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私達は視えない何かを支えている

「ねぇエーフィー、ちょっと話さない?」


 ベッドに潜り込んでから30分後、段々と体が睡眠体勢に入ってきた所に、シーナが声を掛けてきた。

 いつも話してるじゃないかと思ったが、この声色は別の何かを語りたいのだ。


「窓、開けていい? 最近涼しい風吹くよね」


 シーナの髪が風に乗り、ふわりと煌めきを靡かせる。

 薄い金色が月明かりに反射する、まるで湖の中に女神様でもいるかのような神秘さ。普段の行動と言動からは想像出来ない姿だ。


「あのね、エーフィーって将来の事どれくらい考えてる? 学生生活も残り一年切っちゃったしさ」


 この時期になると、マギシューレンの上級生は忙しなく悩み、動く。

 だって初めての仕事なんだ、ちゃんとした所に就職したいし、夢も見るのだ。自分が働いてる姿を胸に抱いて。


「ホッシーと同じ事聞くのね〜。うーん……正直分かんなくなっちゃってさ。借金も多いし、今与えられてる仕事を一生懸命にこなすしかないよ」


 シャーリーさんには感謝だ。

 冷静に考えてみれば、あそこまで破格な仕事は他に類を見ない。

 組織に入ったら人間関係で苦労するってよく言われるけど上司は店主一人だし、それに優しい。


「シーナはどうするの? 家って由緒ある貴族だし……って言うか貴族って何するんだろ。確か魔法雑貨系の商会を営んでるんだよね? 継ぐの?」


 エラッソとまでは行かないが、シーナのブルグ家もエーレに名を轟かせる財閥の一家だ。きっと私なんかでは創造出来ない様な煌びやかな将来が約束されているのだろう。絶対に借金なんかに悩まなそうだ。むしろ有り余って困ってるわおほほとか言ってそうだ。


「……私は、縁談を迫られてるの」


 縁談? エンダン? ん? んんんー? 美味しいのかなそれって違うぞ。縁談だ縁談、つまりはどこかの誰かと結ばれるって事だ。


「え? え? ええええええーーーー!? 何それ何それ!? 初耳だよそんな事! 一体いつからって相手は誰なの!?」


「ちょ、ちょっとエーフィー声でかいって!」


 片方の手で口を塞がれる。

 相変わらず柔らかな包み込む手。


「相手は……その、別の国の貴族よ。お父様は家を大きくすること、ブルグ家を繁栄させることに重きを置いている。だから娘である私はその材料って訳。……早すぎるよね」


 早すぎるも何も、まだ私達はお酒も飲めない年齢だ。

 それに、そもそもいくら家柄だからと言って人の人生の行先を勝手に決めていい訳が無い。


「断れないの? 乗り気じゃないんでしょ?」


「うん、もちろん断りはずっと入れてるの。でもね、経済的な理由なんだけど、私達が主に捌く魔法石の産地は殆ど向こうにあってね、それを経たれると一気にブルグ商会は廃れてしまうのよ。で、向こうはそれをチラつかせてるって訳」


「何それ! 物凄く卑怯だ! そこまでして結婚したい理由って……」


「向こうの一人息子が、私に一目惚れしたんだってさ。こればっかりは防ぎ様が無いよね」


 一目惚れか、そんなにシーナの事が欲しい。まるで宝石を買って貰えないで駄々を捏ねてる子供じゃないか。


「だから、学校を卒業して少し経ったら、私は結婚してしまうかもしれないの。あーあって感じ」


 女の子にとって、結婚は人生の目標であり、始まりでもある。

 つまり、生きがいに近い行事なのだ。それを軽々しく大人達が勝手に決めて、剰え自分の利益の肥やしにしようなんて反吐が出る。許せない。


「ブルグ商会って、従業員が沢山いるのよね。そりゃあもう数え切れないくらい。もしそことの取引が無くなりでもしたら、みんなの生活が支えられなくなっちゃうの。最初はさ、他人の人生なんてどうでもいいし、そこらで野垂れ死のうが自分には関係が無いって思ってたんだけど……」


 シーナは息を深く吸い込んだ。

 内側から出る悲しみを表に出さないようにしているみたいに。


「でもさ、たまにね、家に来るんだ」


「来る? 誰が?」


「働いてる人達よ。お父様は良くも悪くも誰にでも平等にチャンスを与える。酷い子供時代を過ごして来た人達や、心に大きな傷を負った冒険者達、親を無くした子供達にもね」


 で、その人達が連れてくるのよ。

 あなたのおかげで私は幸せになりました、新しい家族が出来ました、新しい命が誕生しましたって。

 病気の親に薬を買ってあげることが出来ました。故郷に支援物資を贈ることが出来ました。


 私、覚えてるの。

 みんなが泣きながらお父様にお礼を言ってる姿。困り顔で、自分は何もしていない、頑張ったのは君だよ、と一言添えるお父様の姿。


 その時思ったんだ。

 私は、私の家は商売を通して人を救うんだって。それってとっても素敵な事じゃない? 


 だから、考えたの。

 自分の幸せも大事だけど、それ以上に私は沢山の人の幸せを支えて行かなきゃいけないんだって。


「そう考えたらさ、中々断れなくって」


 自然と眠りにつくまで、シーナの話しをずっと聞いていた。

 彼女の人生観は、今まで私と接して来た面と違い、一切見せられなかった部分だった。

 子供が大人になる時、それは一言で済ますと「自立」。

 でも、子供が急に大人にならなくちゃならない場合、「覚悟」が必要になるのだ。

 シーナはもう、覚悟を決めている喋り方であった。

 

 彼女の放つ一言一言が、私の心を穿いてくる。

 散らばった破片を必死にかき集めるが、今の自分には到底組み立てられない銅像なのだ。


 

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