……気のせいか。


 どーせ見るならコーヒーのプールを泳ぐ夢とかがいーな。ミルクと砂糖入りで。椅子はケーキで床はチョコレート! 泳ぐのに飽きたらチョコの床でスケートだ! 一番乗りでゴールした人には塩味のご褒美が待ってるのグオオオオォォクルルスピー、グォォォクルルスピーーーー。


––––

––––––––


「ふわぁぁぁあああ……よく寝たーー……んんー……いい香り」


 正夢に近い香りが鼻腔を燻る。

 お湯の沸く音の近くに寄ると、一個のお星様がポットと睨めっこをしているのだ。異様な光景だが、もう見慣れたもんよ。


「おはようホッシー、今日もいい天気ね」


 ざぁーーーっと雨が降っているが、こんな挨拶は気分に寄る物なのだ。

 私はどちらかと言えば明るい空間より暗い空間を好む習性がある。きっと根暗なのだろう。だから私にとってはいい天気なのだ。この家では私の意見が絶対なのだ、異論は認めないのだ。


「エーフィー、薄いのと濃いのどちらが飲みたい?」


「うーん、薄いので、砂糖ミルクなしでお願い。あ、取り敢えず歯を磨いてうがいしてくる」

「ねぇねぇホッシー! なんだかとても嬉しいご感想がいただけたわよ! 感謝しなくちゃね!」

「もっと黒く染まりたいぜ」

「強欲な星ね、墨の池に落としてやろうかしら」

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