天が許しても私が許さん!
翌朝、何事も無かったみたいにいつもの朝を迎え、朝食を取る。
ジャスティーさんは夜中まで本を読んでいたらしく、あくびが止まらない。
そう言えばホッシーは昨日の話を聞いていたのかな。寝息は聞こえてたから、寝ていたのは間違い無いけど、狸寝入りの可能性もある。
そんな心配を他所に、シーナが作った目玉焼きをナイフとフォークで頬張る星。とても美味しい、感動的で新鮮だと感想を漏らす。
なんだい目玉焼きの一つで、どーせ私の作る料理に不満があるってことでしょ。はっきり言いなさいよこの星め!
「エーフィー、錬金術師のお店にはもう向かうの? コーヒー飲む時間くらいある?」
なんて気が利く美女なのだ。あったりまえなのだ! シーナの淹れるコーヒーはあの猫休の店主、ダンディでさえ一目置く程の腕。飲まない理由が無いのである。
「うん、ありがとう。ホッシーもジャスティーも飲むよね?」
二人に声を掛けるも、何故だかじっと見つめ合う星と勇者。
「どうしたんだいジャスティー。私の顔に何か付いてるのかい?」
「え……うーん、なんだか星が食事をしているってのがね……いやまぁエーフィーからしたら普通なんだろうけどさ。見慣れなくてね。でも疑問だ、こんな存在がこの世にいるだなんてさ。まさかゴーレム系か?」
大丈夫だ心配するな迷える子羊よ、それが普通の反応で間違いないのだ。
「なんだいジャスティーまで……全く、見識の狭い野蛮人はこれだから困ったものだね。勿論不思議に思うことは当然と言えば当然さ、でも大事なのはその次なのだよジャスティー君。スカポンタンは探究心と言うものが欠けているね。疑問に思ったら次は解消に向かわなきゃいけないんだよ? 分かるかい?」
朝っぱらから煽りに煽りまくるホッシー。あんなん言われたら腹立つわ。
「なんだよ!? そこまで言われる筋合いはねーよ!? ってそんなにすぐ解消できるならエーフィーだって悩んでないだろ!?」
勇者の言葉を無視し、新聞を手に取り眺めるホッシー。行動がもう完璧にお父さんである。
「せめて何かしらの反応を見せろよ……」
「なんだい騒がしいな。勇者ともあろう人がそんなに落ち着きが無くてどうするんだい。もっと大人になりたまえよ」
「グギギギギギギギ……」
歯茎を剥き出しにして威嚇行為を始める勇者。ホッシーも朝っぱらから臨戦態勢の構えだ。何か理由があるのだろうか。やっぱり地味にゴーレムとか言われて傷ついてるのだろうか。
その後、コーヒーの時間を楽しんだ私達は、シーナの言う錬金術師のお店に向かった。案外歩いてすぐの所にあり、普通の大通りに面しているが屋根が小さく、まるで隙間を埋めるような立地である。
「ヘぇ〜看板も無いならそりゃ気付かないさ。もしかして建物を借りるだけで精一杯なのかな? 看板買うお金無いとか?」
「それも一理あるかもね! 儲かって無さそうだし」
とりあえず正面にいても仕方ないので、玄関をノックし扉を開ける。
「ごめんくださーい……おぉ」
まず開口一番に目に飛び込んできたのが、空中に浮いてある真丸のガラスの球体である。その中には原型を保ってない何かの材料が入れられており、ゆっくりと回り続けているのだ。
「あら? あらららら! もしかしてお客さん!? お客様なのね!?」
店主であろう女性が小走りでこちらに近づいて来た。
珍しい桃色の髪、襟足は伸ばさず、耳もとまで隠れるくらいに切りそろえられている。
丈が短めなスカートに白いタイツを伸ばし、袖がない動きやすい上半身は活発な印象を与える。
髪色や美貌にも驚いたのだが、それ以上に関心を寄せられるのは、彼女の目元にある青痣と、すらりと伸びた白い腕にあるいくつもの大きな青痣。まるで誰かに殴られたみたいに青々しく、痛々しい。
「よ、よよよようこそ私の工房へ!!」
緊張しているのか、言葉がうまく並べられず、吃る。
「ああわ、あわわわわ! ど、おどどどどうぢよう! ここ、こんな時は!!」
そう言ってテーブルに置いてあるお茶を一気に飲み干した。
当然そんな急に飲み出した人の結末はお伽話よりも単純明快だ。むせて吐く。
「ゲボゲボッッッッッッッゴホゴホ!!!」
床に散らばるお茶とグラス。
何もしていないのに瀕死状態になっている錬金術師の女性。
「ん? っておい、何しているんだ」
奥の部屋の扉が開かれると、そこから一人の男性が本を片手にこちらに視線を送っている。そして錬金術師の女性に近寄り、背中をさすり始めた。
「わうっゲホゲホゲホ!! ずびばぜっっゲホゲホ!!」
うーん、なんだろ。とりあえずこの男性めっちゃくちゃ顔怖い。機嫌が悪そうだなんてもんじゃ無いのである。しかも体つきもかなりゴツいし、見た目で言ったらジャスティーよりも何倍も強そうだ。
あれ? もしかして……彼女の青痣って、この男性が付けたんじゃないか? だって彼女どこか怯えているし、謝ってばかりだし、なんだかちょっと涙目だし。
うわ、だとしたら厄介だ。
家庭内暴力だとしたら胸糞悪いにも程がある。こんな幼気な女性を暴力で支配するなんて最低だ。
「すまないね君達、少し時間をくれるかい? 全く……チッ」
うわー決定だこれ。
どんな関係かはまだ知らないけど、一緒にお店を運営している仲で舌打ちを打つだなんてありえない。感情がすぐ行動に出るタイプだ。
「うう……ううううう…‥」
女性も完全に怯えている。
きっと私達が去った後に色々酷い事されるんだ! 表面上だけ良い夫婦を装ってるんだ! なんて最低な奴なんだこの男は!!!




